【Z BLOG】三木 俊雄:「ユキ・アリマサ “Dimensions”」

僕は大学でジャズハーモニーを教えて15年くらいになる。
最初はテキストを使わず、頭の中で組み立てたものだけで授業をしていた。大学のジャズカリキュラムは始まったばかりで、生徒のレベルも進み具合もまちまちだったからだ。
そのうち学校ではあらかじめ各回の授業内容を記す、いわゆるシラバスを作成することになり、それに合わせて自作のテキストを作り毎年少しずつ改訂を重ねている。
自分で分かっているという事とそれを分からない人に伝えるのはまったく次元の違う問題だ。
おそらくこんな所をつついてくる学生はいないだろう、と思いながらも想定される問答を考え、そこから自分の理解の足りなさ、視野の狭さを改めて知った。
そんな時、いつも相談に乗っていただくのが、バークリーの先輩でもあり、洗足音大で教鞭をとっているピアニスト、ユキ・アリマサさん。
彼の説明で何度も目の前の霧がスーッと晴れていくのを経験した。

その彼が発表した新しいアルバム、この音楽がまた、僕の感じていた音楽についてのモヤモヤを晴らしてくれたように思う。

“Dimensions” と名付けられたこのアルバムは、バッハ、ベートーベン、ドビュッシーなど、いずれもよく知られたクラシックのピアノ曲を元に彼がインプロバイズしたもの。
しかし、よくある「クラシックの名曲をジャズ風に」というものではまったく無い。あるいは「作曲者が現代に生きていたらおそらくこう弾いたに違いない」というものでもない。
ユキ・アリマサというピアニストがその曲を通して引き出、また彼自身が引き出された音楽。
これを聴いて、クラシック、特にピアノ曲を聴くときにいつも無意識に感じていたのが「ああ、この続きが聴きたいのに…」というものだったと気付かされた。

もう100年以上も前に交響曲はマーラーを、ピアノ曲はドビュッシー、ラヴェルを最後に「クラシック」は終了しそれは「現代音楽」へと移っていった。しかしそこには断絶があり、その中に僕の聴きたかった「クラシックの続き」を見出すのは困難だった。
そしてその僕の聴きたかった「続き」がここにあった。彼がスルスルと紡ぎ出す音の数々はまさに僕が聴きたかったもの。

おそらくスタジオではなくホールで録ったと思われる録音も透明感と奥行きがあり、何度聴いても飽きない。
収録時間は45分と比較的短く、今度はこの「続き」が聴きたくなる。
素晴らしいアルバムです。

http://www.yukiarimasa.com/jp/