コンサートレポート

コンサートレポート

パスカル・ドゥヴァイヨン氏ピアノ・リサイタル 円熟したピアニズムで作品の本質に迫る

2016年5月27日(浜離宮朝日ホール)

 第6回チャイコフスキー国際コンクール・ピアノ部門(1978年)で第2位を受賞するなど数々の国際コンクールで輝かしい成績を収め、長年にわたって多彩な演奏活動を繰り広げ、ベルリン芸術大学で優れた人材を育成しているパスカル・ドゥヴァイヨン氏。近年は奏法や演奏解釈に関する数々の著作、夫人の村田理夏子さんとのデュオ活動、世界各地でのマスタークラスなどで知られています。5月27日、日本では20年ぶりとなるリサイタルが浜離宮朝日ホールで開催され、大きな話題を呼びました。

■プログラム
ドビュッシー:前奏曲 第1集より 1. デルフィの舞姫 3. 野を渡る風 4. 音と香りは夕暮れの大気に漂う 7. 西風の見たもの
シューベルト:さすらい人幻想曲 ハ長調 D.760 Op.15
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

 リサイタルの幕開けはドビュッシー《前奏曲 第1集》より4曲。舞姫たちの優雅な踊り、野原を吹き抜ける風、ボードレールの詩にインスピレーションを受けたメランコリックな音と香り、激しく吹き荒れる西風……、様々な情景がヤマハCFXの多彩な音色でイマジネーション豊かに表現されました。続くシューベルト《さすらい人幻想曲》では、歌曲《さすらい人》の主題がファンタジーあふれる変奏で展開され、後半は、リスト《ピアノ・ソナタ ロ短調》。ゲーテ『ファウスト』の登場人物、ファウスト、メフィスト、グレートヒェンそれぞれのキャラクターが織り成す壮大なドラマが、ドゥヴァイヨン氏の柔軟な指先から生まれるヤマハCFXの変幻自在なサウンドで鮮やかに描き出されました。感動に包まれた客席からの大きな拍手に応えて、アンコールはドビュッシー《前奏曲 第1集》より第6曲「雪の上の足跡」、《子供の領分》より「ゴリウォーグのケークウォーク」。ドビュッシーで始まったプログラムをドビュッシーで締めくくるお洒落な演出で、温かな余韻を残してリサイタルは幕を閉じました。

 リサイタルを振り返って、ドゥヴァイヨン氏はこのように語ってくださいました。

「美しいホール、素晴らしく準備された楽器、そして肌に感じる聴衆の緊張感……、演奏していて幸せでした。
 プログラムの中心に据えたリスト《ピアノ・ソナタ ロ短調》は巨大な建造物で、演奏する度にいつも何か新しい発見がありますが、駆け抜ける勇敢な息吹と作品の強さを生み出すことが最も大切だとあらためて感じました。解き放たれる感情の威力の前で、テクニックは必要かつ不可欠な“サポート”以上の何物でもありません。テクニックの披露という側面は完全に消し去り、すべての音に情熱を注ぎ込み、巨大なピアノの建造物を構築しなければなりません。リストはファウスト神話に取り憑かれていました。若いピアニストの方たちがこの作品に挑戦にするなら、ぜひファウスト交響曲からインスピレーションを得てほしいと思います。ピアノでオーケストレーションして、メフィストの嘲笑、ファウストの貪欲さ、グレートヒェンの純潔をダイナミックに表現することを私も目指しています。
 シューベルト《さすらい人幻想曲》は40年ぶりにステージで演奏したのですが、驚嘆をもって再びこの作品に向き合うことができました。場面ごとに新たな色彩、新たな性格が生まれ、夢から涙へ、優しさから痛みへととめどなく変化します。そしてそこには必ず踊りがあります。踊りが私たちの旅のお供をしてくれるのです。
 調律師さんの才能のおかげで、ヤマハCFXは私の望みに見事に反応してくれました。リストの力強い響き、炸裂するシューベルトにも動じることなく耐え、水彩画のようなドビュッシーの色合いも、詩心を失うことはありませんでした。ヤマハCFXを弾くことは、私にとって大きな喜びです!」

Text by 森岡 葉