音響演出 笠松 広司さんと聴く ヤマハRX-A3010の"映画館の音" - 各界のトップランナーをお招きし、それぞれの得意分野に関連したホームシアター体験について語り合ってもらう、短期集中連載の第二回をお届けする。今回はヤマハの十八番とも言える“シネマDSP”が奏でる映画サラウンド音場が、どこまで製作者のイメージに近づいているかについて検証してみた。ゲストにお招きしたのは、ジブリ作品の劇場&BDサウンドを数多く手がける、デジタルサーカス代表、笠松広司さんだ。	 ホスト/構成 山本浩司

山本
笠松さんは、ジブリ作品やテレビ番組の音響演出を担当されているそうですね。今日はBD「借りぐらしのアリエッティ」を視聴しようと思っているんですが、本作のBD化の際には家庭用マスタリングを加えたと聞きました。
笠松
新たにマスタリングを行なっています。各チャンネルのミックス等はそのままですが、音のダイナミックレンジは調整しています。そういう意味ではミックスが変っているとも言えるかな。
山本
パッケージソフトの場合、観る人の環境をどのようなレベルに想定するかはとても難しいと思いますが、笠松さんはどのように考えているんでしょう?
笠松
確かに難しい問題です。今回のBDは、テレビのスピーカーで聴いても映画の世界がわかるように仕上げています。
山本
今日は、ヤマハのRX-A3010を使い、ホームシアターファンがどこまでのサラウンドを体験できるかを検証してみたいと思います。

< 視 聴 >

山本
まずは5.1chストレート再生でチャプター2~3を聴いていただきました。環境音がきわめて緻密に貼り付けられているという印象で、この場面でのローレベルの環境音は、テレビ内蔵スピーカーでは再生しきれないのでは、と心配になったくらいです。
笠松
(テレビ内蔵スピーカーでは)なかなか厳しいと思います。
山本
一方で、笠松さん達がここまで素晴らしい作品世界を作りだしているのなら、それを楽しまない手はない。HiVi読者が頑張って本格的なAVシステムを揃える意義はそこにあるなと確信しました。
笠松
本格的なホームシアター環境でBDを観ると、いつも精密な音だなぁと思ってしまうんです。われわれは普段は劇場という大きな空間での再生を意識していますので、LCRの定位のクリアーさに改めて驚かされました。
山本
今日使っているイクリプスのTDスピーカーはフルレンジタイプで、位相情報をきわめて正確に再現する製品だということも効いているかもしれません。
笠松
再生を始めてから90秒くらいは、あまりにも音が精密すぎたんじゃないかな、と感じたくらいでした(笑)。
山本
アリエッティが床下の世界から人間の台所へ出ていく時に、突然世界が広がる。彼女が初めて遭遇した人間の世界の衝撃、巨大さがたいへんうまく表現されていると思いました。まさしく、音響演出的なものが感じられました。
笠松
表に出た印象を音でも表現するというのは、ここではやはり必須でした。
山本
音楽のミックス、このタイミングで音楽が入る、というようなことも含めて、笠松さんに任されているんですか?
笠松
「~アリエッティ」については、ほぼその通りでした。
山本
ということはまさに笠松ワールドなんですね。ひとつお聞きしたいんですが、翔の部屋に入ってくるシーンで、柱時計が巨大な音で鳴っていますが、あの音はどう定位するのが正しいんですか?
笠松
冒頭は映像に映っている通りに左側で鳴っており、あとは途中から定位上気にならないところに配置してあります。カットが変るごとに音の位置が変化してしまうと気持ちが悪いので。
山本
A3010には自動音場補正機能が入っていて、笠松さんの視聴位置で一番正しい音が聴けるようになっています(右図:視聴位置にあわせて視聴環境を最適化するYPAO)。僕が自宅でこのシーンを聴いた時には、柱時計の音が頭の上に定位して、上から降ってくるように聴こえたんですけれど、今日の印象はいかがですか?
笠松
いい感じです。ここは、全チャンネルを使ってアンビエント感を出していたように記憶しています。

笠松広司 : 音響効果会社デジタルサーカスの代表。TV・映画・ラジオ・DVDなどの音響効果の仕事を手がける一方、音楽のプロデュースやフジテレビのバラエティ番組「めちゃ×2イケてるッ!」の効果を手がけるなど、活躍の場は広い。三鷹の森ジブリ美術館短編アニメーション作品「星をかった日」(’06)をきっかけに、ジブリ作品の音響演出に関わるようになった。最近は同社ブルーレイ・ディスクのホームシアター向けマスタリングも担当している。

当日はイクリプスTD712zMk2を5本とTD510を4本、TD725swを使った9.1chシステムを準備。120インチスクリーンで「借りぐらしのアリエッティ」を視聴していただきました。 ©2010 GNDHDDTW

[ 視聴位置にあわせて
視聴環境を最適化するYPAO ]

ヤマハの自動音場補正機能「YPAO」では、視聴位置に付属のマイクを設置し、測定をスタートさせるだけでスピーカーなどの設定をフルオートで理想のシアター環境にセットアップ。視聴位置から見た各スピーカーの位置関係を把握して、最適な音響特性に調整します。

 映画館の音のイメージは「ドラマ」モードが近い

山本
では続いて、シネマDSPというヤマハ独自の音場創成モードで聴いてもらいたいと思います。フロントプレゼンススピーカーとリアプレゼンススピーカーを加えた9.1chのHD3再生(右図:3次元の音場空間を創り出すHD3再生)で、再生プログラムは比較的ナチュラルな効果を狙った「ドラマ」モード(右図:ドラマモードの音場効果)を選んでみました。

< シネマDSP HD3「ドラマ」モードで視聴 >

笠松
5.1ch再生よりも、スクリーンに音が寄り添っている感じがします。ダイレクトモードだと音の定位が気になってしまったんですけれど、シネマDSPを掛けると、いい意味で音の定位がほぐれて、スクリーンの絵に集中することが出来るようになりました。スピーカーが“点”ではなくなって、さらに空間が広くなるので、劇場空間を再現するという意味でも効果が高いと思います。
山本
それがまさに、シネマDSPの狙いなんです。ただし、これはあくまでも機械による後処理なので、作品の作り手の皆さんは再生機器側で音場を変えることをどう考えているんでしょうか?
笠松
今日の場合は、シネマDSPを掛けた音の方が、僕が考えていた劇場のイメージに近かったんです。こういった後処理ならアリですね。
山本
それは嬉しい返事ですね。こうやってBDのロスレス音声をいいAVシステムで再生すると、音響演出の工夫などは、映画館よりもホームシアターシステムのほうがよく伝わってきますからね。
笠松
確かにダビングステージよりも厳格に聴こえる部分も多いですね。これはもう、下手なことはできないですね(笑)。

■ 今回視聴したBD

「 借りぐらしのアリエッティ」¥7,140 (ウォルト・ディズニーVWBS1237)

●片面二層/本編94分 ●カラー(16:9) ●映像圧縮方式:MPEG4-AVC ●収録音声:リニアPCM 2.0ch(日本語)、DTS-HDマスターオーディオ5.1ch(日本語)他 ●企画・脚本:宮崎駿 ●脚本:丹羽圭子 ●プロデューサー:鈴木敏夫 ●監督:米林宏昌 ●音響演出・整音:笠松広司

[ 3次元の音場空間を創り出す
HD3再生 ]

フロント側2台、リア側2台(合計4台)のプレゼンススピーカーを通常配置の5.1chスピーカーと組み合わせることで、3次元の音場空間を創り出すのがシネマDSP HD3(キュービック)再生です。9台のスピーカーによって、「高さ」(上下)方向の響きや広がりの忠実な再現を可能にします。

[ ドラマモードの音場効果 ]

「シネマDSP」のドラマモードでは、ドラマやコメディなどに幅広くマッチする落ち着いた響きを再現。セリフなども明瞭に楽しめる聴きやすい音場を創り出します。

※このコンテンツは、株式会社ステレオサウンドが発行する『月刊HiVi12月号(2011年11月17日発売)』 に掲載されたタイアップ記事をもとに再編集したものです。[ホスト/構成] AV評論家 山本浩司 [人物・視聴撮影] 相澤利一

  • Index 
  • 1. “音のチカラ” 大友 直人
  • 2. “映画館の音” 笠松 広司
  • 3. “声の浸透力” SHANTI