

大室 裕昭 (商品開発部打楽器設計課)
1981年入社。これまでにティンパニと、ビブラフォン、グロッケンシュピール、マリンバ等の音板打楽器の開発・設計を担当。現在は打楽器全般における新商品開発のプロジェクトリーダーや設計リーダーを務める。
※所属部署および部署名は取材当時のものです。
このシリーズを開発することになったきっかけを教えてください。
- 大室)
- これはもともと技術サイドでヤマハのスネアドラムのラインナップを見直そうという動きから開発が始まったモデルです。ユーザーやアーティストから要望が出てから基礎研究を始めるのでは時間がかかってしまい、要望があるうちに商品を出せないということもあるのですが、このモデルは技術サイドでの見直しをしていたときに同様の要望が上がって、タイミングよく投入できました。 スネアドラムの分野で、いままでヤマハになかったようなハイエンドのスネアドラムをつくろうというのが最初の目的でした。 ドラムセットのスネアドラムについても、当時ヤマハはまだまだ市場での地位が低いのではという話もあって、スネアドラムの新しいモデルの開発が急務だったわけです。 そのときドラムセットの開発マネージャーだった上司から、アメリカのNAMM(総合楽器ショー)に行ってスネアドラムを研究してこようと言われて、そのついでにその上司の紹介で色々なスネアドラムを見せてもらいました。 もちろんお店も回りましたし、他社の古いスネアドラムを見せてもらったり、ハリウッドのスタジオで録音をしているスタジオプレイヤーに話を聞きに行ったりもしました。 その方は大きな棚にきれいにスネアドラムを並べて、コンサートのたびにその棚ごと移動させていたんですよ(笑)
このスネアドラムには3種類のスネア(トリプル・スネア・システム)が搭載されていますが、
このシステムを採用することになったのはなぜですか?
- 大室)
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3つのスネアを搭載することになったきっかけは、アメリカからの要望でしたね。
今の3つの材質に決まるまでにはいろんな材料を試しました。工場にスネアドラムが大好きで詳しい方がいて、その方がスネアを工夫していろいろな種類をつくったわけです。手作りでいろいろな材質でいろいろな巻き方でつくったんですね。それまでスネアというとばねを伸ばしたような決まった形で材質がちょっと違うくらいで、どこもあまり差がなかったんですね。でもその方がつくったものは「密着巻き」といって、ばねのように間があいた物ではなく、隙間がくっついたものでした。巻くときの太さもいろいろなものをつくって、やや太めに巻いたものや細めに巻いたものなど、いろいろなものをつくってもらいました。太めに巻いたものをぐっと長く伸ばしたり、細めに巻いたものを少しだけ伸ばしたり、いろいろな組み合わせでね。そうするとコイルの波打ち方がいろいろな種類のものができるわけですよ。金属は延ばされると硬くなりますから、延ばした程度によって、硬さも変わって来るわけです。だから音色も全然違う。そうやってものすごくたくさんの種類のスネアをいろいろな材質でつくって試しましたね。
評価は、国内外で活躍されているプロの先生方にお願いしてやっていただきました。先生たちも「スネアの具合でこれほど音色が変わるのか!」と驚いていらっしゃいましたね。その中で良いものを選んでいって、現在搭載している3種類の材質で、それぞれにあった巻き方のものが採用されたわけです。
だから、アメリカからいろんな種類のスネアを混ぜてくれという要望はあったのですが、当然作る側としても見た目やファッション性で楽器を作ることはしたくなかったので、ただ他社に追随してヤマハも、というのでは意味がなく、スネア自体には非常にこだわりを持ちました。 - ブラスコイルのスネアは、ピアニッシモのときにものすごく繊細なスネア。ワイヤースネアは、強く叩いたときにすごくパワーが出る。それぞれのスネアの性質というのがすごくわかったので、ピアニッシモに適したものと標準的な音の強さに適したもの、フォルティッシモに適したもの、3つ混ぜたらどうかということになったんですね。3つ混ぜれば、1種類のスネアよりも優れたものになると考えたんです。それで最終的にこのトリプルスネアシステムに落ち着いたわけですね。
標準搭載している3種類のほかにもう1種類スネアが付属されていますが、これはなぜですか?
- 大室)
- 付属でもうひとつ入っているスネアは、ハイカーボンスチールコイルスネアなんですが、どうしても最後まで判断がつかなくて捨て切れなかったんです(笑)。だから標準搭載ではありませんが、付属として同梱して、奏者の好みに合わせて使っていただけるようにしたんです。音色としては、切れがよくてスネアドラムらしいしっとりした音が出るというのが特長ですね。標準搭載している3つのスネアは、コンサートドラムらしい乾いた音が特長ですが、一方でマーチなどでも使えるようなスネアドラムらしい音色も出せる、またパワーもあって高い音も出るということでこのスネアを付属したんです。取り替えるときには、ブラススネアと交換していただくのが良いでしょうね。
GSR-1450は、ローズウッドのシェルを「樽型成型」という特殊な方法で成型していますが、
これについて詳しく教えてください。
- 大室)
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ローズウッドの樽型成型は、工房の方のアイデアから生まれたものです。工房の中には金属加工が得意な方と木工が得意な方がいます。金属加工が得意な方は何でも削ってつくってしまえばいいじゃないかという発想があるんですよね。だから彼らは、全部板を張り合わせて、あとで削ったらどうかと提案してくれたんです。で、それを木工職人が持つ技術で作ってみたらうまくいったんです。まさに金属加工職人のアイデアと木工職人の技の融合ですね。
それまではやはり合板を何プライと巻いてつくるという発想しかなかったのですが、新しいスネアドラムですからもっと面白いアイデアを求めていたんですね。そこで、マリンバの音板で使っているローズウッドがあるからそれを使ってみようということになったんです。ローズウッドは非常に音響特性がよいし、反応も良いし、強度も高いし、高いピッチにも適しているということで、木材の中では非常に優れた材料なんです。
他メーカーではシェルの表面にローズウッドを使用しているだけで、中の材質は違う木材を使っているというところもありますが、ヤマハはこういうなかなか手に入りにくいソリッド材のローズウッドで、樽型に成型してスネアドラムの形にしているんですね。 - ヤマハはマリンバやシロフォンでローズウッドを使っているので、そこは強いのではと思いますよ。音色や特性の優れたローズウッドという木材を充分に生かしきれていると言えるでしょうね。
もともとはマリンバの音板で使用したあとの残りの部分でこのスネアのシェルの部分を確保できるだろうと思っていました(笑)。しかし最近はその年によって材質自体もかなり違っていて、今マリンバで材料として大部分は使えているので、そうするとスネアドラムの生産ができなくなってしまう(笑)。それではいけませんから、今ではスネアドラム専用に木材もきちんと確保しています。
この材質やサイズに落ち着くまでの道のりは長かったですか?苦労した点などあれば教えてください。
- 大室)
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この仕様に落ち着くまでには商品企画から2年くらいかかりましたね。
シェルももっと厚いシェルでもっと深いものがいいというイメージもあり、いろいろな深さや厚さで試作もしましたが、結局今のサイズがベストだとわかるまでにいろいろなことを試しました。
あと、スネアも先ほどお話ししましたようにいろんな材質のいろんな巻き方のものを試しましたし、ストレイナー自体もなかなかいいものが思い浮かばなくて、やはり他社とは違うヤマハ独自のシステムを採用したかったので、それを形にするまでに時間がかかりましたね。このストレイナーの作り方はうちの特許なんですよ。
ストレイナーは普通、スネア自体を端から持ってぐっと引き上げるタイプなんですが、このモデルはそうではなくてスネアを内側から押して外側に張るという逆の発想でつくられているんです。これも工房の人のアイデアから生まれたものです。
この3種類のスネアを張るのに「難しい」という声を良く聞くのですが、なにか張り方にコツはありますか?
- 大室)
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おそらくスネアを張るときに、このスネアドラムは音色を自由に変えられるということをあまりにも強く思い込みすぎて、そういうイメージが先行しすぎてしまうのではないかなと思いますね。ですから、ひとつを必要以上に強く張るというような極端なことはせず、3つのスネアをバランスよく張って、みんな均等に張るというのが第一ですね。
音色をつくるというのは微妙なところであるので、極端に張り方を変えることによって急激に音色が変わるというわけではないんです。ですから、まずはどのスネアもバランスよく均等に張った上で、お好みのものをほんのわずか強くしたり緩めたりすることで音色が変化するという意識で演奏していただければと思います。



