スペシャルインタビュー
パリ在住、ヨーロッパと日本を常に往復。精力的な演奏活動を繰り広げるバイオリニスト神谷未穂さん。今回は感性と知性を刺激するアーティストと評されるエレガントな素顔とおしゃべりで夏の午后をお届けします。

― 本日はお忙しい中、ありがとうございます。おそらくもう何十回も同じ質問をうけられていらっしゃると思うのですが、どうしてバイオリンを始められたのですか?
神谷氏(以下K氏):私には9歳年上の姉が居まして、彼女が先にバイオリンをはじめたんです。祖父がとても音楽が好きで、自然と家の中に音楽がありました。それから、母がオードリー・ヘップバーンの「昼下がりの情事」という映画が好きだったんですね。
― ヘップバーンが音楽学校でチェロを学んでいる役柄の映画ですね。
K氏:ええ。当時、母はチェロにも子ども用の小さいサイズがあるのを知らなかったようで、「バイオリンなら小さいのがあるし、バイオリンから始めましょう」と。私が生まれたときには、すでに姉が上手に弾いていたので、私はバイオリンのはじめのギコギコといやな音を聞かずに育ち、バイオリンは綺麗な音がする楽器だという憧れを最初から持っていました。
K氏:桐朋学園の子どものための音楽教室に入り、そこでオーディション等も受けていたんですが、頑張って良い成績を残せたので「私でもやっていけるんじゃないか?これは!」と思って(笑)。それに、姉と一緒にコンサートへ行くことも多かったので、私もあんなふうに舞台で演奏してみたいなぁと。桐朋の大学に進学する前からプロになりたいなと思っていました。

― 大学を卒業されてドイツのハノーヴァーに留学されていますが、これはどんなきっかけで?
K氏:これは自分がヨーロッパの作曲家の勉強をしているときに、いつかヨーロッパの空気を感じてみたい、学生の頃からどこかヨーロッパへ行きたいと考えていました。ハノーヴァーにしたのは北九州の音楽祭でコンクールがあって1位を頂いたときに、副賞としてフィンランドのクフモ音楽祭に招いていただいたんですが、ウィーンのバイオリニストのクリスティアン・アルテンブルガー氏のレッスンを受けて、その先生の演奏と、レパートリーや知識の豊富さに感銘して、ぜひ教えていただきたいと思いました。
― その後、ドイツからフランスに移られていますが?
K氏:ドイツに居るときから、ヨーロッパの各地で演奏させていただく機会はあったんです。ドイツの作品は勉強していたので、「せっかくヨーロッパにいるのだから、他の地域でも勉強したい」と考えフランスへ移りました。

パリにて巨匠ロストロポーヴィッチ氏と(左)
ハノーヴァーでの恩師C・アルテンブルガー先生とオーストリア国際音楽祭にて(右)

―フランスではジャン・ジャック・カントロフ氏に師事されてたんですね?
K氏 : 年に2回は来日されていますので、留学前に先生のコンサートは聴いたことがありました。フランス人の音楽家って色彩感が豊かで本当に素晴らしいんです。ぜひいつか指導を受けたいと思っていました。とくに先生の演奏するラヴェルが大好きでした。
― 言葉の違いや話し方というものは、演奏にあらわれるのですか?「バイオリンはその人の声を聴かせる」ということを何かの本で読んだことがあるのですが。
K氏 : フランス語のようにフレーズでつながっていくような演奏とか、ドイツ語のように母音のはっきりしている演奏とか。声というよりも、その人の喋り方とかイントネーション、語尾などが、演奏に現れることはあるような気がします。それこそ、こぶしのある演歌調の演奏される方もいますし(笑)面白いですね。
― 現在はパリにおすまいで、飛行機のマイレージがどんどんたまりそうな生活をおくってらっしゃいますが(笑)フランスでの生活について少しお話いただけますか?
K氏 : 実は全日空のゴールドカードを持ってるんですよ!これ自慢なんです(笑)ここ数年は日本に居ることのほうが多いですね。フランスではオリジナル楽器で演奏するチェンバーフィルハーモニーでのアンサンブルのメンバーとして弾いています。ツアーの多いオーケストラで、音楽祭でフランス国内を飛び回ってるので、パリに落ち着いていることが少ないかもしれません。
― 演奏されているバイオリンは古楽器(バロック)ですか?
K氏 : いいえ。イタリアの250年以上前のバイオリンにガット弦(※1)を張って使っています。
― ガット弦は狂いやすいと言いますが?
K氏 : そうですね。マントンのフェスティバルで、野外ステージで演奏したときは、すぐ後ろにはヨットが並んでいるようなバカンスの場所だったので大変でした!(笑)暑さと照明で、弦がゆるんでしまってコントロールがきかなくなったことはあります。
※1 ガッド弦:羊の腸で作られた弦。一般的なバイオリンにはスチール弦やナイロン弦が装備されていることが多い。


<ヤマハ・アルティーダを試奏される神谷さん(左)>
「弾きやすいバイオリンですね。
バランスもいいですし。G線で、こんなにハリのある音が出るなんて、すごいバランスが良い。」
<ヤマハカーボン弓を試奏する神谷さん(右)>
「ピンカス・ズッカーマン・モデルが好きかな。吸い付きがいいというか。自分の使っている弓と少し似ているせいかもしれない。アルティーダGモデルのほうはザハール・ブロン・モデルの弓のほうが相性が良いような気がしますね。」


トラヴィアータ・ファンタジー
¥2,940(税込)/ COCQ-84012
― 想像するだけで冷や汗ですね!(笑)さて、神谷さんはソロ活動と併せて、礒絵里子さんと「デュオ」としての活動も精力的に行ってらっしゃいますね。つい最近、二枚目のCDもリリースされていますが・・。
K氏:ファーストアルバムは色々なジャンルの曲を収録し混ぜたんですが、今回のセカンドアルバム「トラヴィアータ・ファンタジー」は1本芯の通ったものをつくりたくて、テーマを決めました。それで思いついたのが「女性」。そのあとに曲目を考えていきました。テーマが一つならば、アレンジも一人の方にやってもらおうということで、山田武彦さんに全てお願いしました。イメージに流されないようにリアリティーのある確固としたものを作りたかったんですよ。
K氏:たとえば、「舞踏会の美女」、「美しきロスマリン」、「踊りあかそう」・・・等。色々な『女性』が想像できますでしょう?私たちはさながら女優となって、バイオリンを通じて、それらの役柄を演じました。
― CDのリーフレットに掲載されているエッセイも女性の視点から書かれていて面白いですね。最初にキャビンアテンダントの話が出てきて、非常に面白く読ませていただきました。
K氏:そうですか?ありがとうございます(笑)

ヨーロッパにて礒絵里子さんと
― 従姉妹の礒さんとは、ずいぶん幼い頃から一緒に演奏されているんですね。下世話ですが、喧嘩をしたりなんかなさらなかったんですか?
K氏:しましたよ!リカちゃん人形の取り合いとか(笑)。でも、小さい頃に喧嘩をしつくしたのか、小学校高学年からはまったくなくなりましたね。
― お二人で、コンサートの練習をされていて、意見がぶつかり合うといったことはないのですか?
K氏:もちろんあります。「こういうのどうかな?」と意見は言い合います。他人だったら、言葉を選んで「いかがでしょうか?」って言い方をしますが、礒の場合は「どうよ?これ」みたいな(笑)言葉遣いに全く気を使わないので楽です。不思議ですけれど、どうしても相容れなくて喧嘩してしまうということはないですね。礒とはお誕生日も一緒だし、幼稚園から大学までずっと一緒に通った従姉妹ですので。本当の姉妹より密な結びつきがあるのかもしれません。

― さて、神谷さんの今後の活動は?
K氏 : 去年から取り組んでいるのですが、(財)地域創造の公共ホール音楽活性化事業の登録アーティストとして活動しています。クラシックはとっつきにくい、行きづらいという方や、そのチャンスがない方のために、学校などへ出向いて認知活動をして、みなさんにコンサートに来てもらうというもので今年も全国何箇所かへ行く予定です。
― そうやって色々な地域に行かれることで、神谷さんの演奏を通してバイオリンに興味を持ってくださる方が増えてくるのでしょうね。年間どのくらいですか?
K氏 : 5回です。子どもたちに向けて、曲目の説明や楽器そのものの説明などをすることは、今までのコンサートでは無かったので、私にとっては大きな変化ですね。「弓の白い毛は馬の尻尾で出来ていて、枝毛もあるんだよ!」なんてお話すると、子どもたちが喜んで聞いてくれるんです。

<アルティーダYVN200S(Sモデル)とYVN200G(Gモデル)を弾き比べる神谷さん(右)>
Sモデルはキラキラした華やかな音色で、Gモデルは渋い感じがしますね。どちらを選べといわれると選べないけど、わたしはガルネリタイプが好きかも。うん。わたし、コレ好きだな!

― なるほど!ぜひ、ご自身の演奏活動のほかにも、そういった普及活動も引き続きがんばってください。でも、お子さんだけではなく、最近は大人の方々が聴くだけではなく、「自分で楽器をやってみよう!」とトライされる方も増えているんですよ。実際、今ヤマハの「大人の音楽レッスン」でバイオリンを習っている方は約6000人いますから。
K氏 : え! 6000人も??そんないらっしゃるのですか?
― 特に、最近は大人になってからバイオリンを始められる方が増えており、20~30代の女性が多くを占めています。プロの視点から、そんな方々へバイオリンならではの魅力を教えてください。
K氏 : 楽器を弾くことで、自分を表現できるのは素晴らしいことだと思います。ただ、音を並べていくのではなく自分の想いを表現してほしいです。また、曲を弾くことによって作曲家の当時の時代などを知ったりして自分の知識を広げていくと、そこからまた楽しみが広がっていくと思います。
― 今日はどうもありがとうございました。今後、ますますのご活躍をお祈りしています。
All Photos by KOBAYASHI Yow