Web音遊人(みゅーじん)

ルッカの生家前にあるプッチーニの像

フィギュア・スケートの選手たちに愛されるプッチーニの『トゥーランドット』 vol.1

フィギュア・スケートのオリンピックおよびシーズン・プログラム、エキジビションでは、クラシックの名曲が使用されることが多い。なかでも、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』は人気が高い。

2006年のトリノ五輪では、荒川静香がフリースケーティングで『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」を使用して見事金メダルを獲得。この曲は一躍幅広い人気を得るようになった。これはキム・ヨナ(韓国)が現役最後のステージで使用した曲でもあり、宇野昌磨も来る2018年の平昌五輪のフリーで使用する予定だという。

そこで、今回は2回に分けてプッチーニの人生をたどり、『トゥーランドット』の内容にも迫りたいと思う。

『トゥーランドット』は作曲者の最後のオペラで、未完に終わっている。プッチーニのオペラのなかでもっとも規模が大きく、音楽も壮大で、集大成ともいえる作品。プッチーニは第3幕第1場の「リューの死」まで作曲したところで、旅先のブリュッセルに没したため、残りは友人であり、弟子であったフランコ・アルファーノの手でまとめられた。

曲が書かれたのは1920年から1924年。初演は1926年にミラノ・スカラ座でイタリアの名指揮者、アルトゥーロ・トスカニーニの指揮によって行われた。そのさい、トスカニーニは「リューの死」まできたところで「マエストロはここで筆を断たれました」と告げて演奏を終え、次の公演から全曲が上演された。

舞台は伝説時代の中国。場所は首都北京。幻のように美しく冷酷非情なトゥーランドット姫は、求愛する若者に3つの謎を与え、それが解けないときはその首を容赦なく刎(は)ねていた。その謎に挑戦したのが素性を隠したひとりの若者。彼はタタール王子カラフ。

さまざまな人が無謀な求愛をやめさせようと試みるが、姫の美しさに魅せられた彼は聞き入れない。そして見事にカラフは謎を解いてみせる。姫が結婚を拒むため、カラフは「夜明けまでに自分の名を言い当てたら喜んで死のう」といい、北京の町には若者の名がわかるまで誰も寝てはならないという布令が出される。

ここで有名な「誰も寝てはならぬ」がカラフによってうたわれる。そして姫は真実の愛に目覚め、人々の前で「彼の名は『愛』」と告げて幕となる。

プッチーニはオペラに親しみやすく美しい旋律を数多く与えているが、『トゥーランドット』も印象的なアリアが多い。とりわけ「泣くな、リューよ」「氷のような姫君の心も」が有名で、メロディメーカー、プッチーニとしての旋律美に彩られている。カラフはテノールのあこがれの役といわれ、みな「誰も寝てはならぬ」をうたうことを熱望する。

プッチーニ

(写真左)プッチーニが暮らしたトッレ・デル・ラーゴの家。内部にプッチーニ一家の霊廟がある。(写真右)プッチーニの「私のお父さん」の歌詞に登場するフィレンツェのアルノ川。

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

 

特集

五嶋みどり

今月の音遊人

今月の音遊人:五嶋みどりさん「私にとって音楽とは、常に真摯に向き合うものです」

16516views

音楽ライターの眼

【ライヴ・レポート】DOWNLOAD JAPAN 2019/新たなるメタルの春の祭典

5585views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」

1views

楽器のあれこれQ&A

モチベーションがアップ!ピアノを楽しく効率的に練習するコツ

40751views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

4304views

小林洋平

オトノ仕事人

感情や事象を音楽で描写し、映画の世界へと観る人を引き込む/フィルムコンポーザーの仕事

846views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

20084views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

2828views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

21626views

上海ブラスバンド日本支部

われら音遊人

われら音遊人:上海で生まれた縁が続く大家族のようなブラスバンド

1780views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

5834views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9523views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9284views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

29544views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase7)ブーレーズとベリーのパラレルワールド、現代音楽はイノベーションのジレンマか

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase7)ブーレーズとベリーのパラレルワールド、現代音楽はイノベーションのジレンマか

1295views

オトノ仕事人

ピアノを通じて人と人とがつながる場所をコーディネートする/LovePianoプロジェクト運営の仕事

17244views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

7815views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

4882views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

3603views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8132views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

49207views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

5765views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24638views