Web音遊人(みゅーじん)

山口正介さん Web音遊人

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

音楽教室に10年以上も通っている。正直いってこれほど長く続くとは思わなかった。サクソフォン演奏が趣味にまでなったのは、音楽好きの下地があったから、ということだけは分かっている。

音楽を積極的に聴きだしたのは、高校に入学したころからだろうか。それまでは自宅にあった両親のレコードを聴いていた。積極的というのは、自分のお小遣いでレコードを買い出したということです。
最初は映画のサウンドトラックだった。なぜかというと、僕は音楽ファンである前に映画ファンだったからなのだ。
映画『ウエスト・サイド物語』のサントラ盤は、まだ親が買ったものだった。愛聴したが、今にして思えば、レナード・バーンスタイン作曲のこのレコードは、入門編としてはかなり高度な音楽だったかもしれない。映画の製作者は、その国のトップクラスのセンスを持っている人が集結しているので、使用する楽曲も最先端のものだったり、ハイセンスな選曲だったりする。

その後、自分で買って気に入ったうちの1枚が、映画『ドクトル・ジバゴ』のサントラ盤だった。この『ドクトル・ジバゴ』によって東欧系の民俗音楽に初めて接した。

忘れがたいのは1967年公開のミケランジェロ・アントニオーニ監督作品『欲望』のサントラ盤だ。これは公開当時のロンドンの風俗を取り上げた作品で、サントラはハービー・ハンコックによるものだった。ハンコックがエレクトリック化した時で、純粋なジャズファンからは嫌われていたらしいが、僕としては初めての本格的なジャズアルバムだった。
なんと、このサントラでサクソフォンを担当していたのが、僕が大好きなサクソフォン奏者のフィル・ウッズだったのです。いま、音楽教室で彼のように演奏したいとの夢に挑戦中というのも、何かの縁でしょう。

そして映画の主人公が偶然、ライブハウスで目撃するヤードバーズの演奏にショックを受けた。ジェフ・ベックとジミー・ペイジがツインギターという珍しいライブだ。もしやと思って、レコード店でサイケデリックというコーナーを探すと、映画の中で彼らが演奏していた『ストロール・オン』という曲が入っているLPがあった。これが、僕が買った最初のロックアルバムとなった。
ビートルズを買わないで、ヤードバーズのLPを先に買ったというので、僕のことをたいへんな音楽通と思っている友人もいるが、なんのことはない、イギリスの映画が進んでいただけなのだ。僕は分かりもしないで、それを追いかけていた。

そうだ、ヤードバーズは初めて買ったサントラ盤じゃないLPだった。そして、それから、堰を切ったようにロックやフォークのLPを買いあさるようになるのだった。

山口正介映画『欲望』はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した傑作です。最近見直してみたら、あれっと思うところがありました。先にふれたライブハウスのシーンについて、もうひとこと。1960年代後半の映画であり、そのころの時代背景が面白いのですが、ライブハウスの客がなんと静かなことか。演奏中は並べた椅子に行儀よく座り、立ち見の客もほぼ気をつけ状態で全く動きません。ロックギター界の2大レジェンドが熱演しているというのに無反応とは……。コンサートなどで立ち上がり、キャーキャーするのが当たり前になったのはいつからなのでしょうかね。(写真は、ジャズに目覚めるきっかけの一枚となった『欲望』のサウンドトラック盤。その頃はCDではなく、LPでしたが)

■山口正介〔やまぐち・しょうすけ〕

作家。映画評論家。1950年生まれ。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野へ。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『ぼくの父はこうして死んだ』『江分利満家の崩壊』など。現在、『山口瞳 電子全集』(小学館)の解説を執筆中。2006年からヤマハ大人の音楽レッスンに通いはじめ、サクソフォンのレッスンに励んでいる。

 

特集

大江千里 さん- 今月の音遊人 

今月の音遊人

今月の音遊人:大江千里さん「バッハのインベンションには、ポップスやジャズに通じる要素もある気がするんです」

16638views

音楽ライターの眼

連載1[ジャズ事始め]ジャズの生い立ちには“文化”を知る手がかりが秘められている

6458views

【楽器探訪 Another Take】ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

楽器探訪 Anothertake

ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

9063views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

37811views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8067views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

歌うときは、体全部が楽器となるように/ボイストレーナーの仕事(前編)

23980views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

22967views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8357views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

10983views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

1569views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5462views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29028views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11313views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

18875views

音楽ライターの眼

ショパンのマズルカは、ピアニストにとって特別な意味をもつ魅力的な作品

19139views

オトノ仕事人

アーティストの個性を生かす演出で、音楽の魅力を視聴者に伝える/テレビの音楽番組をプロデュースする仕事

7911views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

10513views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

15824views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12127views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

7899views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

54653views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6458views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24733views