ピアニスト:栗原 麻樹  - 栗原 麻樹 ピアノ・リサイタル 公演前インタビュー この記事は2017年7月 11 日に掲載しております。

昨年8月、約12年にわたるフランス留学から帰国し、ピアニストとして日本で新たな活動をスタートさせた栗原麻樹さん。9月17日、東京文化会館小ホールにおいて、〝パリ留学の集大成〟ともいえる、リサイタルを開催する。公演にさきがけ、プログラム内容と演奏への意気込みを聞いた。

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 15歳で渡仏し、昨年8月に帰国した栗原さん。9月に行われるリサイタルのプログラムは、ドビュッシー、ラヴェル、プーランク、デュティユーという、フランス音楽でまとめられている。
 「昨年帰国してまず感じたのが、日本ではまだまだフランス音楽は馴染みが薄いということでした。ドビュッシー、ラヴェルは聞いたことがあっても、メシアン、プーランク、デュティユーになると、知らない人が多いのが実情です。でも、フランス音楽には、メロディーも和声もとても面白い曲がたくさんあります。私は、勝手に自分が〝フランス音楽大使〟になったつもりで(笑)、フランス音楽を日本で広めていきたいと思いました。今回の選曲は、その第一弾です」
 まず、《2つのアラベスク》《ベルガマスク組曲》《喜びの島》とドビュッシー作品が並び、その後、ラヴェル《水の戯れ》が続く。
 「フランス音楽というと、日本ではひとくくりにされてしまいがちですが、ドビュッシーとラヴェルでは、やはりかなり違います。私の解釈ですが、ラヴェルの作品が映像的なのに対して、ドビュッシーの作品は絵画的、もしくは写真的です。また、ラヴェルは〝風景〟を感じさせる作品が多く、ドビュッシーは〝人物〟を感じさせる作品が多いですね。今回選んだドビュッシーの3曲もいずれも絵画的ですし、《喜びの島》などは、快楽的で、明るさに満ちた、人の感情が感じられる作品だと思います」
 フランス音楽の中でも、特にラヴェルは、栗原さんが好きな作曲家のひとりだ。
 「クリスタルのような透明な音の響きがとても好きなんです。高音がキラキラしていて少し硬めの音。しかも、動きが感じられる音です。《水の戯れ》などは、まさにそうですね。小さな水の流れが、少しずつ姿を変え、最後には勢いのある流れへと変化していく。そんな映像が感じられる演奏がしたいと思っています」
 また、プーランクについては、留学時代、まさに〝本場〟の教えを受けている。
「最後に師事していたガブリエル・タッキーノ先生が、プーランクの弟子だったんです。先生自身、プーランク全集のCDを出していらしたので、とても勉強になりました。私の中でプーランクは、〝とても上手に空気を読んだ、お調子者〟のイメージです(笑)。スケルツァンドな小曲がたくさんあり、どれもいきいきしていて、面白い。もっともっと皆さんに聞いていただきたい作曲家のひとりですね」

 栗原さんにとって、今回のプログラムの中でも特に思い入れが強い曲が、デュティユー《ピアノソナタ》だという。
 「初めて弾いたのは14歳のときで、当時から好きな曲でした。第1楽章はちょっとジャジーな雰囲気ですが、第3楽章はモダンで幾何学的。メタリックなイメージがあり、ドビュッシーやラヴェルの作品とは、またひと味違います。実は私は、ある先生にご紹介いただき、フランスで、デュティユー本人からレッスンを受けたことがあるのです。『ここに、書き忘れた休符があるんだ』など、作曲した本人にしかわからないことまで教えていただきました。今回、デュティユーの教えを忠実に再現したいと思っています」
 9月のリサイタルでは東京文化会館・小ホールのヤマハCFXを演奏する予定だ。
 「フランス音楽というと、日本では〝フワフワした柔らかい音楽〟と思われがちですが、私はそうは思っていません。たとえば、デュティユー《ピアノソナタ》の第3楽章など――彼自身、一番思い入れが強いようでしたが――、出だしの部分を『ペダルを多用してもいいので、低音を鐘のように響かせてほしい』と言われました。つまり、メタリックで硬質な、伸びのある音が必要なんです。その点、CFXは高音と低音の伸びがとても素晴らしいので、私自身、とても期待しているんです」
 実は栗原さんは、子供の頃から自宅ではいつもヤマハのピアノを弾き続けてきたという。
 「とにかく弾きやすいですね。自分が求める音に繊細に応えてくれます。阿吽の呼吸でいい音が返ってくるというか……。小学五年のときから何度か参加した『浜松国際ピアノアカデミー』でも、自分が演奏するピアノは必ずヤマハを選んでいました、新しい機種にふれるたびに、進化を感じさせてくれるピアノだと思っています。」
 栗原さんがヤマハCFXで奏でるフランス音楽の数々……。本番では、それぞれの作曲家による音色の違いをどう表現してくれるのか、実に楽しみだ。
 「ドイツ音楽が〝小説〟なら、フランス音楽は〝ポエム〟だと私は思っています。理解するのではなく、自由に感じていただき、私と一緒にひととき夢の世界に浸っていただけたらうれしいですね」

Textby 上原 章江