AVアンプ

AVアンプ -限られた空間に広がる音の小宇宙。-

ホームシアターシステムの中心にあって全てを制御するAVアンプ。
その開発はどこか、限られた空間内に様々な工夫を凝らして1つの小宇宙を表現する日本文化を思わせる。
ひとつひとつを際立たせながら、全体を美しく調和させていくために、想像を超えた強い想いがある。
 

直方体のミクロコスモス ゼロからの再構築 DSPという資産 鮮やかな空間表現力 永遠の方程式

開発者プロフィール 小関 泉
小関 泉
AV機器事業部 商品開発部
AVレシーバーグループ 開発担当技師
■これまでの主な担当製品
・DSP-A3090 ・DSP-A1 ・DSP-Z9
・DSP-Z7 ・RX-V3067
DSP-A1
DSP-A1
RX-V3067
RX-V3067
■趣 味
・音楽鑑賞 ・映画鑑賞 ・パソコン
・サッカー ・水泳 ・オートバイ ・旅行
開発者プロフィール 加納 真弥
加納 真弥
AV機器事業部 商品開発部
AVレシーバーグループ 技師補
■これまでの主な担当製品
・ホームシアターシステム(VS-10)
・DSP-AX630 ・DSP-AX640/740
・DSP-AX750 ・DSP-AX1400/2400
・DSP-AX1700 ・DSP-Z11/Z7
・DSP-AX3900
DSP-Z11
DSP-Z11
DSP-AX3900
DSP-AX3900
■趣 味
・写真 ・ドライブ ・旅行
・キーボード ・シンセサイザー演奏
開発者プロフィール 橋 紀幸
大橋 紀幸
AV機器事業部 技術開発部
第二開発グループ 技師補
■これまでの主な担当製品
・DSP-AX1 ・DSP-AZ1 ・DSP-Z9
・DSP-Z11 ・YSP-1
・YSP-1000/800
DSP-Z11
DSP-Z11
YSP-1
YSP-1
■趣 味
・音楽演奏(打楽器)/音楽鑑賞(吹奏楽、管弦楽、Jazz、Rock、他)
・読書 ・料理
加納:AVアンプって、最先端の機能がめいっぱい詰まったオーディオ機器という印象があるでしょう。でも本質の部分では、意外にもオーセンティックな日本文化と似ている気がするんですよ。

長いインタビューの途中、自ら手がけた最新モデルの構造について説明を加えながら、その若いエンジニアはふと思い出したようにこんな言葉を口にした。加納真弥、ヤマハのAVアンプを数多く設計してきた音質チューニングのスペシャリストだ。ロック、ジャズ、クラシック、ラテン――幅広い音楽を聴いている彼は、伝統文化に特別詳しいわけではない。だがこの仕事に深く関わるほど、そんな思いが強まってきたという。

加納 真弥
加納:私たち日本人はずっと昔から、限られた空間に小宇宙を見出してきたと思うんですね。古い庭園や盆栽のベースにある美意識がそうだし、伝統的なコース料理である懐石もそう。素材を吟味し、それぞれの持ち味を際立たせながら、全体である秩序を表現することに長けている。そういう部分が、AVアンプの設計にも通じてるんじゃないかなと。

実際、AVアンプに求められる機能は、年々増えるばかりだ。ブルーレイディスクやDVD、デジタル放送などのマルチチャンネル信号をデコードし、複数のサラウンドスピーカーに振り分ける一方で、映像信号も適切に処理しなければいけない。ホームシアターをさまざまな機器で構成されたオーケストラとするなら、いわば中心で全てをコントロールする指揮者のような存在。その者の実力によって、ユーザーが受け取る感情も大きく変わってしまう。設計を任されたエンジニアの責任はきわめて大きい。
もちろん最新のサラウンド音声フォーマットや、バージョンアップを繰り返すHDMIのようなデジタルインターフェースにもいち早く対応する必要がある。言い換えれば「数あるAV機器の中で、きわめて変化と競争が激しい領域」。加納の上司で、開発全体のマネジメントを担当する小関泉もまた、AVアンプの設計には「卓越したバランス感覚が不可欠」と話す。

小関 泉
小関:ひたすら高音質のみを追求できるステレオアンプと違って、あらゆる要素を高いレベルでバランスさせなければいけない。そこにAVアンプの特徴があります。とりわけ近年は、7.1chサラウンドが標準になってスピーカー数が増えた上に、iPodやパソコン内の音源をネットワーク経由で再生するなど、ソースのかたちも多様化している。入れなければいけない機能が多くなれば、当然、回路の数も増えていきます。それらを一定のスペース内に収め、基本となる音質をきっちり作り込んだ上で、さらに製品としての音質を仕上げなければいけない。エンジニアにしてみれば、複雑な連立方程式を解くような難しさがあると思います。

2010年秋に発表された『RX-V3067』『RX-V2067』『RX-V1067』は、その難問に対してヤマハが出した、最も新しい回答と言えるだろう。フラッグシップモデルとして高い評価を獲得している『DSP-Z11』の設計思想を受け継ぎつつ、よりリーズナブルな価格帯で最新の音声・映像テクノロジーを盛り込んだ、「直方体のミクロコスモス」とも言うべきハイクラスシリーズだ。
多くの場合、AV機器は前のモデルにさまざまな新機能を付け加える形で開発される。だが今回「V67」シリーズを構想するにあたり、小関は別の方法を選んだ。培ってきた資産をいったん白紙に戻し、シャーシの構造から基本的なパーツ配置まですべて設計をやり直したのだ。

小関:住み心地をよくするため古い家の増改築を重ねても、やがては限界が来ますよね。それと同じで、音のクオリティや新旧のバランスをとるには、ある時点でベースの部分から建て替えることが必要。たしかに大変な作業ですが、回路構成や基盤、パーツの最適配置をゼロから見直すのは、トータルの品質を大きくレベルアップさせるチャンスでもあるんです。

検討メンバーに選ばれた加納は、映像からソフトウェアまで各分野の担当者を交えて、まず自分たちが目指すべき方向性を徹底的に話し合った。それぞれの立場から思いをぶつけあう過程で、出てきた結論は「お客様の環境で、とにかく音がよく、使いやすいAVアンプにしたい」というきわめてシンプルな結論だったという。

加納:音の純度を高めるためには、何よりもまず、振動に強くしっかりした構造が重要です。どんなに精密なオーディオ回路を作っても、外側がヤワではどうしようもない。だったら一番音質のいいフラッグシップモデル『DSP-Z11』の筐体設計をできる限り踏襲するのがベスト。もちろん最上位機種とはかけられるコストも違うし、組み立ての手間も余計にかかります。それを全て承知の上で、開発の起点をそこに定めた。新しいシリーズが秩序ある小宇宙になるか、それとも雑多な機能を並べただけの空間で終わるかは、全てこの骨格作りにかかっていると考えたからです。

『DSP-Z11』と同じように、最も質量の大きいパーツである電源トランスをシャーシ中央に設置。左右対称のコンストラクションを採用して安定性を確保した。限られたコスト内で理想の重量バランスと強度を実現するため、新たに2本の梁を用いてシャーシ底面を補強するなど、さまざまな工夫も随所に凝らしている。さらに、パワーアンプ出力段のヒートシンクをあえて左右2枚に分けているのも、大きな特徴。これによってフロント、サラウンドスピーカーそれぞれのL/Rセパレーションが向上し、音の広がりがぐっと良くなった。
最大拡張チャンネル数は上位モデルから順に11.2ch、9.2ch、7.1ch。最初にコンストラクションを固め、3モデル共通のプラットホームを作ったことで、価格に応じたバリエーションも出しやすくなった。最たる例が、デジタル入力の音質を大きく左右するD/Aコンバーターだ。最上位の『RX-V3067』には『DSP-Z11』と同じくバーブラウン社の高品位コンバーターを投入。下位の2モデルについても同一ブランドでより手頃なパーツを採用して、グレードを超えた音色統一にも気を使っている。

加納:音作りというのは、結局のところ地道な検証の繰り返しなんです。少しずつ条件を変えつつ、何百時間もひたすら聴き込んで、理想の音を見出していく。ただ今回、「音がよく、無駄のない」プラットフォームを3モデル共通としたことで、音質設計を効率的に深く行うことができ、何よりも、ハイエンド機の音質をリーズナブルな価格帯に持ってこれた。AVアンプは機能進化をしなければならない宿命ゆえ、同じオーディオクオリティの製品が値上がりするジレンマを抱えますが、「V67」シリーズはこのジレンマを超え、「価格以上の音の価値」を従来よりも数段高いレベルに到達したモデルと自負しています。 構造を一新したことで、進化の可能性もぐっと広がりました。次のモデルで導入したい機能、改善したい箇所などが、自分の中ではもうすでにリストになっている。ワクワクします 。
●進化した自動補正機能
どれほど緻密に作り込んだDSPも、ユーザーの室内環境で自然に響かなければ意味がない。このためヤマハのAVアンプでは、理想のシアター空間を自動的に創り出す視聴環境最適化システム「YPAO:Yamaha Parametric Room Acoustic Optimizer」をいち早く採り入れてきた。さらに今回『RX-V3067』『RX-V2067』では、部屋の初期反射音を制御する「YPAO-R.S.C.(Reflected Sound Control)」を搭載。室内の壁や床から返ってくる不規則な初期反射音を音場補正技術で調整することにより、室内の環境に関わらずバランスの整った視聴空間を創り出してくれる。


大橋: ホームシアターを楽しむ際、スピーカーから直接耳に入ってくる直接音の他に、壁や天井、床などに反射して届く初期反射音があります。時間軸上で見ると、最初に直接音が届き、少し遅れて反射音が届くことになる。この際、約30ms以上遅れて耳に届く音は残響として感じられるのですが、遅延がそれほどない音は直接音と微妙に重なり合って、音の濁りやぼやけなどの悪影響を与えることがある。このような早い時間帯の反射音を補正することで音がよりクリアになり、フォーカスも良くなってくるんです。 スピーカーの配置や設定だけでなく、その再現空間がどうなってるかまで考えているメーカーは多くない。このような音場補正技術もすべて自社開発し、相乗効果でDSPの価値もいっそう高めてくれるところも、ヤマハならではと言えそうだ。
●進化したユーザーインターフェース
よい音を提供するための工夫、様々な顧客による使われ方の違い、様々なクオリティのコンテンツ再生のコントロールを宿命とするAVアンプにとって、「お客様がどれだけ使いこなせるか」を決めるユーザーインターフェースはきわめて重要である。ヤマハは『DSP-Z9』でAVアンプで世界初のGUI(Graphical User Interface)を搭載し、またその後も「日常的なワンタッチ操作」を意識した、SCENE機能やSystem Memory機能を発展させ、この課題に真摯に取り組んできた。 小関: モデル企画段階の開発者議論で、「音がよく・使いやすいAVアンプ」という結論を導きだした結果、ユーザーインターフェースでこれまで出来なかった抜本的な部分を改善しようという機運が高まり、仕事が大変になるのは承知の上で根本的に変えようということになりました。 「V67」シリーズではその一つの解として、「アイコンオペレートGUI」「SCENE PLUS」という機能の完成をみた。 加納: ユーザーインターフェースは極論的には「誰が・何のために・何をするつもりか」により最良の解が違うものであり、幅広い顧客の幅広い使い方があるAVアンプで調和をとるのは、音以上の壮大な小宇宙空間を感じます。今回GUI開発は、GUI担当ソフトウェアエンジニアが「やりたくてもできなかった案」を具現化し、GUIエンジンのハードウェアエンジニアと「この表現をするために、このハードウェアをいれて」という専門担当の壁を越えた密な「よいものを生み出すチームワーク」により生み出されました。 またワンタッチ操作では、「玄人さんが最良の設定をSCENEに登録し、女性や子供でも1キーだけで最高を得られるようなものにしたい」という思いの元、中高級機種で搭載してきたSystem Memoryに匹敵する拡張性をより簡単に・より使いやすく提供する方法を試行錯誤し、「SCENE PLUS」として実現することができました。 新しいGUIは不要に画面がすべて隠されることがなく、BDのポップアップメニューのような「シームレスさ」をはじめ、見栄えだけでなくiPodやネットワークコンテンツの曲選びは入力切替すればそのまま操作できる、操作の流れの「シームレスさ」がある。SCENE PLUSもリモコンやGUIから1操作のみで目的のコンテンツ最適再生が実現され、「多機能を普段はシンプルに使う」という調和が存在している。
AVアンプを「ホームシアターの指揮者のような存在」と考えるのであれば、ユーザーインターフェースこそ、指揮者そのものかも知れない。音・映像・機能という名の演奏者と名指揮者が奏でる壮大なシンフォニーにしたい・・・そんなヤマハ開発者の想いが凝縮されたモデルが「V67」シリーズといえるのではないだろうか?
さらにもう1つ。ベーシックな音質の良さに加え、ヤマハのAVアンプの大きな特色に「シネマDSP」技術がある。通常、DSPと言えば「デジタル・シグナル・プロセッサー」というチップ全般を指すが、ヤマハがいうDSPは「デジタル・サウンドフィールド・プロセッシング」の略。劇場やコンサートホール、映画館などさまざまな空間が持っている「固有の音の響き」を家庭で忠実に再現するテクノロジーだ。

小関:1980年代半ば、まだ2chのアナログソースしかなかったホームシアターの草創期から、私たちヤマハはDSPを独自に進化させてきました。その技術とノウハウの蓄積については、どこにも負けない自負があります。

自身、20年以上にわたりAVアンプの歴史に立ち会ってきた小関は話す。最大の違いは、全てリアルな音場データをベースにしていることだ。

小関:ご存じの通り、我々はもともと楽器メーカーです。それがきっかけとなり、1970年代からはコンサートホールの設計も手がけるようになりました。こと音響については、当初から多くの経験と生データを持っていたわけです。1986年、家庭用としては世界で初めて音場創成機能を搭載した『DSP-1』を発売したときには、各国の著名なホール、オペラハウス、礼拝堂などを巡って測定した音場データを使用しました。それ以来ずっと、どうすればお客さまの室内に自然なサウンドフィールドを再現できるかを追求してきた。そういった基礎研究は、現在のAVアンプにもそのまま生きています。

測定された音響データには、ホールの壁面、天井、床など、あらゆる方角から跳ね返ってきた膨大な反射音の情報が含まれている。そのサイズはあまりにも大きく、とてもAVアンプのICチップには収まりきらない。そこで重要になるのが、極力オリジナルのキャラクターを残しつつ、適切なサイズにデータを調整する作業だ。そのエキスパートが大橋紀幸。かつては海外の著名なコンサートホールや演奏会場を巡って音場測定を経験し、現在ではヤマハのAV機器製品全般にわたってDSP関連の技術を担当している。

橋 紀幸
大橋:私たちのDSPには、大きく2つのカテゴリーがあります。1つは、世界中の有名な演奏会場をそのまま再現することで音楽の臨場感を高めるコンセプトの「HiFi DSP」。もう1つは、それらの測定データを用いて現実には存在しない、物語を楽しむ為の音空間を創り出すことで、映画やゲームなどへの没入感を高めるコンセプトの「CINEMA DSP」です。後者には「Spectacle」「Sci-Fi」「Adventure」などのモードがあって、映画の魅力をより引き出すような音場効果をお好みで付け加えてもらうことができます。このDSPの音作りが、なかなか一筋縄でいかないんですね。データ加工のほんの小さな差によって印象がガラリと変わってしまう。エンジニアの感覚次第で仕上がりが大きく左右されることも少なくありません。

たとえば「HiFi DSP」でデータサイズを削減する場合、不用意にオートマティックに音を間引こうとすると、とたんに元の雰囲気が消えてしまうこともある。人の耳にはほとんど聞こえない微弱な音だからといって、一定レベル以下をバサッと切ってしまうだけでは論外。膨大な音場データ内で、どこを生かしどこを切るかという判断を、1つずつハンドメイドで行うしかない。

大橋:だからこそ測定現場に立ち会って、その空間の音場を感じるというリアルな経験はとても大切だと思います。実作業ではそのイメージを頼りに、ひたすら聴き直しながら実際の響きに近付けていくしかない。その際、データとしては多少いびつな形をしていても、「自分の聴いた印象はこれに近かった」と判断できるかどうかは大きいですよね。実際の音場を知っている人間が社内に多数いるというのも、私たちの資産じゃないかと。

シミュレーションで作った音場効果とは違って、生の音場データは形が整っていない。計算では生み出せないそのランダムな揺らぎが、心地のいい響きには欠かせないという。その自然さを残すため、膨大なデータからいかに特徴的な部分を残し、全体をコンパクトにまとめるか。その難作業を、大橋は「写真をもとに似顔絵を描くような感覚」と表現する。

大橋:例えばデジタル画像でも、実際よりほんの少し色を鮮やかにした方が、その人の記憶に近づいたりするでしょう。DSPもそれと同じで、ハードウェアの制限がある中で自然さを表現するためには、要所ごとにうまくデフォルメしてあげることも必要。データとしての理論的な正しさは当然追及するとしても、最後は人間的な感覚を大事にしていますね。
構造設計の面から音質を追求している加納と、DSP周りのプログラムを担当する大橋。それぞれ「V67」シリーズのハードウェアとソフトウェアを担うこの2人は、プライベートではバンドの仲間でもある。キーボードを弾く加納は、高校時代には吹奏楽部とミュージカルを掛け持ちし、大学時代は社交ダンスのサークルに所属していた。同期入社の加納をバンドに誘った大橋は、10代前半に打楽器を始め、現在も様々なジャンルで演奏を楽しんでいる。

小関 泉,加納 真弥,橋 紀幸
加納:僕ら以外にも、楽器を演奏する社員は多いですね。モニターライクで正確な音より、むしろナチュラルな臨場感やリアルな演奏感を志向しがちなのは、つねに音楽が身近にあるという企業風土が大きいような気がします。実際、チューニングに行き詰まったときはよくバンド仲間に相談するし、音楽活動のつながりが元で新しい技術のアイデアが生まれることも多いんです。

今回「V67」シリーズに導入されたシネマDSP<3Dモード>も、もともとは加納と大橋のやりとりから生まれたという。従来のシネマDSPに高さ方向のデータを加えることで立体的サラウンド空間を創出し、空間表現力を飛躍的に高める注目機能。これもまた3年前、フラッグシップモデル『DSP-Z11』に初めてシネマDSP³として搭載されたものがベースだ。 実はヤマハではその前から、左右フロントスピーカーの上方に小型のプレゼンスピーカーを設置する独自の「9.2chシネマDSP」を提案していた。この際、床にあるフロントスピーカーでは、マルチチャンネルの音声ソースをそのまま忠実に再生。それに対し、上にあるプレゼンスピーカーからDSPで創成した効果音のみを付け加える。これにより高さと奥行き方向の臨場感を広げるというものだ。この発展形として、加納は『DSP-Z11』で「11.2chシネマDSP」を企画する。7.2chのサラウンドスピーカーに対し、前方・後方の上にそれぞれ2つずつプレゼンスピーカーを設置するという提案だ。

大橋:もともとシネマDSPのデータは、3次元の位置情報をすべて持っています。でも当時は、効果音とソースの出力先は分離すべきものとして、出力先が足りないために二次元に変換したデータを扱っていた。その方がマルチチャンネル音声のソースをピュアに再生でき、音がよくなると考えていたからです。ところが加納から11.2chをやるという企画を聞かされ、スピーカー配置図を眺めていた際、これならスピーカーで直方体を描けるなと気付いた。スピーカーを線で結んだときに視聴者を囲む箱を描けるなら、効果音を3次元空間に定位できるはず。いつか試してみたいと思っていたことでもあり、逆にこちらから加納に提案を戻しました。

3Dモードが入って、シネマDSPの空間描写力は飛躍的に高くなった。例えば、オペラハウスのシーン。従来のように天井から降りそそぐリバーブに加えて、壁面からの反射音もすべて高さで表現されるため、建物全体が鳴っているような感覚が一層リアルに伝わってくる。出口が一部共有され音質が悪くなるという想像ははずれ、むしろ上下前後左右のスピーカーがよりシームレスに、クリアになじむようになった。加えて「V67」シリーズでは新開発のVPS(バーチャル・プレゼンス・スピーカー)機能を搭載。これによってフロントプレゼンススピーカーのない通常の7.1chおよび5.1chのスピーカー配置でも、擬似的に3D感覚が楽しめるようになった。
最新テクノロジーを駆使して実現されているのは、自分がその場所にいるかのような臨場感であり、指を伸ばせば触れられそうな音の実在感――つまり、自然であるということだ。最高のホームエンターテインメントを提供するため、エンジニアたちはそこに全力を注ぎこんでいる。
新時代のニーズに応えるため、筐体内にさまざまな信号処理回路を抱えこんだAVアンプ。ともすればコンフリクトを起こしがちな要素をまとめ上げる作業は、技術者にとっては、永遠に解けない方程式かもしれない。だが、その難しさ故に「何が本質なのか、自分自身に問いかけるチャンスを常にくれる」と加納は話す。その表情はどこか嬉しそうだ。

加納:無限の課題があるから、可能性も限りなく広がっていく気がするんですね。矛盾と格闘し1つひとつ機能を積み上げていくことで、新しい世界をどんどん作っていける。オーディオの技術者にとってはずっと楽しめるパズルであり、同時に自分を高めてくれる師匠なのかもしれない。

より高度な調和を求めて、AVアンプの中のミクロコスモスはこれからも進化を続けていく。

小関 泉,加納 真弥,大久保 茂治,大橋 紀幸
この記事は、2010年10月に行われた
インタビュー取材をもとに再構成したものです。
このページをダウンロードすることができます(532KB)

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