Web音遊人(みゅーじん)

UKパンク・ロックの伝説ザ・ダムドがオリジナル編成で2021年に復活

ザ・ダムドが2021年7月、オリジナル・ラインアップで英国ツアーを行うことが発表された。

1976年10月にシングル『ニュー・ローズ』でデビュー、イギリスのパンク・ロック・バンドとしては初めてレコードを発表したのがザ・ダムドだった。彼らはまた1977年3月から、イギリスのパンク・ロック・バンドとして初めてアメリカでツアーを行ったことでも知られている。

セックス・ピストルズやザ・クラッシュと並んでUKパンクのオリジネイターとして敬愛されるザ・ダムド。ファースト・アルバム『地獄に堕ちた野郎ども』(1977)は時代を超えて聴かれる名盤であり、『ニュー・ローズ』『ニート・ニート・ニート』は永遠のパンク・クラシックスだ。

吸血鬼ヴィジュアルのデイヴ・ヴァニアン(ヴォーカル)と赤ベレー帽とユーモラスな言行のキャプテン・センシブル(ベース、ギター)を軸に、ザ・ダムドはメンバー交替を繰り返してきた。ポール・グレイ(ベース)やピンチ(ドラムス)らもバンドに長く在籍、“サマーソニック2019”でも呼吸の合ったエキサイティングなステージを披露したが、熱心なファンが思い描くザ・ダムド像といえばやはりラット・スケイビーズ(ドラムス)とブライアン・ジェイムズ(ギター)を含むオリジナル・ラインアップではなかろうか。

『地獄に堕ちた野郎ども』に続くセカンド・アルバム『ミュージック・フォー・プレジャー』(1977)を発表した後のバンド解散を経て、オリジナル編成は崩壊。一時は再合体を果たすものの、ブライアンは1991年、ラットは1996年に再び離脱している。

映像ドキュメンタリー作品『地獄に堕ちた野郎ども』(2015)では、2人の脱退にまつわるエピソードが語られている。ガンズ&ローゼズが『ニュー・ローズ』をカヴァーしたことで作曲者のブライアン1人に多額の印税が入ったことは他のメンバーにとって面白くなかったようで、キャプテンがライヴ「次はガンズ&ローゼズの曲をやります〜」とおちょくって紹介。ブライアンがブチ切れてギターを放り出す映像も見ることが可能だ。さらに同作品ではキャプテンとラットの印税を巡る確執にも触れられている。

そんな人間関係のもつれゆえ、オリジナル・ラインアップの復活は困難かと思われたが、それが実現することになったのである。

2020年10月21日にはロンドンで4人が揃って記者会見を行い、再結成について語っている。それによると彼らは新型コロナウィルスの流行以前から話し合っていたとのこと。「タイミング的には良くない時期かも」と躊躇しながらも、「やらないと後悔するかも知れない」とツアーを発表したのだという。

オリジナル・ラインアップによるツアーは“1回のみ”。まず英国ツアー4公演が発表され、ロンドンでの追加公演も行われることになった。本記事の時点ではイギリス以外の日程は発表されていない。

キャプテンは記者会見で「まだリハーサルはしていない」と発言しているが、ライヴで演奏する予定の曲について「45年前と同じ」と語っている。1990年代初頭の再結成では『地獄に堕ちた野郎ども』からのナンバーを中心に、シングルB面でザ・ビートルズのカヴァー『ヘルプ!』、『マシンガン・エチケット』(1979)に収録されたMC5のカヴァー『ルッキング・アット・ユー』などもプレイされたが、今回はどうなるだろうか。

ブライアンが参加したもう1枚のアルバムである『ミュージック・フォー・プレジャー』からの曲にも期待したい。ピンク・フロイドのニック・メイスンがプロデュースした『ミュージック・フォー・プレジャー』から、例えば1977年にしてポスト・パンクの領域に踏み込んでしまった『ユー・ノウ』などもステージで盛り上がりそうだ。

それ以外にも、あの曲もこの曲も聴きたい。UKパンク・ロックの大ベテランの前では、我々はパンク少年少女になってしまう。

2021年7月の時点で世界がどうなっているかは神のみぞ知る。だが、“1回のみ”のツアーが可能であれば、レコード・デビュー45周年という節目となる2021年、ぜひ日本公演も行っていただきたいものだ。

来るべき日が来たら、我々はマスクの代わりに『ニート・ニート・ニート』ジャケットの紙袋を被って、UKパンク・ロックの生けるレジェンドを迎えよう。

■インフォメーション

DVD/Blu-ray『地獄に堕ちた野郎ども』

発売元:キングレコード
発売日:2020年3月11日
価格:1,900円(DVD)/2,500円(Blu-ray)※いずれも税抜
詳細はこちら
オフィシャルサイトはこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」

3981views

マルク=アンドレ・アムラン

音楽ライターの眼

その夜のピアノは、聴衆を“別世界”へといざなった/マルク=アンドレ・アムラン ピアノ・リサイタル

4692views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

8589views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!トランペットをうまく鳴らすコツと練習方法

114661views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11120views

オトノ仕事人

新たな音を生み出して音で空間を表現する/サウンド・スペース・コンポーザーの仕事

6632views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

13663views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6648views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12522views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6280views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5304views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28984views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8057views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

21906views

音楽ライターの眼

連載15[多様性とジャズ]ジャズのアイドルたちへのオマージュにあふれた『ミンガス・アー・アム』収録曲

1023views

テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

オトノ仕事人

【サインCDプレゼント】テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

14917views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

7617views

楽器探訪 Anothertake

新開発の音響システムが表現力のカナメ。管楽器の可能性を広げる「デジタルサックス」

3129views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

7188views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

7940views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

12875views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10439views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28984views