ピアニスト・作曲家:藤井 一興  - 藤井一興 ピアノ・リサイタル「音楽遺産」~受け継がれる感性~ 公演前インタビュー この記事は2016年10月6日に掲載しております。

メシアンの愛弟子である藤井一興氏。東京芸術大学、パリ国立高等音楽院で学び、現在、東邦音楽大学、桐朋学園大学、東京芸術大学で教鞭をとりながら、CD録音、リサイタル、伴奏と幅広く活躍されている。今年の4月にヤマハホールで録音されたCD「ドビュッシー&ショパン」が、9月にドビュッシーのアルバム第3弾としてリリースされた。11月には浜離宮朝日ホールで収録曲を含めたリサイタル「音楽遺産」~受け継がれる感性~が行われる。公演前にお話を伺った。

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Q: 4月4日、5日の「ドビュッシー&ショパン」の録音はいかがでしたか?


「すごく考えるので身体より頭がとても疲れました。CDになるのは60分ぐらいですが、実際に弾いている時間はもっと長く、真摯に音楽と向き合えるとても貴重な時間でしたね。本当にこの音色が、このリズムが、このバランスがベストなのかと、何度も弾いて、直接耳で聴いたものと録音したものと聴き比べ、考察することで何か閃いたり、繋がったり、思わぬ発見があったりと、とても興奮しました。家ではホールでの録音を想定して練習していますが、実際のホール、ピアノに触れてみると、断然勉強になりますし、世界が広がります。

 ヤマハホールは自然な響きで、残響もほどよくあり、音の返りもよく、録音しやすかったです。

 ピアノは録音前に2台のCFXを弾かせていただきました。どちらも素晴らしかったのですが、ドビュッシーに合う華やかな音色の方を選びました。CFXはメカニックが精巧で緻密なので、ダブルエスケープメントのタッチなどの調整が細かくできるため、求めるタッチを得る事ができ、色彩感や遠近感などの構築の選択肢がとても増えます。指先の感覚はとても鋭いので、1㎜の100分の1まで分かると言われています。この目にも見えないような繊細な世界を、ピアノ技術者の鈴木俊郎さんが、私がコーヒーを飲んでいるような短い時間で、私の意図を感じ、調整、調律してくださるのです。

 ドビュッシーもショパンも、左手がとても重要で、最低音に右手の旋律を乗せるように弾くのですが、両者ではニュアンスが違いますし、倍音の方向性が異なり、ドビュッシーの方が中間色の音色が多く必要です。そのような作曲家による細かな音色の違いも、調律してくださるたびに、自分の感覚にぐっと寄り沿ってくれるので、音に輝きが増し、音色の追求が深くできました。」

Q: 今回のリサイタルのタイトルを「音楽遺産」とされました。そこに込めた思いをお聞かせください。


「これは私が作った造語です。『遺産』は前代が残した業績と言う意味で使っており、音楽を媒体として、私たちに受け継がれた、素晴らしい有形、無形のものを表現したいと思いました。

 今回のリサイタルで『金色堂のテトラコルド』という曲をチェロの横坂源さんと世界初演します。この金色堂は岩手県の中尊寺にあり世界遺産に指定されています。子供の頃に行きましたが、最近NHKの番組を観て、金という永遠を象徴した色を用いる事によって、不滅の美というものを強く感じました。それで、金色が象徴する永遠、恒久平和をテーマに作曲しました。

 音楽は楽譜を通して、作曲家の精神性を受け継ぐことが多いですが、その他にも、私がメシアンに習った事で、先生御自身の感性や、そのまた先生から蓄積されたものや、先生が大好きであったドビュッシーの楽曲など先人のエッセンスやエスプリを得られたと思います。また、教えること、共演すること、聴いていただく事で、感性が流布し、継承していくのではないでしょうか。」

Q: ドビュッシーの「月の光」は、今回のCD、リサイタルの演目でもあり、アンコールによく弾かれますね。


「『月の光』はドビュッシーの曲の中でも特に美しいので、自分が何かして、その本来の美しさを汚さぬよう、本来の美の形を自然に表現できるよう、中間音の音色で、メロディーが横に流れ、ポリフォニックに響くように気を付けています。

 この曲は子供の頃から弾いていて、ほぼ毎回アンコールに入れるので、もう何回弾いたか分からないぐらいよく弾いています。今年だけでも、東京文化会館でのリサイタル、ヤマハホールでの録音、ヤマハホールでの大谷康子さんとの共演でのソロ曲として弾きました。3回とも違ったCFXを演奏しました。どれも素晴らしく、この曲に必要な最弱音の美しさがあるピアノで、それぞれに独自の個性がありました。今度のリサイタルでは、去年よく使ったCFX。粒たちが特にいいピアノで、再会が楽しみです。

 何度も弾く曲と言うのは、聴く側にとっては、同じ曲だなと思われる事もあります。またかでなく、また聴けた。になるようにと思って弾くことはありませんが、同じ曲であっても、同じと感じないよう、自分の中に変化、進歩があるように、日常的に探求しています。演奏しているときに、お客様と心が通じ合う瞬間というのがあります。私にとって特に強くそれを感じられるから、特別な曲なのでしょうね。浜離宮朝日ホールのリサイタルでも、精神を開放し、お客様と心が通う至福を享受したいですね。」

一期一会以上の何かがあるリサイタル。とても楽しみになりました。ありがとうございます。

Textby 編集部

※上記は2016年10月6日に掲載した情報です