Web音遊人(みゅーじん)

ギター文化館

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

筑波山地の連なりが臨める田園地帯の中に建つギター文化館。この施設は1992年(平成4年)、スペインのフラメンコギタリストであるマヌエル・カーノのギターコレクションをすべて預かる形で誕生しました。19世紀につくられたアントニオ・デ・トーレスをはじめとする至宝も含まれたコレクションがなぜ日本にあるのか、ギター文化館のスタッフの方にお話をうかがいました。

ギター文化館

ギター文化館が建つ小高い丘からは、四季折々の景色が楽しめる

世界中に多くのファンを持つ、スペインが生んだフラメンコギターの巨匠、マヌエル・カーノ。彼は演奏活動と並行して歴史的なギターの蒐集にも興味を寄せていました。そのコレクションの核となっていたのが、カーノと同じスペイン生まれのアントニオ・デ・トーレスです。

19世紀に活躍したトーレスは、狭い場所でフラメンコ舞踊のために使われていたギターを大きなコンサートホールで演奏できる楽器に生まれ変わらせ、現代ギターの原型をつくり上げたギター製作者です。
スペインでは、そのトーレスを祖とした優れたギター製作者が次々に登場しました。そこでカーノは、それらスペインの至宝級ギターを製作系譜に則って集めることに意味を見出し、おそらく世界の誰も持ち得ていない18本を手元に置きました。そのすべてがギター文化館に収められています。

なぜスペインではなく遠く離れた日本にカーノ・コレクションがあるのか?
「会員が中心となって企画・運営を行う音楽鑑賞団体の東京労音がカーノ氏の公演を日本で実現させたのがきっかけです。日本から遠く離れたスペインに住む自分に声をかけてくれたことをカーノ氏はとてもよろこんだそうです。東京労音のスタッフは世界中に飛び、各地の音楽家と直にコンタクトするよう努めていますが、スペインのグラナダに暮らすカーノ氏を訪ねたときは、氏の手配で閉館後のアルハンブラ宮殿に招かれ、『アルハンブラの思い出』を聴かせてもらいました。そんな交流が縁で、カーノ氏のコレクションを預かることになった。いわばこの建物は、カーノ・コレクションのためにつくられたのです」

日本への寄贈に当たり、カーノはこんなリクエストを出したそうです。18本すべてを収蔵すること、弾かれない状態での保存はしないこと。実は、貴重なギターゆえ方々から引き合いがあったようですが、系譜としてのコレクションが散り散りになることも、ガラスケースの奥でただ飾られるのもカーノは嫌ったと言います。彼は1990年に病没しましたが、その2年後、願いをすべて叶える形でギター文化館が完成しました。

マヌエル・カーノ

マヌエル・カーノ(スペイン:1925~1990)

カーノの遺志を引き継いだということは、今も19世紀のギターの響きがここで聴けるということになります。また、世界中の名立たる演奏家が日本に来るたびここを訪れ、こぞってトーレスを弾いていくといいます。
「スペイン人のスサナ・プリエトとギリシャ人のアレクシス・ムズラキスによる「デュオ・メリス」が来たときは印象的でした。彼らはここでコンサートを終えた後、カーノ・コレクションの部屋に入ったきりなかなか出てこなかったのです。やっぱり『アルハンブラの思い出』を弾いていましたよ。コンサートの演目になかったんですけどね」
彼らのような超一流でもトーレスに触れる機会はまずないから、とスタッフの方は微笑みます。

プロギタリストさえ虜にする歴史的ギターを保管しながら、なぜ博物館ではなく文化館を名乗ったのか、その疑問には次のページで迫ります。

>続きをみる

 

特集

今月の音遊人:H ZETT Mさん

今月の音遊人

今月の音遊人:H ZETT Mさん「音楽は目に見えないですが、その存在感たるやすごいなと思います」

29904views

ホーカン・ハーデンベルガー

音楽ライターの眼

「地上で最高のトランペット奏者」と評されるその演奏に恍惚とする/ホーカン・ハーデンベルガー トランペット・リサイタル

11727views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

5725views

楽器のあれこれQ&A

ウクレレを始めてみたい!初心者が知りたいあれこれ5つ

4258views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

16816views

オトノ仕事人

コンピュータを駆使して、ステージのサウンドをデザインする/ライブマニピュレーターの仕事

3589views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11148views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10442views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

23415views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

11258views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

6903views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28990views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12033views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

29719views

METライブビューイング

音楽ライターの眼

METライブビューイング 2018‐19シーズン開幕

3842views

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

オトノ仕事人

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

16169views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6280views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

11563views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11148views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6557views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

63588views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

2863views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24718views