コンサートレポート

コンサートレポート

ドビュッシーがピアノで追求した、多様な色彩、新しい響きを聴く~深見まどか ドビュッシー・チクルス

2018年8月2日(ヤマハ銀座コンサートサロン)

 京都に生まれ、東京芸術大学で学んだのち渡仏、パリ国立音楽院やエコール・ノルマル音楽院で学び、現在はパリを拠点に活動するピアニストの深見まどかさん。2015年にはロン・ティボー・クレスパン国際音楽コンクールピアノ部門で第5位に入賞。パリでの生活も約10年となり、その暮らしぶりを綴る「ピアニストラウンジ」でのコラム連載がスタートしたばかりです。
深見まどかの「C’est la vie~ 関西人のパリ音楽漂流記」

 長らくフランスで暮らし、フランスものを得意とする深見さんが、2018年8月2日ヤマハ銀座コンサートサロンで、今年没後100年を迎えたドビュッシーの全ピアノ作品を3公演で演奏するドビュッシー・チクルスの第1回を行いました。

 リサイタルは、ドビュッシーが音楽院時代の若き日に書いた作品である「ボヘミア風舞曲」で幕を開けます。続いて演奏された初期の名作である「ベルガマスク組曲」は、まず冒頭から「プレリュード」の艶のあるパワフルな音で耳を引きつけます。また「月の光」では、まろやかで密度の濃い音とともにハーモニーが豊かに響きあう演奏を披露。テンポがゆったりめにとられていることによって、組曲を通してドビュッシーならではの音の混ざり合いをじっくりと聴くことができます。みずみずしさの中にもすでにドビュッシーらしいひねりがはっきりと存在する、ミステリアスな音の世界を力強く表現してくれました。
 「英雄の子守唄」「仮面」まで弾き終えると、作品への想いや解説のトークをはさんで、前半の最後のプログラムとなる「喜びの島」へ。ドビュッシーが自らの作風を確立した頃である後期ピアノ曲の代表作を、大胆に起伏をつけながらドラマチックに表現していきます。深見さんは、「前半は初期作品が多いなか、後期作品を入れることでハーモニーの違いを感じてほしかった」と話していましたが、その言葉のとおり、色彩の異なるそれぞれの年代の楽曲の味わいを感じることができました。

 そして後半は、「エレジー 悲歌」「アルバムのページ~負傷者の服のための小品」からスタート。演奏機会が決して多くないながら、ドビュッシー円熟期の心情を垣間見られるようなこうした小品を聴くことができるのは、全曲演奏会というプロジェクトならでは。
 間にはさんたトークで、「後半で弾く《12の練習曲》は第1巻と第2巻で50分近くありますが、ぜひ続けて演奏したい」と話した深見さん。その言葉からは、作品への深い思い入れが伝わってきます。《12の練習曲》は、秋にフランスのレーベルからリリースされるアルバムにも収録されている作品です。
 演奏は、ドビュッシーのシニカルな感性が見え隠れする「5本の指のための~チェルニー氏にならって」にはじまり、音楽が自然とふくらんでいきます。要所で聴かれるヤマハCFXを鳴らしきった骨太な音と、瞬発力が発揮された表現が印象的。ドビュッシーの音を作ろうとする気持ちが伝わってきます。クリーンな演奏により、独特のハーモニーとリズムがもたらす音楽的な効果、ドビュッシーの音楽性の斬新さを明確に届けてくれました。

 若き日の作品を中心とした前半と、新しい響きを追求した晩年の作品を取り上げた後半とで、ドビュッシーがピアノという楽器とともに求めた音、色彩の変遷を感じる、聴きごたえたっぷりの公演となりました。
 深見さんは客席からのアンコールに応えて、ヒナステラのピアノ・ソナタ第1番から第4楽章「オスティナート」と、ラヴェルの組曲「鏡」より「道化師の朝の歌」を演奏。ボリュームたっぷりの本プログラムに続き、アンコールまで集中力の保たれたパワーみなぎる演奏を響かせ、全3回公演の出発となる「ドビュッシー・チクルスVol.1」は幕を閉じました。

 この後の公演は、Vol.2が2018年12月22日ベーゼンドルファー東京サロン、Vol.3が2019年4月24日にヤマハ銀座コンサートサロンで予定されています。

Text by 高坂はる香