コンサートレポート

コンサートレポート

「音楽がヒラク未来~明日のワークショップを考える~」 仲道郁代が示した音楽の無限の可能性

2016年3月25日・26日(東京芸術劇場)

 ピアニスト、仲道郁代さんが企画構成を務めるフォーラム「音楽がヒラク未来~明日のワークショップを考える~」が25、26日の2日間、開かれました。演奏者、指導者や学生、文化施設関係者などが講演や討論、体験を通して音楽ワークショップのさらなる可能性を探り、音楽の力を改めて見つめ直す機会になりました。

 約100人が参加した体験会「ワークショップで繋がろう!」は、指導役の女性が前触れもなく、手を前に出したり、ブラブラ振ったりする動きから始まりました。少し不安げに、動作を真似し出す参加者たち。次第に、指をはじいたり、胸をドンドン叩いたりと、音やリズムが加わっていきます。指導役が音の速さや大きさを変えると、全員が同じタイミングで呼応する言葉なしのコミュニケーション。音楽の不思議な力に、人々があっという間に引き寄せられていきました。

 続いて、参加者には画用紙が1枚ずつ配られ、丸、三角、四角の図形いずれか一つを描くよう指示されます。「図形を描いた画用紙を使う」「全員が参加する」という条件のもと、7~12人のグループごとに一つの音楽を作る試みです。集まったバラバラの形を、どんなルールを決めて音楽に変換していくのか。途方に暮れる参加者たちですが、少しずつアイデアを出していきます。「三角の人は3拍子、四角の人は4拍子を刻んだらどうかな」「7人いるから、1音ずつ割り当てれば音階になりますよね」。初対面の参加者同士の距離も、音を出していくうちに縮まっていき、いつしか子供のようにはしゃいで音と戯れる様子が見てとれました。

 40分後の発表では、多彩な音楽がそろいました。あるグループは、三角を鼻や眉毛、丸を目に見立てて、一つの顔を作り上げていく過程を音楽に。「まーゆーゲジゲジ」(眉)、「フガフガ!」(鼻)などと、顔の部分ごとに色々な詞をあてはめて歌い、異なる言葉の抑揚が交錯していく面白さを表現していました。

 仲道さんは、「単純な記号を読み説いて立体的に音楽を作っていくことに知恵を絞っていただき、バラエティー豊かなものができました。同じ発想は一つとしてありませんでした」と総評し、拍手を送りました。また、「この人ってこういう面があったの、自分ってこうだったのという発見がおありだったと思います。みなさん、笑顔がいっぱいでした」とも語りました。

 フォーラムの締めくくりは、劇場入口から5階まで広がる吹き抜けの空間「アトリウム」でのコンサートです。別の催しを目的に訪れた人も足を止める開放的な広場。開幕を告げたのは、仲道さん、金子三勇士さん、8歳の渡邊晴菜さんのピアノ連弾による 「きらきら星」でした。

 楽しいメロディーにロマンチックなフレーズが織り込まれ、やがてエルガー「愛の挨拶」に変わってしまうアレンジは、親しみやすくもちょっと不思議なコンサートの象徴だったのでしょう。弾き終えた仲道さんが、「このコンサートは普通とは違います。何が起きるんでしょうか」と、いたずらっぽく語ると、観衆の後方からトランペットの高らかな音色が鳴り響きました。奏者が立つ中2階のスペースに観客の目が集中すると、今度は前方から低音のトロンボーン。さらに、次の曲では、観客として演奏に聴き入っていたはずの人たちが、歌い出したのです。舞台上ではなく周囲から音が聞こえるのは、あちこちから泉が湧き出てくるような新鮮な感覚。バラバラの場所にいた8人の合唱隊がピアノの方へ向かい、歌声が集約していく様子も興味深いものでした。

 バルトーク「ルーマニア舞曲」では、仲道さん、金子さんが交互に主旋律を弾いて刺激し合い、力強いうねりを生み出していました。3人の女性による 「珍しいキノコ舞踊団」もダンスで加わり、ひねくれたメロディーに合わせ、ガニ股になったり体をのけぞったりするユニークな動きを披露しました。

 最後は「さくらさくら」を、舞踊団の創作した振り付けで観客も一緒に踊る試みが行われました。両手で望遠鏡を作ったり、飛ぶように手をばたつかせたりする動きを、6拍子のジャズ風の編曲に乗せて踊ります。自由な発想の仲道流プログラムにより、演奏者と観客の垣根はなくなり、人々の心は解き放たれています。金管楽器や合唱など、これまでの出演者も勢ぞろいし、2階や5階から見下ろす観衆も踊りに参加し、広大なアトリウムが一つになって、曲を作り上げていきました。

 音楽は、楽しい。音楽は、自由。どこにでもあり、誰もが参加できる。そんな音楽の根源的な力を、再認識させられるフォーラムでした。

Text by 清川 仁