Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:寺井尚子さん「ジャズ人生の扉を開いてくれたのはモダン・ジャズの名盤、ビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デビイ』」

ジャズ・バイオリニストのスター・プレイヤーとして、次々に新鮮な音楽を生み出してきた寺井尚子さん。生まれる前からバイオリンの音を聴いてきたとたとえる音楽人生には、どういった出会いやこだわりがあるのだろうか。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

たった1曲を選ぶのは難しいですけれど、アルバムでしたら16歳のときに出会ったビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デビイ』です。自分にとってはジャズに目覚めた一枚ですし、ジャズ・バイオリニストとしての出発点です。
3人のミュージシャンが会話をするように音楽を奏でていて新鮮でしたが、最初はそれが即興だということもわかりませんでしたから、レコードをかけて彼らの演奏をなぞりながら楽器を弾いたこともあったのです。
透明感のあるエバンスのピアノやレコード・ジャケットにも惹かれましたし、ライブ録音なので音楽に混ざってグラスの音などが聴こえてきますから、大人のおしゃれな世界を垣間見たような気がして憧れました。音質が良くなって再発売されると、どうしても気になってまた聴いてしまいます。私の演奏スタイルはビ・バップなどモダン・ジャズの影響が強いのですけれど、それはきっと最初にモダン・ジャズの名盤である『ワルツ・フォー・デビイ』を聴き込んだからでしょう。そういった意味でも、今の私があるのはこのアルバムのおかげだと断言できます。ですから、一番聴いた曲は、冒頭に収録されている『マイ・フーリッシュ・ハート』かもしれませんね。

寺井尚子さん

Q2.寺井さんにとって「音」や「音楽」とは?

それは私の人生そのもの、生きている証のようなものだと思います。4歳からバイオリンを始めたのですが、母のお腹の中にいるときから胎教でクラシック音楽を聴いていたようですし、物心ついたときからいろいろなバイオリンの音楽を聴いていました。有名なバイオリン協奏曲やイ・ムジチ合奏団の演奏など、とにかくバイオリンが入っているものばかりです。
あるとき私が絵本と定規を使って、テレビで見たバイオリニストの真似をしたらしいのですが、そのあとで「バイオリンを習いたい」といったとき、母は「やった!」と喜んだそうですよ。
いわゆるステージママでしたので、先生のレッスンにも一緒についてきて楽譜にはびっしりと先生からの注意を書き込み、家に帰るとその復習です。ですから私が「ジャズをやりたい」と言ったとき、母の頭の中は「?」でいっぱいだったと思います。
それでも自分自身がどうするべきかという方向は見えていましたし、プロ・デビューしてから約30年間、いろいろな勉強や経験をしながらキャリアを積み重ねてきました。素晴らしいミュージシャンたちとの出会いも私にとっては栄養ですし、「音楽人生」を楽しんでいるなと実感しています。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

パッと思い浮かぶのは「楽しい」ということ、または「楽しんでいる」ということですね。演奏者が楽しいと音楽が生き生きとしますし、それを聴いてくれるお客様にも楽しさが伝わります。そして今度はお客様がのってくれている様子を見て、こちらがさらに気分を高めることができるのです。そうした相乗効果が、きっと素晴らしい音楽体験になるのでしょう。
きっと「音で遊ぶ」って究極の楽しみでしょうね。ジャズには即興演奏の部分がありますから、同じ曲でもまったく同じ演奏にはなりません。常に新鮮で、しかも遊ぶような感覚で演奏できたら最高です。
ただそうなるには、常に自分自身が敏感でないといけませんし、日常生活における食事や身体づくりも大切です。体幹を鍛えるなどのトレーニングもしているので、アスリートに似ているかもしれません。また移動も多い仕事ですから精神的にもタフであることが要求されます。こうした日々の積み重ねが、音楽の原動力なのだなと実感しています。
そうしたことがあって、私自身も「音楽で遊んでいる」という感覚を得ることができるのでしょう。

寺井尚子〔てらい・なおこ〕
4歳からバイオリンを始め、1988年、ジャズ・バイオリニストとしてプロ・デビュー。来日中だったジャズ・ピアニスト、ケニー・バロン氏との共演をきっかけに、ニューヨークでのレコーディングに参加し一躍注目を集める。その後も独自性あふれる表現力豊かな演奏スタイルで人気を博すコンサートを中心に、テレビ、ラジオ、CMなど、幅広く音楽活動を展開している。デビュー30周年となる2018年には、ジャズのスタンダード・ナンバーを13曲収録したアルバム『ザ・スタンダード』をリリース。
寺井尚子オフィシャルサイト  http://www.t-naoko.com/

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:亀田誠治さん「音楽は『人と人をつなぐ魔法』。いまこそ、その力が発揮されるべきだと思います」

7082views

音楽ライターの眼

連載20[ジャズ事始め]ジャズは自分にとってなんなのかを追求した日本人・穐吉敏子の答え

2157views

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

楽器探訪 Anothertake

【動画】「楽しさ」をまるごと運ぼう!「ELC-02」の分解、組み立て手順

17488views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

10168views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

10295views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

28185views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

12964views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

2863views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

9793views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

10505views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

5873views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24718views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

9865views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13442views

音楽ライターの眼

ロイクソップ『プロファウンド・ミステリーズ』三部作がいざなう時空を超えたタイム・ワープ

1539views

オトノ仕事人

歌、芝居、踊りを音楽でひとつに束ねる司令塔/ミュージカル指揮者・音楽監督の仕事

2609views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

7601views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」

1views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

13681views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

7940views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

16885views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6648views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9601views