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パスカル・ロジェ氏 (Pascal Rog’e) フランスの作曲家たちは響きのクリエイター、ピアニストはそれを発見し、聴き手と共有すべきです。
この記事は2017年8月21日に掲載しております。

 1970年代から、数多くの来日公演はもちろん、レコーディング(レコード、CD)でも一貫して、ドビュッシーやラヴェルなどの近代フランス音楽を積極的に紹介。日本でも数多くのファンが毎回の来日公演を心待ちにしているフランスのベテラン・ピアニスト、パスカル・ロジェさん。一方では世界各地でマスタークラスを行うなど、新しい才能の育成にも熱心に取り組んでいる。音楽と向き合う姿勢や感性、フォーレとショパンの曲による新しいアルバムのことなどをうかがいました。

Profile

pianist パスカル・ロジェ
© Nick Granito

pianist
パスカル・ロジェ
 パリの音楽一家に生まれ、11歳の時、パリでデビュー。パリ国立高等音楽院を首席卒業後にジュリアス・カッチェンに師事。1971年ロン=ティボー国際コンクール優勝を機に一躍脚光を浴び、国際舞台で精力的な活動を開始する。
 それ以降、世界の主要なコンサートホールに登場。オーケストラでは、パリ管、フランス国立管、ロイヤル・コンセルトへボウ管、ウィーン響、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、スイス・ロマンド管、チューリッヒ・トーンハレ管、ロンドン響、ニューヨーク・フィル、ロサンゼルス・フィル、シカゴ響、日本では、NHK響、日本フィル、新日本フィル、大阪フィル、京都市響、日本センチュリー響等と共演。指揮者では、ロリン・マゼール、サイモン・ラトル、クルト・マズア、マイケル・ティルソン・トーマス、サー・アンドリュー・デイヴィス、マリス・ヤンソンス、シャルル・デュトワ、エド・デ・ワールト、アラン・ギルバート、デイヴィッド・ジンマン、ベルトラン・ド・ビリー、マレク・ヤノフスキ、マティアス・バーメルト、山田和樹等と共演している。 17歳で名門ロンドン/デッカの専属アーティストとなる。「サン=サーンス:ピアノ協奏曲全集」(デュトワ指揮/フィルハーモニア管、ロイヤル・フィル、ロンドン・フィル)、「プーランク:クラヴサンと管弦楽のための田園の奏楽、フランス組曲」(デュトワ指揮フランス国立管)のほか、プーランクとラヴェルの全集、サティの作品集等で、2回のグラモフォン賞を含む多くの賞を獲得した。エームス・クラシックスからは、「ラヴェル&ガーシュイン:ピアノ協奏曲」、「ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲、ガーシュイン:ラプソディ・イン・ブルー」(いずれもド・ビリー指揮ウィーン放送響)を、オニックス・クラシックスからは「ドビュッシー:ピアノ作品全集」(全5巻)をリリース。2017年冬、オクタヴィア・レコードより「ショパン&フォーレ:夜想曲集」のリリースが予定されている。
 世界各国でリサイタルを定期的に開催するほか、オールドバラ音楽祭、シティ・オブ・ロンドン・フェスティバル等の音楽祭にも出演している。各国でマスタークラスを開催し後進の育成にもあたり、2014年にはジュネーヴ国際音楽コンクールのピアノ部門審査員長を務めた。
※上記は2017年8月21 日に掲載した情報です。

ノクターンの最高峰といえるショパンとフォーレ

  現在もなお、コンスタントにCD録音を行っているが(ソロだけではなく、奥様であるアミ・ロジェさんとのデュオによるフランス音楽集、バイオリニストの小林美恵さんやチェリストの長谷川陽子さんと組んだピアノ三重奏などもある)、2017年の来日時にはショパンとフォーレによる「夜想曲集」を録音。2017年12月頃にオクタヴィア・レコードより発売が予定されている。
 「フォーレが晩年になって作曲したノクターンは、彼の最高傑作と呼べる作品です。音色やハーモニーがやや複雑で、非常に深みのある音楽ですが、内省的すぎるきらいもあり、必ずしも聴き手にとって親和性のある音楽ではないかもしれません。むしろピアニストにとってはさまざまな発見ができる作品であり、弾き手にとっての愉悦を感じさせる音楽です。難しいといっても前衛的ということではなく、響きのちょっとした変化を聴きとるために集中力を必要とする音楽だといえます。フォーレ自身があえて聴き手との関係に距離を置き、まるで音楽が一部の人にしか伝わらない秘密の暗号のように思えるときもありますね。でもそれは、長い人生を辿ってきてたどり着いた風景なのかもしれませんし、晩年は決して耳の状態も芳しくはありませんでしたので、響きを探りながら書いた結果なのかもしれません。いずれにせよ、ミステリアスだなと思える瞬間もあり、じっくりと時間をかけて聴くに値する音楽です」
 一方でショパンが人生の折々に書いていたノクターンもまた、彼の人生を辿るには最適の作品群であり、その世界はフォーレと違った美学によって作り上げられている。
 「ショパンは常に聴き手を意識しており、彼の作品は聴き手の心にやさしく響くような繊細さをもっています。比較的小さな空間で響くことを想定して書かれていますし、フォーレと同様にノクターンを書かせたら最高峰の存在ですので、上質の音楽を楽しんでいただけるでしょう。ご承知のようにショパンは後半生をフランスで過ごしましたので、フランス的なものからインスピレーションを得たものも多いはずです。もちろんポロネーズやマズルカなどは祖国へのオマージュだと思いますし、ポーランドらしさが表現を左右するのでしょうが、彼の父親がフランス人であったことも忘れてはいけません。ポーランドの方たちからは反論されるかもしれませんが、私たちフランスの音楽家にも『ショパンはフランスの作曲家である』と主張する権利はあると思いますよ(笑)」
 ショパンの音楽はいうまでもなくピアニストにとって重要な、そして隣人のような存在だろう。しかし意外なことに、ロジェがショパンを常に演奏し、重要なレパートリーにしているという印象は薄い。
 「若い頃は今よりもたくさんショパンを弾きましたが、そうした経験を経た後、自分は弾かなくてもいいなと思っていた時期もありました。しかし、また弾いてみたいと思えるようになったのは幸福なことであり、こうしたプログラムで新しいショパンの魅力を発見できるのは素晴らしいことだ、と思えるようになったのです」

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パスカル・ロジェさんへ “5”つの質問

※上記は2017年8月21 日に掲載した情報です。