コンサートレポート

コンサートレポート

岡原慎也氏ピアノリサイタル
シューベルトの揺れ動く心を見事に表現

2015年11月18日(ザ・カレッジ・オペラハウス)

関西の音楽界をリードし続けてきた大阪音楽大学は、今年(2015年)に創立100周年を迎えました。それを記念した特別演奏会のひとつとして「岡原慎也ピアノリサイタル」が開催されました。岡原氏は、同大学大学院ピアノ研究室の主任教授を務めていますが、ソロや室内楽など幅広い演奏活動も行っています。

■プログラム
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D.959
休憩
シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960

岡原氏はドイツ・リートにも造詣が深く、歌曲のパートナーとしても高い評価を受けており、その影響でシューベルトのピアノ作品にも取り組むようになったとか。ドイツ留学を経て、ドイツ各地で演奏活動を行った折にも、シューベルトを演奏してきたそうです。そんな思い入れのあるシューベルト作品だけで構成した今回のプログラムには、創立100周年を記念するリサイタルに深い意義をもたらそうとする意味合いもあったようです。

並べられた2作品はシューベルトの晩年に書かれたもの。とは言っても、彼は31歳の若さで亡くなっているので、身近に迫った死を振り払うかのような生への思いも書き込まれ、激しい感情の起伏もあります。それらが巧みな転調や微妙なニュアンスの中に表現されており、ピアニストの真の実力も問われる作品です。

1曲目のソナタ第20番は、オーケストラの響きを意識したような華麗さも感じさせる作品。岡原氏は甘さを排除しながらも、ヤマハCFXから多彩な音色と表情豊かな表現を引き出し、シューベルト作品の世界を見事に描きました。特筆すべきは、極美とも言えるピアニシモによって、シューベルトならではの「歌」を表現したこと。それはシューベルトの「心の歌」のようでもありました。

後半のソナタ第21番は、歌曲集「白鳥の歌」や「冬の旅」の世界観を思わせる、生きる苦しみと希望が交錯する音楽。岡原氏は、全体に渋めの音色を使い分けることで、シューベルトの揺れ動く心の襞をなぞっていきます。ここでも研ぎ澄まされたピアニシモによって弾かれるフレーズの数々が、聴き手の心にストレートに届きました。一方で、パワフルな和音の連打では、十分に楽器を鳴らします。シューベルト作品の魅力とともに、岡原氏の真の実力を味わうことができました。

盛大な拍手に応えてのアンコールもシューベルト作品で、「スケルツォ変ロ長調D.593」、そして「ピアノ・ソナタ第13番D.664から第2楽章」を披露。心に染み入るような岡原氏の
ピアニズムに会場の拍手は鳴りやみません。そこで、岡原氏はピアノの鍵盤の蓋を閉めて微笑み、ようやくお開きとなりました。

終演後、岡原氏は「万全に調律されたヤマハCFXのお陰で、自分の思うような音色や表現が実現できました。演奏家の思いをしっかりと受け止め、聴き手に伝えてくれる素晴らしい楽器ですね」とのコメントをくださいました。岡原氏の豊かな音楽性とともに、ピアノという楽器の魅力をも味わったリサイタルでした。

Text by 堀江昭朗