Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」

今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」

ショパンやベートーヴェンをはじめとする音楽に新しい光を当て続け、2017年にはデビュー30年を迎えたピアニスト・仲道郁代さん。旺盛な好奇心によってさまざまな分野の知識を吸収し、音楽の中に宿る豊かさを追求している。その一端をのぞかせていただこう。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

私にとって「一番多く聴いた曲」は「一番多く弾いた曲」になってしまいますが、それは間違いなくエルガー作曲の『愛の挨拶』です。
1980年代の後半にはすでに、リサイタルのアンコール曲として弾いていたと記憶していますが、現在までずっと弾き続けており、今ではこの曲を弾かないと終われないほどの大切な曲になりました。ですから少なくともリサイタルの数だけ『愛の挨拶』を、弾きながら聴いてきたことになります。 私にとっては、いろいろな曲を弾いた後に締めくくるお客様への挨拶であり、音楽を通じてお客様と会話を交わしながら、感謝の気持ちを伝えるために弾いている曲といえるでしょう。 常に、会場の雰囲気やその日に弾いた曲など、さまざまな要素が積み重なった上で演奏しますので、必ずその時だけの『愛の挨拶』になるのはいうまでもありません。お客様もお一人お一人が、ご自分だけの『愛の挨拶』を味わっていらっしゃると思います。 そうした多様性こそが音楽の素晴らしさなのだと思いますし、私自身も常に新しい『愛の挨拶』を演奏していくのでしょうね。

Q2.仲道さんにとって「音」や「音楽」とは?

人はシンプルな空気の振動である「音」から何かを感じ取ることができますけれど、その「音」に多くの先人たちが叡智を詰め込み、体系的に発展させた芸術が「音楽」だといえるでしょう。 ひとつの例を挙げるなら、すべての人には決して抗えない「生と死」があり、それぞれが「最後には無に帰するけれど、自分はどこに向かっているのだろう」と自問自答を繰り返しています。大きな震災の後など、辛いことがあると必ず向き合わなくてはいけない問題でもありますね。そうしたときに寄り添ってヒントをくれたり、前に進む力を与えてくれたりするのが「音楽」なのだと思います。 私たちは200年ほど前に書かれたショパンの音楽を演奏したり聴いたりしているのですが、なぜこの音楽は時間がたってもさまざまなことを語りかけ、新しい感情を引き出してくれるのだろうか、という疑問をもつことがあります。おそらく、そうした本質的なことを問い続けるのが芸術であり、それはいつの時代になっても変わらないことを証明しているのでしょう。 私は演奏家としてそれを追求し、聴いてくださる方に豊かな人生を送っていただくべく、全身全霊で音楽に取り組まないといけないと思っています。

今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

自由に、そして柔軟に心を解放できる人かなと思います。「こうでなくては」「こうであるべき」という考え方にとらわれず、自分の思いを素直に表現したり、相手に伝えたりすることができるのは素晴らしいですね。でも、自分を認めてもらうためには、まず相手の個性や価値観を認めることも大切ですし、その上で自分探しもできるという人こそが「遊ぶ人」になれるのではないでしょうか。 私は、認知心理学の研究者でいらっしゃる佐伯胖(さえきゆたか)先生が紹介されていた「まなびほぐし」という言葉を大切にしているのですが、これは自分探しをするための大切なプロセスであり、考え方のひとつだと思っています。「型どおりに編まれたセーターを一度脱ぎ、すべてをほぐして自分の体に合わせて編み直す」ということだそうです。自分の着ているセーターは、本当に自分の体に合ったものなのかは、一度俯瞰して考えてみないと気がつかないかもしれません。それは、「日本を出てみると初めて日本の良さがわかる」ということにも通じるのではないでしょうか。まったく違う世界の人とコミュニケーションを楽しんだり、意見に耳を傾けたり、他者を知ることで自分のまとっていた型というものを発見できるのです。 ピアノを自由に、遊ぶように弾きたいという方は、ぜひ自分を解放してみてください。

仲道郁代〔なかみち・いくよ〕
桐朋学園大学1年在学中に第51回日本音楽コンクール第1位、増沢賞を受賞。1987年にヨーロッパと日本で本格的な演奏活動をスタート。古典からロマン派までの幅広いレパートリーを持ち、国内外の著名オーケストラとの共演も数多く、人気・実力ともに日本を代表するピアニストとして活動している。デビュー30年となる2017年は、記念コンサートの開催や、CD、DVDのリリースなど、アニバーサリーイヤーにふさわしい活動が目白押し。
仲道郁代オフィシャルサイトhttp://www.ikuyo-nakamichi.com/

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:伊藤千晃さん「浜崎あゆみさんの『SURREAL』は私の青春曲。今聴くとそのころの記憶があふれ出ます」

4861views

音楽ライターの眼

ジェフ・ベック:ジョニー・デップとの共演作を発表した孤高のギタリストが見せるヒューマンな側面

3291views

楽器探訪 Anothertake

改めて考える エレクトーンってどんな楽器?

128853views

楽器のあれこれQ&A

モチベーションがアップ!ピアノを楽しく効率的に練習するコツ

40847views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8057views

重田克美

オトノ仕事人

スポーツやイベントの会場で、選手やお客様のためにいい音環境を作る/音響エンジニアの仕事

9085views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

17341views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8344views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

10966views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

7763views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5620views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9600views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12031views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13442views

7月に樫本大進と共演するアレッシオ・バックス、バロック作品を収録したアルバムを再リリース

音楽ライターの眼

2017年7月に樫本大進と共演するアレッシオ・バックス、バロック作品を収録したアルバムを再リリース

4363views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

5146views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

7617views

マーチング

楽器探訪 Anothertake

見て、聴いて、楽しいマーチング

15228views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

13921views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5304views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

12873views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6449views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9600views