三木 俊雄

【Z BLOG】三木 俊雄:YTS-82ZASP その2

前回に引き続き、11/15に発売された82z ASPについて。

前回の記事
YTS-82ZASP その1

おそらく一番目を惹くのはこの色だろう。よく「特殊な金属なのですか?」と聞かれることがあるが、単に着色されたラッカーで従来のゴールドラッカーと音色その他は変わらない。
非常にユニークな、特に照明が当たるととても綺麗な色ではあるが、僕の個人的な意見としてはその見た目にあまり引っ張られてないでほしい、と思う。
この製品に施されたものはキーレイアウト、部品の形状やその設置方法の変更といった注意深く見比べればわかるものから、内部の溶接痕の除去や部品の軽量化など外からでは分からないものまである。しかし販売サイドとしてはもっとわかりやすい「限定感」を、という要請もあったようだ。
もともとこの「アンバーラッカー」はアメリカ向け輸出仕様としてあったものなので、ならばそれをこのモデルに採用しようということになった。

価格については正直言ってちょっとビックリしている。特別高価な材料などは使っていない。しかし、このモデルは支柱の立て方からオクターブ・キーのレイアウトまで違うので、一から別のラインで組み立てられる。つまり通常より一手間も二手間もかかっているという事だろう

もちろんこのモデルも海外でのモニター調査を行なった。僕の友達のプレーヤーも何人か参加したが、評判は非常に良い。「あれ、いつ出るんだ?」とよく聞かれる。

いよいよ製品化され、販売スケジュールにそって楽器店向けの新製品発表会がある。
サックス以外にも新製品はそれぞれのプレーヤーが従来品と新製品を吹き比べるというデモンストレーションをするのだが、「他の楽器にくらべて明らかに違いがわかって、正直言ってビックリしました」という声を多数頂いた。

随分前に高級オーディオの中古品店を冷やかしで覗いたことがある。
いわゆるハイエンド・ピュアオーディオといわれるものがたいそうな値段だというのは知っていたが、そこに陳列されていた中古品のスピーカーケーブルが僕の持っているオーディオセット一式よりずっと高いのにはビックリした。
「マニアの方にはこの違いが分かるんでしょうね…」と店員さんに言うと、かなりムッとした表情で「いえ、どなたが聴かれてもハッキリとわかります!」と言った。
僕がその違いを聴き分けことができるかどうかはさて置き、店員さんの言わんとする気持ちはよく分かる。
この楽器を吹けば、従来品との違いは必ず感じられるはずだと、僕も思う。

この開発インタビューもかなり踏み込んだ内容となっています。https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=745284568997090&id=484419495083600

【Z BLOG】三木 俊雄:YTS-82ZASP その1

いよいよ82Zの限定モデル、YTS-82ZASP が発売となった。
ASPとは”Atelier Special”の意であり、このモデルは銀座にあるヤマハ・アトリエ東京5階の工房でリペアマンの中澤春行さんと約7年に及ぶ82Zに加えた試行錯誤がベースとなっている。
いつもお世話になっている中澤さんは、こんな感じの方。

https://jp.yamaha.com/sp/blog/z_express/5720/

よく「これは三木モデルということですね」と言われるが、それを言うならこれは「中澤モデル」だ。
しかしいずれにせよ、原則ヤマハはアーティストのシグネチャーモデルは作っていない。
しかし世界的大企業であるヤマハが一介のジャズミュージシャンの意見を取り入れ、売り上げがアルト中心の動きが多い中、テナーにここまで踏み込んで生産、販売に漕ぎ着けたのは、社内でも驚きとのこと。まさに山が動いた、という感じだ。その点は非常に感謝している。

この中澤さんと僕がアイディアを出し合って82Zに施した改造はこちらを読んでいただきたい。

https://jp.yamaha.com/sp/blog/z_express/5795/

https://jp.yamaha.com/sp/blog/z_express/5821/

https://jp.yamaha.com/sp/blog/z_express/5844/

僕の改造ヤマハを吹いたプレーヤーは皆一様に驚いていたが、結局「でもこれ、売ってないんだよね…」
マーク・ターナーも「なぜこれを売らないだ?みんなが求めているのはコレだよ!」と言っていた。

しかしそこはやはり大企業のヤマハ。「はいそうですね」と簡単にはいかない。これらの改造にはかなり僕の個人的な好みや、手の大きさなど身体的な条件によるものがあるため、その後海外を含む大掛かりなモニター試験を経て2013年のモデルチェンジに約4割ほどが反映された。
そして今回は限定モデルということで概ね8割ほど踏み込んで反映され、また僕の楽器には施すことのできなかった重要な変更もいくつかある。

(続く)

【Z BLOG】三木 俊雄:Jeff Coffin

彼とは数年前にもワークショップの通訳を務め久しぶりの再会。
日本人の奥さんを持ち、その時はプライベートな来日だったが、今回はダダリオ(D’Addrio)のマウスピースとリードのプロモーションを兼ねての来日で前回書いた目黒ブルースアレイ・ジャパンでのZ Express Big Bandのゲスト、そして翌日の三宿にある国立音楽院でのワークショップ&セッションでご一緒した。

ちょうど3年前の今頃、Gordon GoodwinのBig Phat Bandなどで活躍するアルト奏者Kevin Garrenがアルトのマウスピースのプロモーションで来日した。その時の記事はこちら。

https://jp.yamaha.com/sp/blog/z_express/6033/
https://jp.yamaha.com/sp/blog/z_express/6069/

世界最大のリード・メーカーであるリコ(Rico)がダダリオの傘下に入り、コンピュータ制御による100%マシンメイドという画期的なマウスピースを発表したのだったが、やはりサックスの世界はアルトが中心であり、テナーはまだ時間がかかるとの話だったが、今回ようやくテナーのマウスピースが発表されたのだ。

そしてこのテナーのマウスピースの開発設計に携わったのがジェフ。
彼が長年使用していたグレゴリー(Freddie Gregory)のマウスピースを元に作られた。

ジェフはテネシー州ナッシュビルを拠点に活動するサックス奏者。
ナッシュビルといえば我々にとってはカントリー&ウェスタンのイメージが強いが、音楽産業の経済規模としてはニューヨークに次ぐアメリカ第2位の規模を誇り「ミュージック・シティー」のニックネームを持つ。
近年はジャズ、フュージョン系のミュージシャンも多く移り住みシーンは非常に活性化しているという。

明るく大らかで、非常に知的な人物。教え方も実に上手いし、こういう人の通訳はとてもやりやすい。
アメリカでは確固たる地位を築いている彼だが、日本でももっと知られてほしいテナープレーヤーだ。

【Z BLOG】三木 俊雄:フェイスブックおじさん

ヤマハ・アーティスト(ヤマハの楽器を使っているプレーヤー)によって結成されたビッグバンド、Z Express Big Band。旗揚げ公演の時には招待状が届いた。
「あぁ、そうなんだ…」
実は数年前、まだパーマネントなバンドとして活動する前は僕もメンバーとして何度か参加していたのだ。
最近は若手の台頭もめざましく、もうおじさんはお呼びでないのだなぁ、と思っていたら3回目の今回はゲスト枠になっていた。

リーダーでトロンボーンの三塚君は20年ほど前にアレンジャーの内堀勝さんのビッグバンドで一緒だった旧知の仲。なのに今回久しぶりに打ち合わせのメールをもらったら「お忙しいところ大変恐縮ではありますが…」などと随分他人行儀ではないか。月日が経つというのはこういう事なのか、などとシミジミと思う。

このバンドにはこのZブログでもお馴染みの執筆者、トロンボーンのフジイ君、朝里君、トランペットの古屋さん、サックスの河村さんがいる。
みなさんそれぞれ写真を交えた、いわゆる楽しいブログを載せている。
それにひきかえ僕はと言えば…

最近は若者は「フェイスブック離れ」が著しいというのを聞いたことがある。ネガティヴな議論を延々と続けるフェイスブックに辟易した若者、特に若い女性はポジティブなメッセージを写真で発信するインスタグラムに移行している、というもの。そしてそういう若い女の子はフェイスブックで理屈っぽい長文を投稿するのを「フェイスブックおじさん」と呼び敬遠するって、おいコラ!オレのことじゃねーかよ!
などと叫んでしまいそうになる訳です。

本番の楽屋でも「初めまして、いつもZブログとフェイスブック読んでます!」
あぁ、この若者たちにも面倒臭さい「フェイスブックおじさん」と思われてるんだろうな…などと思いつつ、「今日は有難うございました」などと皆んなすごくナイスにしてくれる。あぁ、これも月日が経つということなんですね…

そしてこの日のピアノの佐久間さんは、何と昔同じアパートに住んでいたことが判明!彼女は僕の上の階に住んでいて、一度干していた洗濯物を僕のベランダに落として取りに来たことがあったのだ!いやぁ、世の中は狭い。といってもこれも15年ほども前の話。

自分で言うのもナンですが、そんなに面倒臭さい人間ではないつもりなので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。

【Z BLOG】三木 俊雄:健康第一

エリック・アレキサンダーとの「2テナー」コンサート、無事終了。

前日に都内某所にてリハーサル。
ツアーマネージャーによると前の晩は博多ラーメン店で替え玉をした上にスープを飲み干し、更に新たにラーメン注文し完食したとか。
彼は熱烈な野球ファンで、「トシオはどこのファンだ?」
僕は残念ながらセ・リーグとパ・リーグの違いもわからないくらいだと言うと、
「それはいけないな。音楽以外の楽しみを持つべきだ」

リハーサルは僕、エリック、そしてピアノの椎名豊のオリジナルを持ち寄り、後はスタンダードをアレンジしたものを練習することになっていたがエリックは結局譜面を持って来ず、口頭で説明。彼がニューヨークに来る前に活動していたシカゴでは常にそうやって音楽をやってきたとのこと。
夕方から夜までスタジオは5時間取ってあったが、非常にスムースに運び結局2時間も掛からず終了。椎名トリオのスイング感にエリックも大喜び。

翌日の銀座ヤマハホールは生憎の雨の中、沢山のお客様にお越し頂き、一階は満席。とても良いコンサートだった。
エリックはコンサート終了後、チアリーダーみたいなコスチュームのウェイトレスが踊りながらサービスするダイニングバー「フーターズ」に行き御満悦の様子をFacebook にアップしている(笑)

https://www.facebook.com/eric.alexander.94009/posts/10155782073065477

さて一日置いて21日に浜松に前乗り。エリックは暴飲暴食がたたってか腹痛を訴える。念のため病院で診てもらったが大事には至らずホットするものの本人は少し元気がない。
コンサート当日を迎えようやく体調も戻ったようだが「お酒はしばらく控えるよ」とのこと。
こちらも良いコンサートでした。

無事コンサートを終え、台風が来る直前に東京に戻ることが出来ました。
僕もエリックも、もう決して若くはない。何はともあれ健康第一ですね。

【Z BLOG】三木 俊雄:リードあれこれ その2

リードの扱いには各自それぞれのやり方があるもの。

前回はこちら

僕はリードの状態は浸水による最初の変化以降はなるべく同じ状態にする方が良いのではないかと思っているので、リードの口に入る部分が常に浸水している状態をキープするようにしている。そしてそのリードを捨てるまで決して乾燥させない。

その方法としてよく小さなビンに水を満たしその中にリードをつけて保管するジャズプレーヤーは結構多い。
しかしこの方式の欠点はリードの口に入らない部分、すなわちテーブルを含めた下2/3の部分の浸水、乾燥が繰り返されることだ。
天然素材であるケーンのリードは浸水、乾燥により膨張、収縮し、時には反ることもある。特にマウスピースとの精密な接地が必要なテーブル部分の伸縮は問題だ。

というわけで、僕は小さなビンに底から5mmほど水を入れそこにリードの先端だけだ浸水するようにして蓋を閉め、冷蔵庫で保管している。水はなるべく毎日替える。
この方法では複数のリードを回して使うことができ、吹奏感はかなり安定する。と言ってもせいぜい2、3枚だが、特に今使っているダダリオのレゼルブはこの方法が合っているように思う。
ただし、この方法の問題は持ち運びだ。リードの先端のみを浸水させるためにはそのビンを横に倒すことは出来ない。
デビッド・サンボーンはこれに関し、やや大きめのビンを6つ用意し、それ専用の手提げの保冷バッグに入れて持ち運んでいる。このことにより、バッグの中でビンは倒れることなく、リードは常に先端部分のみ浸水している状態をキープしている。
僕はここまではやれないので移動はマウスピースにつけて穴の塞いだキャップをはめて、水を含ませたティッシュを差し込み口に詰めている。

また、リードローテーション派の主張するところによれば一枚のリードを連続して使うのは、そのリードしか吹けなくなるので良くない、ということだが、僕は普段から音楽や演奏のタイプによってマウスピースを替えることもなく、1つのセッティングでやっているので、いろいろなリードを吹けなければならない、というのがよくわからない。
しかし現実に多くのクラシック奏者はローテーション方式をとっているので、僕の知らない特別なメリットが多分あるのだろう。今度よく聞いてみようと思う。

【Z BLOG】三木 俊雄:リードあれこれ その1

たまにはサックスに関係することでも書いてみようと思う。
今回はリード(ケーン)の扱いについて。

リードの扱いについて大きく別けて2つの流派がある。
1つは一枚のリードをずっと最後まで使い続けるもので、ジャズ奏者にはわりと多い。僕もこちら。
もう1つは複数のリードをローテーションさせて使うもので殆んどのクラシック奏者はこちらのようだ。

僕もこのローテーション方式を何度かトライしたのだがどうも上手くいかなかった。どれがどのリードだったかを判別するために◯とか△とかのマークを付けておくのだが、いざ後日吹いてみると全然違う印象だったりもする。そしてリードケース入れておいたものにカビが生えて全てダメになったこともある。
またそうでなくてもこの方法にはいくつかの疑問がある。

リードの状態が最も変化するのは水分を含ませた最初の段階だというのはおそらく多くの人が同意することだろう。
ローテーション方式の最も極端な流派は水分がしみ込まない数分のうちにリードを次々と替える、というもの。しかしこれは、少なくとも僕にとってはあまり現実的ではない。
多くのローテーション派の人は浸水、乾燥を何度も繰り返していて、それを「リードを育てる」と呼んでもいるようだ。そうやって「育てられた」リードは一回の使用時間を短くすれば数年も持つという。

僕はこれがどうも上手くいかなかった。一度浸水したものを乾かし、また水を含ませても決して元どおりにはならないような気がする。
多くの場合、浸水したものを乾燥させるとリードの先端が波打つ形になる。おそらくこれはリードの繊維の間の埋めていたパルプ質が失われ、あるいは変質し、その密度が均一でなくなるからだろう。
これを再び浸水させると波打ちは消えるが、いわゆるリードのコシは弱くなる。抵抗感がなくなり吹奏感は軽くなったわりには鼻が詰まったような響きになることが多い。
一般にクラシック奏者はコシの強いリードは使う傾向にあるので、ひょっとするとこの適度にコシの失われた状態の安定化をもって「育てる」としているのかもしれない。
黒いリードケースを開け、ずらりと並んだリードの中から恭しく一枚を取り出しマウスピースにセットする姿はいかにもカッコイイものだ。
(続く)

写真は巨匠、雲井雅人さんのリードケース。
今年の暮れに10年ぶりのソロアルバム「トーン・スタディーズ」をCAFUA レコード
http://www.cafua.comよりリリースされます。
今年亡くなったD.マスランカのオリジナル曲集。
乞うご期待。

【Z BLOG】三木 俊雄:”2Tenors”

ジャズミュージシャンのコンテストとしてよく知られたものに「セロニアス・モンク・コンペティション」がある。
毎年選考楽器が代わり、初回の1987年はピアノ部門で優勝者はマーカス・ロバーツだった。
当時彼はまったくの無名だったが、これを機にウィントン・マーサリスのグループに加入、世界的ピアニストとして知られるようになった。

初めてサックス部門が開催されたのは1991年の第五回。
優勝者はジョシュア・レッドマン。
第2位はエリック・アレキサンダー、第3位はクリス・ポッターとティム・ワーフィールド。
この後もシェーマス・ブレイクやジョン・エリスなど、いずれも現在では押しも押されぬプレーヤー達が選出されているが、特に初回のジョシュア、エリック、クリスという3人のインパクトは非常に大きいものだった。

中でも特に日本での人気が高いのがエリック・アレキサンダー。
テナーサックスの最前線といえば、超絶テクニックにシームレスなフラジオ、複雑なハーモニーに変拍子といったものがここ20年程の傾向である。
その中にあってエリックはデクスター・ゴードン〜ジョージ・コールマンの延長線上にある、比較的オーソドックスでストレートアヘッドなスタイルの持ち主だ。

彼とは雑誌の対談で何度か一緒になったことがあり、その辺りの話もよく聞いた。

彼はニューヨークに出て来る前はシカゴで活動していた。シカゴは かれにとって”Home feeling”のあるReal American city”であり、それと比較してニューヨークは “Frightening”(恐ろしい)だと。
当時のシカゴにはオルガンジャズに代表されるような伝統が残っており、「ミュージシャンだけではなく、誰でも楽しめるジャズがあった」という。
そういう経験が彼のスタイルを培っており、またそれが日本のファンにも大いに受け入れられている理由でもある。

さて、そんな彼と今回2テナーでコンサートをやることになりました。
コルトレーン没後50年にあたる今年わけですが、それに因んでかはさて置いて、「現代のテナーマッドネス」ということです(汗)

10/19(木) 銀座ヤマハホール
詳細はこちら→https://www.yamahaginza.com/hall/event/2941

10/22(日) 浜松アクト大ホール
詳細はこちら→http://hamamatsujazzweek.com/2017/01/

椎名豊(p) パット・グリン(b) 広瀬潤次(ds) の鉄壁のトリオにエリック・アレキサンダーを迎えてのこのコンサート。僕自身、いささか “Frightening”な心持ちではありますが、非常に楽しみにしております。
皆様、是非お越しくださいませ。

【Z BLOG】三木 俊雄:職業としてのジャズミュージシャン

僕の教えている大学の高校生向けの学校案内、いわゆるオープンキャンパスでは参加者のアンケートを取る。おそらくどこの大学でも似たようなものであるだろうが、その中の質問に将来の希望進路、職種を尋ねるものがある。

僕が教え始めた15年ほど前は「ジャズミュージシャン」あるいは漠然と「プロミュージシャン」というのが多かったが、やがて「スタジオミュージシャン」「J-Popのツアーサポート」と書く参加者が多くなってきた。
またつい先日もクラシックのサックス専攻の学生が「スタジオミュージシャンになるためにはどうすれば良いのでしょうか」と質問してきた。

さすが最近の若者は現実的で堅実な将来設計をしているものだなと思ったのだが、さて本当にそうだろうか?

ジャズというと食べて行けない音楽の代名詞のように思われてきたが、周りを見渡してみれば、広い意味でのジャズミュージシャンは音楽の職業として最も長期的に食べて行けてるのではないだろうか。どうもそんな気がする。

個人的には何もJ-Popや歌謡曲のバックをやりたくて楽器を始めた訳ではなく、また周りの仲間の多くもそうだった。しかし当然ながらジャズだけで生計を立てていくのは難しく、いろいろな仕事を実際にやってみて、それまで外から見ていたのでは分からなかった面白さ、奥深さを感じ、そちらに軸足を置いて活動している、というプレーヤーは多い。

そもそも昔からあらゆる商業音楽の現場を担ってきたのはジャズミュージシャンだった。今でも多くのスタジオミュージシャン、JPopプロデューサーはそのキャリアをジャズミュージシャンとしてスタートさせている方々が非常に多い。
それはおそらく彼らが書かれている音楽と書かれていない音楽の両方を演奏し、また作ることできるからだろう。これは一つの特殊技能であり、最近ではそれを養成する学校も多い。
その意味で音楽の職業としてのジャズミュージシャンという選択と、そのためのスキルを身につけるのはかなり現実的で合理的と言える。

「あたし、アイドルになりたいの」
「ゆ、許さん!」
「俺はロックバンドでメジャーデビューするぜ」
「何をバカなことを。現実を見ろ!」
「僕はジャズミュージシャンになろうと思うんだけど」
「そうか、頑張ってバークリーのスカラーシップを取れ」

親子でこんなやりとりがなされるようになってくるような気がする。

【Z BLOG】三木 俊雄:ストイックなケチ

まだ二十代だった頃、大変お世話になった先輩ミュージシャンがいた。
プレーはもちろん素晴らしいのだが、とにかく女性にモテた。確かに同性の僕から見ても実にカッコイイと思った。
彼は独身で、当時随分長く付き合っている女性がいたので、何かの話の流れで「結婚はしないのですか?」と聞いたことがあった。

「結婚?無いな。自分の人生は自分のために使いたいだろ?」

ミュージシャンの多くはこの「自分の人生は自分のために使いたい」という考えをその根底に持っているように思う。
これは人生における自己の理想を追求し、そのための向上心と純粋さを保ち続ける、というアーティスティックでストイックな面とともに、利己的で人に何かを与える、あるいは分かち合うことのできないケチな面を併せ持つ。
まさにミュージシャンにはこの様な人間が多い。そしておそらく僕もその一人だと思う。

おそらくミュージシャンに限らず、こう言う類の人は多くいる。ちょっと極端なのになると、テレビでたまに見る「人里離れた僻地での自給自足」もそんな感じがするし、広い意味では「ミニマリスト」や「断捨離」「電気を使わない生活」などもそうだろう。つまり個人の主義主張としては理解し共感できるものの、皆んながそれをやり出したら世の中は成り立たなくってしまう、というもの。
したがってそれが許されるのはごく限られた人達であり、まさにそれゆえ「アーティスティックでストイックなライフスタイル」というわけだ。
当然周りからの風当たりは強くなる。そしてそれは概ね善意によるものだ。

僕も独身が長かったので、その頃はいろいろなアドバイスを頂いた。
結婚をした人は「結婚はいいぞ」と言っていたし、離婚をして独身に戻った人は「焦らない方がいい」。
結婚したらしたで子供を持つ人は「なるべく早く子供を作れ」また「一人っ子はかわいそうだ。二人以上がいいぞ」と言う。そしてそのどれもがそれぞれ一定の説得力を持っていた。
つまり皆さん自分の選んだ、あるいは置かれた状況に幸せを感じているようだ。これはとてもいいことだと思う。ただその形態は一つではない。

なので、たとえ自分の経験から導き出されたものであっても、こういう話はあまりしないように心掛けている。ごく一部の親しい人を除いては。