ピアニスト:實川 風  - バイオリンとピアノが歌う「エスプレッシーヴォ」 心揺さぶる色鮮やかな18曲/礒 絵里子&實川 風インタビュー この記事は2017年12月8日に掲載しております。

デビュー20周年を迎え、記念アルバム「エスプレッシーヴォ」をリリースしたバイオリン奏者、礒絵里子さん。初共演となるピアニスト、實川風さんとの息の合ったかけ合いで、バイオリンとピアノが織りなす色彩感あふれるアンサンブルの魅力を聴かせている。絶妙な「歌」を紡ぎ出した録音秘話などを聞いた。

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素敵なものが詰まった宝石箱のように

 ソロ、デュオ、アンサンブル、室内楽など、多彩な演奏活動を展開する実力派バイオリニスト、礒絵里子さん。真摯な演奏への取り組みと洗練された感性で多くのファンを魅了する礒さんが、デビュー20周年記念としてリリースしたアルバムは珠玉の小品集。エルガー:《愛の挨拶》、ラフマニノフ:《ヴォカリーズ》、プーランク:《愛の小径》など、これまで折に触れて演奏してきたものの、まだアルバムには収めていなかった名曲を集めた。
「デビュー20周年を飾るアルバムは、おもちゃ箱や宝石箱のような、もしくはチョコレートボックスのような、いろいろな素敵なものが詰まった、見てはっとするものにしたいと思いました。今回収録した18曲は、私にとってどれもみな愛着のある曲ばかりです」
 映画のワンシーンが浮かぶようなホイベルガー:《真夜中の鐘》、デュオ・プリマとして共に活動する従姉の神谷未穂さんも加わり、華やかに演奏したアンダーソン:《舞踏会の美女》など、それぞれの曲の色彩が鮮やかに浮かびあがる、まさに「エスプレッシーヴォ」(表情豊か)な1枚となった。

音楽家が出会うことで生まれるもの

 ピアノを演奏しているのは若手実力派ピアニスト、實川風さん。實川さんのソロ演奏を聴いた礒さんが共演を依頼したという。
「音の美しさ、音色の選び方などに、落ち着きや品が感じられて、素晴らしいピアニストだと思いました。初めて合わせたときには、アンサンブル能力の高さにも驚かされました」
 2017年7月に、やはりショパンの小品を集めた2枚目のアルバム「Plays Chopin」をリリースした實川さんも、礒さんからの依頼を快諾。そのときのことをこう振り返る。
「デビュー20周年記念アルバムという、とても大事なお話をいただいて光栄に思いました。後日、収録曲のラインナップをいただいた時、これはすごく濃い内容になるなと感じました。短い演奏時間で完結する小品には、作曲家も演奏者もいろいろなものを込めます。個人的な想いの詰まった作品も多く、このCDはそうした濃い世界の集まりでもあると思います。今回は僕自身も濃い時間を過ごさせていただくことができました」
 弦楽器とのアンサンブルの機会も多い實川さんが、礒さんと合わせるにあたって特に意識したのが「音の立ち上がり」だったという。
「ピアノに明確なアタックがついてしまうとバイオリンのレガートを壊してしまいます。ふわっと立ち上がってくるバイオリンの音にピアノがどう入っていったら寄り添えるのかを考え、和音のバランスの取り方など、いろいろなことを工夫しました。また、ピアノの序奏で始まる曲では、ピアノだけでどのような世界観を作るのかを大切にして、礒さんからもアイデアをいただきながらイメージを作っていきました」

心地よい音楽のやりとりを生み出す楽器

「自分のなかに色のパレットを持って、作品それぞれの持つ色を表現したい」(礒さん)と録音に臨んだ「エスプレッシーヴォ」。リハーサルを重ねるごとに、繊細で表情豊かな「音楽の会話」が深められていった。
 彩りに満ちたバイオリンとの会話を引き出したピアノは、収録の行われた「みどりアートパーク(横浜市緑区民文化センター)」のCFX。今回、初めてソロ以外でCFXを演奏したという實川さんは演奏感をこう語る。
「音の持続が長いので、バイオリンとのレガートがとても作りやすかったですね。バイオリンと一緒に歌う部分、ピアノが淡々と支える部分……など、さまざまな場面でこう弾きたいと思ったことに、瞬時に反応してくれました」
 礒さんもまた、CFXに好感を持ったという。
「高音がものすごく美しいのと、深みのある音でパワフルに支えてくれる低音も魅力的でした。自然に息をするように、心地よく音楽のやりとりができたのがとても楽しかったです」
 描かれた作品ごとの物語と歌心が心を揺さぶり、聴くたびに新鮮なときめきに出会える「エスプレッシーヴォ」。バイオリン、ピアノ、そしてアンサンブルの魅力や奥深さ、表現の可能性を感じさせてくれる渾身の新作だ。
 デビュー20周年という節目を迎え、音楽家として今後ますます円熟味を増していく礒さんと、ピアノの世界をさらに深めていく實川さん。完成度の高いアンサンブルを聴かせた「エスプレッシーヴォ」なお二人の今後の演奏活動に、ますます期待が高まっている。

Textby 芹澤一美

この記事は2017年12月8日に掲載しております。