今月の音遊人:秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」

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秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」
今月の音遊人:秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」

『千の風になって』の大ヒットから十余年。クラシックはもちろん、幅広いジャンルの楽曲を通じてクラシックの歌声の魅力を伝え続けるテノール歌手、秋川雅史さん。中学生でクラシック音楽と出会ってから今にいたるまでの永遠のテーマ曲や音楽への思い、現在の心境などについて語っていただきました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

オペラ『トゥーランドット』です。おそらく、数万回は聴いていますね。

クラシックに興味を持つようになったきっかけは、中学3年生のとき半ば強引に勧誘されてコーラス部に入部したことです。将来は声楽家の道へ進もうと考えはじめ、その魅力にとりつかれていきました。

なかでも感銘を受けたのは、高校生のときに初めて観たオペラ『カルメン』。そして、大学生のときに出会ったのが『トゥーランドット』です。テノールの役柄がとにかくかっこよくて、ものすごく感動しました。実はそのころ、僕はクラシックコンプレックスがあったんです。当時は、クラシック音楽は女の子がやるものだというイメージが何となくありました。実際は“男がやるかっこいいスポーツ”的な部分も多く、何とかイメージを変えたいという思いが強かった。そんなときに観た『トゥーランドット』のテノール役は、まさに自分が思い描く姿!ヒーローでした。

大学時代は毎日、朝起きたら『トゥーランドット』、学校から帰ったら『トゥーランドット』、夜もまた……。とにかくずっと聴いていました。そのころはまだまだ声楽の技術が未熟で、憧れてひたすら聴いていただけです。歌えるかもしれないと練習を始めたのは42~43歳になってから。長い時間がかかりました。今もいろいろな歌い手の『トゥーランドット』を聴いて研究しながら、自分のものにすることを目指して練習しています。

オペラは歌舞伎と同じで何百年という歴史を背負っているので、軽々しく出演できるものではないんです。でも『トゥーランドット』は、オファーがあればいつでも出る準備はできているし、近いうちにぜひ実現させたいと思っています。

Q2.秋川さんにとって「音」や「音楽」とは?

「人の心を動かすエネルギーを持ったもの」だと思います。

人間は生きていくために、食べ物や飲み物を摂ります。そして、健康に生きていくために体を動かします。この2つは肉体のためには必要不可欠で、誰もが日々無意識にやっていることですよね。なかなか目が行きにくいのですが、心も同じ。栄養や運動がないと弱ってしまうと思うんです。心のエネルギーや身体の調子を整えるものはいろいろありますが、そのひとつが「音」や「音楽」なのではないでしょうか。だから、いい響きに出会ったとき、人の心は動くのだと思います。

ただ、悪い方向に感情を煽ったり高揚させたり、間違った音楽の使い方をすると、マイナスのエネルギーになってしまいますよね。良くも悪くも人の心を動かす力を持った音楽だからこそ、僕は歌い手として聴いてくださる方のプラスに働くエネルギーを届けたいといつも考えています。

自分は究極のプラス思考の人間です。父は僕に、生まれたときからヴィヴァルディの『四季』を聴かせていたそうですし、声楽家である父の歌声を聴いて育ち、「音」や「音楽」にあふれた生活をしてきました。それが、プラス思考につながっているのでしょうね。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

音楽は英語なら「music」、イタリア語では「musica」で、文字通りそれだけの意味です。でも日本語では「音を楽しむ」という別の意味を含んでいますよね。では、自分は音を楽しんでいるかというと、実はそうではない気がします。歌を歌うことは、音を楽しむほど楽じゃないです(笑)。

自分は音楽とともに生きてきました。音楽をやってきたからこそ良い思いもできたし、音楽をやっていなかったらこんな苦しい思いをしなくてすんだのに、と考えることもたくさんありました。喜怒哀楽をともにしてきたので、「音楽が好き」とか「音楽を楽しむ」、「音で遊ぶ」などと簡単には口にできない自分がいますね。

一方で、聴いてくださる方には、単純に音楽を楽しみ、音で遊んでほしいです。音楽家は人を楽しませるためにどれだけストイックになれるかが大事だと思っていますが、聴き手に娯楽として楽しんでもらえたなら、いろいろな苦労は報われます。

実は40歳を過ぎて、年に一度の地元のお祭りの日以外(笑)、お酒を止めました。若いころは夜更かしをして、友だちとお酒を飲むのが楽しくて。でも世の中の楽しみと声を磨くことは正反対。昔は前者が勝っていたのですが、今は自分を磨くことの方が楽しいと思うようになりました。

2018年、声楽家であり、僕の最初の師匠でもある父が地元のホールでソロコンサートを開きました。その姿を見て、これからの自分の道しるべをつくってくれた気がしました。今51歳ですが、まだまだ成長の途中、人生を上っている段階です。生涯を通じて自分を成長させられる生き方をしたいと思っています。

秋川雅史〔あきかわ・まさふみ〕
1967年、愛媛県西条市生まれ。4歳からバイオリンとピアノを始める。後に声楽家である父の指導のもと、声楽の道に転向。国立音楽大学、同大学院で中村健氏に師事。その後イタリアに留学し、4年間の研鑽を積む。2001年にCDデビュー。2006年に「第57回NHK紅白歌合戦」に初出場を果たし、『千の風になって』を披露。2007年、紅白出演での歌唱が大きな反響を呼び、100万枚のセールスを達成、年間チャート1位を獲得。現在も全国で精力的にコンサートを行っている。

 

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文/ 福田素子
photo/ 後藤泰宏