修復された一台のオルガンが人々の心に寄り添う。戦時中の実話を映画化した『あの日のオルガン』

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あの日のオルガン
修復された一台のオルガンが人々の心に寄り添う。戦時中の実話を映画化した『あの日のオルガン』

戦時中に日本で初めて保育園を集団疎開させた保母たちの実話を映画化した『あの日のオルガン』の公開が2019年2月22日にスタート。昭和から平成、そして新しい時代に語り継ぎたい物語が、多くの感動を呼んでいる。

太平洋戦争末期の東京。保育所の主任保母・板倉楓は、園児たちを空襲から守るため、保育園の集団疎開先を探していた。ようやく見つかったのは、ボロボロの荒れ寺。若い保母たちと53人の園児たちの生活が始まるが、そこには問題が山積だった。日々奮闘する保母たちも、心身ともに疲労困憊でぎりぎりの状態に。それでも、彼女たちは子どもたちと向き合い、託された命を必死で守る。保母のひとりであるみっちゃん先生は、ことあるごとにオルガンを弾いてみんなを勇気づけていた。そんななか、疎開先にも戦禍が迫り来る──。

監督・脚本は、山田洋次監督の右腕としても知られる平松恵美子。板倉楓役の戸田恵梨香、みっちゃん先生役の大原櫻子らが、これまで知られることがなかったヒロインたちを全身全霊で演じる。
信念を持って幾多もの困難を乗り越える強さ、愛と勇気、そして挫折や無力感といったリアルな感情に心が揺さぶられる。同時に本作は、温かさや笑いにも満ちている。それを象徴するのが子どもたちの笑顔や天真爛漫なみっちゃん先生であり、オルガンの音色や歌声だろう。

登場するリードオルガンは、ヤマハ製で大正元年に製造された第六号型。エグゼクティブプロデューサーの李鳳宇氏が浜松の倉庫まで足を運び、数点の古いオルガンの備品の中から映画のイメージにあったものを選んだという。
ただし、演奏できる状態ではなかったため、ヤマハピアノサービスで約2週間かけてオーバーホールされた。
「オルガンを開けてみて、昔の木工加工技術に驚きました。昔は道具も限られているなかで、いろいろな工夫をしていたんですね」
修復にあたったヤマハピアノサービス(株)の福田茂氏はそう話す。

もっとも苦労したのは大袋・子袋の張り替え。ここに問題があると、空気が漏れて音が減衰してしまう。空気袋は膠(にかわ)で板に接着されており、古いオルガンでは板に反りが出ているため、たとえ空気袋を張り替えてもわずかな隙間ができてしまう。いかにしてそれをなくすか……。

(写真左)修復前(写真右)ピカピカに修復されたオルガン

福田氏によって再び命を吹き込まれたオルガンは、リードを震わせて鳴る楽器ならではの優しい音がする。疎開前の保育園内や疎開先のお寺での演奏……。すべてみっちゃん先生こと大原櫻子が実際に弾いたものが、そのまま収録されているとか。

疎開直後には、荒れ果てた寺を掃除する際に子どもたちを“もたす”ためにオルガンを演奏する。「今日聞いたのは警報じゃなくて、みっちゃんの弾くオルガンと子どもたちの歌声だけ」という保母の言葉も印象的だ。親友を亡くしたみっちゃん先生が、前を向くために奏でる『この道』。戦争が終わり、次々と園児たちが家族のもとへ帰っていくなか姉弟だけが残されたときに演奏される『ふるさと』……。いくつもの名シーンにオルガンの音色が寄り添う。

オルガンが、ぽつんとたたずむシーンも心に残る。古いリードオルガンは装飾的なデザインが多いのが特徴だが、今回登場するオルガンも優美。明日をも知れぬ暗い時代に、ひとときの心の豊かさを彷彿させる。

ピアノが普及した現代だが、オルガンの優しい音色はあらためて胸に響いてくる。心震えるドラマと音楽をぜひ味わってほしい。

◾作品紹介

『あの日のオルガン』
あの日のオルガン
2019年2月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
監督・脚本:平松恵美子
出演:戸田恵梨香、大原櫻子、佐久間由衣、夏川結衣、田中直樹、橋爪功、ほか
配給:マンシーズエンターテインメント

 

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文/ 福田素子