おとまち 音楽の街づくり事業

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おとまち 音楽の街づくり事業

プロジェクト

課題解決に向けた取り組み

  • テーマ:街の歴史を未来へつなぐ音楽祭とは

春日大社×春日野音楽祭実行委員会×おとまち

春日大社×春日野音楽祭実行委員会×おとまち Photo by sencame

Project Report 街づくりの記録02
〜音楽祭を通じた街づくりと人づくり〜

2017.07.10

地域活動を自分ごと化させる
音楽の“見えない力”の活用

Report by おとまち/吉田

天の原 ふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも(阿部仲麻呂)

第9次遣唐使として、養老元年(717年)に19歳で日本を離れ唐に渡った阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)。35年もの月日を海外で過ごし、いよいよ日本に帰ることが決まり、送別会でこの歌を詠んだといわれています。

平城京ができたばかりの日本を若いころに離れ、結局、帰国することが叶わなかった彼をはじめ、たくさんの日本人が海外に学び、海外から様々な文化を持ち帰ったのが当時の都であった奈良でした。

1,300年もまえから海外文化の交流が盛んであった奈良。新たなものを吸収する力のある若者が海外との交流に積極的に関わっていたものと想像できます。

目次
  • 持続可能な音楽祭を目指して
  • 日本文化の原点をたどる②
    〜春日大社 宮司インタビュー〜
  • 春日野音楽祭と街づくりへの想い②
    〜初代事務局長インタビュー〜
  • 継続した取り組みへ
    ~第2回春日野音楽祭〜
  • 音楽祭を通じた街づくりと人づくり
持続可能な音楽祭を目指して

春日野音楽祭は「第60次式年造替」をきっかけに立ち上げられましたが、目指す姿は20年後に執り行われる「第61次式年造替」に向けて、地域に根付き、育っていくことです。
街づくりのための音楽祭として、重要なのが「継続していくための仕組み」です。

中心となるコンセプトを固めて、それを具体的な企画に落とし込む際に、今後継続していけるような運営の仕組みを少しずつ組み立てていきました。

春日野音楽祭の核となる企画は公募による「まちなかステージ」ですが、これは地域の至るところにミニステージを設け、同時多発的に演奏を行うことで、街中を音楽で彩っていくものです。この企画の運営に関して、募集要項の作成や選考と会場への振り分けまで一連の流れを組み立て、また出演者情報を現場スタッフと共有し、トラブルを回避できるよう当日の運営マニュアルへの落とし込みを行っていきました。

第1回春日野音楽祭タイムテーブル(イメージ) 第1回春日野音楽祭タイムテーブル(イメージ)
複数の会場で同時進行で演奏が進められるため、すべての会場で適切な準備と対応が求められる。

とはいえ、資料作成がいくら完璧でも、当日運営するのはあくまで「人」です。第1回春日野音楽祭では奈良のイベントには必ずといっていいほど関わられている3つの青年団体((一社)奈良経済産業協会青年経営者部会・奈良商工会議所青年部・(一社)奈良青年会議所)の皆さんに多大なご協力をいただきながら運営を行いました。

彼らの持つ現場の力を、ボランティア初体験も多かった学生メンバーに伝え、一緒に楽しみながら音楽祭を作るという経験を提供できたことが、音楽祭にとっての一番の価値なのだと感じています。

運営の土台づくりと、関わる人の力を最大限発揮するための役割分担の雛形ができたことで、第2回春日野音楽祭は新たな段階に進むことができました。

第1回春日野音楽祭開催レポート動画。
青年団体と学生メンバーを中心に、約200名のスタッフの手で2日間の奉祝行事をつくりあげた。

日本文化の原点をたどる②

春日大社
宮司 花山院 弘匡さん

人間は自然の中で
生かされているのです。

花山院(かさんのいん)家第33代当主 (提供:春日大社)
春日大社第60次式年造替 本殿遷座祭の様子。御本殿に隣接する御仮殿(おかりでん)より、4柱の神様を御本殿に御遷しする神事。2016年11月、20年に一度の大きな行事が無事に終了した。

日本の神道の大きな考え方として、自然の中で人々は生かされ、恵みを得て命をつないでいる、ということがあります。自然環境が生命そのものの源であり、自然の破壊された場所では人々は生きていけない。自然の中において神様が宿られ、人々を守ってくださっているということです。

春日大社の神山である御蓋山(みかさやま)は原生林です。県庁所在地で原生林が残っているのは日本で唯一ここだけです。世界中の先進国を見渡しても、約30万人が住む都市の近くに原生林が残っているのは御蓋山だけでしょう。世界で唯一の都市の原生林として、自然信仰により守られ、今も受け継がれている。この辺りは神道のそういう一面が色濃く残っている場所です。

いまは寒くなれば、石油でストーブをつけ、電気でエアコンを動かしますが、ほんの80年程まえまでは木を切って燃やすしか暖を取る手段はありませんでした。毎日の煮炊きも木を切って燃やす。つまり、人間が生きるということは木を切ること。人間が文明を起こして生活をするのは、木を切るという行為なのです。

しかし、奈良のこの周辺は日本最大の人口であった平城京の時代はもちろん、さらに平安、鎌倉時代も日本で有数の都市であったにもかかわらず、誰も木を切りませんでした。御蓋山は国民を守るために神様が降りて来られた場所だからです。何人たりとも生きとし生けるものを殺してはならない。木を切ってはならない。当然、神様のお遣いである鹿も殺さない。それは生命の源であって人間を守ってくれる神聖な場所だからです。そのため今も御蓋山・春日山は原生林なのです。

春日大社全景 奈良と春日大社を望む。1,000頭を越える野生の鹿と原生林が人の暮らしと共存しているのは世界でも奈良だけ。

神様は自然の美しいものに宿られます。それがお山であれば神山、素晴らしい岩があれば磐座(いわくら)、素晴らしい木があれば御神木。春日大社にとっては御蓋山が神山ですが、自然の美しいものを憑代(よりしろ)として、神様は私たちの生命のすべてを守ってくださっています。その中で、「幸せに過ごせますように」と、神様を祀り願うのがお祭りです。

お祭りというのは、身を清め、素晴らしいお食事である御神饌(ごしんせん)を捧げ、祝詞(のりと)を奏上してご祈願をする。そして、神楽(かぐら)を奉納します。素晴らしいお食事と音楽にて、神様にお喜びいただいて御加護をいただく。これはどんなお祭りでも基本的には同じです。

春日大社は神護景曇2年(西暦768年)に御本殿が造られました。そして、20年に一度、建て替えをする「式年造替」を行っています。私たちも新しい家や家具をそろえることで心身が清らかな気持ちになるのと同様に、神様にも美しく生命力の溢れる場で私たちを守っていただきたいという思いで1,250年もの間、この最大のお祭りである「式年造替」を継続してきています。

その式年造替を続けていくためには、文化や技術の継承が非常に重要です。人生50年の時代、宮大工の場合、15〜16歳で修行を始め、10年経って20代半ばで一人前になる。そして40代半ばで棟梁となり、自分の技術を次代に伝える。信仰、建物、技術のいずれについても、言葉では伝えられない感覚や思いの部分は、経験を通じて人から人へ伝えていく必要があります。神様へ感謝し、さらなる御加護を願うため、「式年造替」は最適な期間として、20年に一度にて執り行われているのです。

春日野音楽祭と街づくりへの想い②

初代事務局長 朝廣 佳子さん

ものごとの根っこの部分を
共有できる人材を育てたい。

初代事務局長 朝廣 佳子さん 「なら燈花会の会」初代会長、「平城京天平祭」実行委員長など数多くの奈良の街づくり事業を牽引。「わたしにとっての奈良は世界に誇る文化財のある日本の原点。ここで生活すること自体が恐れ多いと思うくらい感動して住み始めました。住むことだけでも感動するのに、奈良の街づくりに関われること自体がすごくうれしいです」

これまで奈良の中でもいくつか音楽祭は開催されていました。その中でも、春日野音楽祭は春日大社と私たち市民が新しいものをつくり出して、しかも一過性ではなく、続けていける土台ができました。これは大きな成果だと思っています。

というのは、音楽は昔から神社やお寺へ奉納してきたり、仏教では音声(おんじょう)菩薩がありますが、そういう原点を皆さんにお伝えできる音楽祭として開催できたからです。そこが春日大社さんと開催させていただいている大きな意義ですし、奈良ならではの音楽祭の意義だと思います。加えて、そういう新しい音楽祭をつくっていこうという仲間が、あれだけたくさん集まってできあがっていったというのも大きな成果でした。

これは次に向けた課題でもありますが、前回も多くの学生さんにご協力をいただきましたが、第2回以降はもっともっとたくさんの学生さんに関わっていただきたいと思っています。第1回春日野音楽祭では、学生さんには単に役割を与えるのではなく、ヤマハの吉田さんから奈良の歴史や街づくりについて学ぶワークショップを開催していただきました。“なぜこれをやるのか”“何のためにやるのか”というのは、どんな事業もそうですが、やっていくうちにどうしてもブレてきます。ブレたなと思ったときに、根本を確認することが大切なので、そこを春日野音楽祭では最初からきちんと教えていただいたのは非常に良いことだと思いました。だから学生さんにはもっと関わってもらって、そういった“ものごとの根っこ”を理解して、では、自分たちでこんなことをやってみようとか、この一ヶ所は私たちにやらせてくださいとか、こういう実験をしてみたいとか、そんな意見がどんどん出てきたら素晴らしいなと思うんです。

春日野音楽祭終演後の朝廣さん(前列中央)と学生ボランティアの皆さん。 春日野音楽祭終演後の朝廣さん(前列中央)と学生ボランティアの皆さん。
「街づくりは現場で学ぶもの。現場体験を重ねることで、いろんなことが勉強できる。
そこに学生時代から関われることはすごく幸せなこと」と朝廣さんは言う。

単にイベントのお手伝いでは続きませんし、それでは楽しさも感じられないでしょうから、こんなことが実現できたらうれしいね、ということを共有できる人たちをつくっていかなければいけないと思います。ものごとの根本から理解して進んでリーダーになるような人材をつくらないといけない。それは他のイベントをやっていた頃から奈良の課題として強く感じるところでした。

街づくりというのは現場で学ぶものだと思います。現場体験をいかに重ねるかで、いろんなことが勉強できると思いますし、そこに学生時代から関われることはすごく幸せなことです。そのことをもっと感じてもらって、学生自身が「おいでよ、一緒に春日野音楽祭やろうよ!」という風に誘い合えるようになっていけば良いですよね。やっぱり、見ているよりも関わったほうが断然面白いですから。「あぁ、もう、せっかく面白いのに。なんでやらないのかな」ってみんながそう思うようにしたいです。

これからは、奈良の古いものに若い人たちのアイデアを取り入れると、こんな面白いものが生まれるよ、というようなチャレンジができる音楽祭を目指したいです。昔の奈良だって、シルクロードを伝っていろんな人がやって来て、いろんなものが入ってきました。だから奈良の古いものだけを追いかけるのではなく、古いものを知ったうえで、そこから新しいものを生み出していきたい。音楽って、すごい自由じゃないですか。奈良の歴史ある街が、春日野音楽祭によってどう変わっていくのかなという楽しみがあります。チャレンジしていかないと、必ずマンネリ化していきますから、常に新しい何かを考えながら、守るべきものは若い人たちへ引き継いでいこうと思っています。
(掲載内容・役職等は取材時のものです)

継続した取り組みへ~第2回春日野音楽祭〜

第2回春日野音楽祭は2017年9月17日(日)に開催が決定しました。1日開催となりますが、前日16日(土)に、2018年に迎える春日大社御創建1,250年のプレ特別企画として、春日大社御本殿前の林檎の庭での特別奉納演奏を実施します。

春日野音楽祭を継続していくにあたり、第2回では重要なコンセプトとして「次世代育成」と「地域ブランディング」を掲げました。

奈良はシルクロードの終着点として、大陸の様々な文化を取り入れてきた場所であり、また、原生林の下に鹿がいて、人間がいるという理想郷とも言える場所です。史跡や寺社仏閣を含め、自然と文化が共存していることを奈良の魅力として発信していくことに取り組んでいきます。

一方で、奈良は外部評価に比べて内部評価が低い地域です。1,300年もの歴史を持ち、今なお日本文化の創成期を感じさせる様々な文化的なルーツがあるにもかかわらず、それらが住民よりも外にいる人から見た方がより魅力的に感じているという調査結果が出ています(下記)。

“属”ブランド力の内部評価と外部評価 <出典>「博報堂 人に注目した都道府県の“属”ブランド力調査(2014年5月)」より。
奈良は内部評価を高めるべきと指摘されている。

地域にいる人たちがその価値に改めて気付くためには、地域外の人に奈良に足を運んでもらい、その価値を外から発信してもらうことがポイントだと感じました。この音楽祭を通じて「奈良に演奏を奉納しにいく」という新たな体験を定着させることで、奈良にいる皆さんにも自分たちの住む地域がそんなにも魅力的な場所なのだと再認識してもらいたいと考えています。

音楽祭を通じた街づくりと人づくり

「街づくり」という言葉の意味は広く、一般的には交通や生活環境の整備という意味が強いですが、音楽による街づくりの大きなコンセプトのひとつは「地域活動に関わる主体者づくり」です。

特に奈良は学生の県外流出率の高い地域でもありますので、学生や若い人たちにとって、自分たちの故郷が誇れる場所であることを実感してもらえるよう、まずは楽しみながら自分ごととして関われる地域活動として、この音楽祭を育てていく必要があると考えています。

演奏者・学生をはじめとして、小さなことから関ってくれる仲間を少しずつ増やし、貴重な体験を共有して、その根底となる思いを後世に受け継ぎながら試行錯誤を繰り返して継続する仕組みを形づくっていく。そのプロセスは1,250年続く式年造替の理念と同じであり、持続可能な街づくりにおける根底のあり方だと思います。

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