PRODUCT REPORT
初代機の発売から10年を超えてさらに進化したヤマハサイレントベース™ SLB200LTD を池田達也が試奏した。
エボニー材の使用など、細部にまでこだわったサイレントベース™のリミテッド・エディション

僕はスタンダード・モデルのSLB200の開発に関わらせていただき、ユーザーとしてもライヴや自宅での夜間練習などで、同モデルを日々愛用しています。実は、今回のSLB200LTDに関してもいくつかの点で個人的な提案やリクエストを述べさせていただいたのですが、正直言って、これほどまでの進化を遂げようとは予想をしていませんでした。完成したSLB200LTDのプロトタイプを初めて弾いた時は、衝撃と同時に感激すら覚えました。楽器としての基本的なコンセプトやデザインはSLB200から継承されていますから遠目には大きな変化がないように見えますが、ボディの空洞部を増やして軽量化され、テールピースのサドル部にも木製のパーツが採用された結果、手や体に感じるヴァイブレーションが明らかに向上しています。ベース・アンプに接続していない"生"の状態でも、その自然な鳴り方が心地良く、弾き心地も上質なウッド・ベースに酷似しています。ピチカートだけでなく、ボウイング(アルコ/弓)でも弾いてみましたが、音色や鳴りの違いがより明らかに感じられました。SLB200に比べ、約300gの軽量化が図られたというと、数字的にはわずかに感じられるかもしれませんが、ツアーなどで持ち歩く機会が多いベーシストにとっては、少しでも軽い方が嬉しいのが本音でしょう。

上から、ヴォリューム、トレブル、ベース、アクティヴ/パッシヴ・ダイレクト・スイッチ。内蔵されているプリアンプの改良に加え、より上質な音質と消費電源の削減が図られた。また、ピエゾ・ピックアップの信号をダイレクトに出力するパッシヴダイレクトスイッチを新たに装備。SLB200LTDのピュアで抜けの良いサウンドをそのままアンプに送ることが可能になった。

希少なエボニー(黒檀)をふんだんに採用した指板。ソリッドな音の立ち上がりと繊細な表現を可能にした弾き心地はウッド・ベースに肉薄。
SLB200と見比べていただくと一目瞭然なのですが、SLB200LTDには真っ黒で高密度な本黒檀(エボニー)の指板、虎杢が鮮やかなカーリー・メイプルのネック、木の質感とナチュラルな手触りが心地良いフィニッシュなど、いずれもハイ・エンドのウッド・ベースに勝るとも劣らない仕様が採用されていて、ペグに関しても単にゴールド仕様となっただけではなく、ギヤ比まで見直され、よりスムーズかつ正確なチューニングが行なえるようになった点も見逃せません。先述した中には、SLB200の開発当初に僕がリクエストさせていただいた仕様も含まれているのですが、当時はコストや生産性を考慮すると難しいとされていましたから、世界的な木材の高騰が続く中、今回の開発担当者やメーカーの“企業努力”にも感心させられました。高品質な木材の使用は楽器としての“鳴り”に影響するばかりではなく、将来的な“成長”にも期待が持てます。1年2年と弾き込んでいけば、さらに鳴りが“熟成”していくことでしょう。
そのことを予感させるかのように、今回のSLB200LTDでは、プリアンプを介さないピュアなサウンドの出力を可能にするパッシヴダイレクトスイッチが装備されています。パッシヴ党の身としてはパッシヴならではの素直な"音の速さ"を味わえる点に魅力を感じます。加えて、改良されたプリアンプもイイ感じですから、奏法やシチュエーションに応じて使い分ければ良いでしょう。たとえば、ボウイングの際はイコライザーで作り込んだ音色で弾き、ピチカートの場合はパッシヴに切り替えるといったことが、スイッチひとつで行なえる点も魅力的です。サウンドに関しては、EQがフラットの状態やパッシヴに切り替えた場合、SLB200LTD単体で音を聴くと、音が固めに感じられるかもしれませんが、大音量のアンサンブルの中での音ヌケやリズム、ピッチ(音程)の聴き取りやすさを考慮すると、やや固めの音色の方が良いことは自分自身の経験でも痛感しています。以前のモデルに較べるとプライス的には上がっていますが、使用された木材のグレードや仕様を考慮すると、中途半端なウッド・ベースを買って別売ピックアップを取り付けるよりも、賢明な"投資"と言えるかもしれません。
エレクトリック・アップライト・ベースの導入を検討されている方のみならず、現行モデルのSLB200のユーザーの方、そして他のブランドのエレクトリック・アップライト・ベースのユーザーの方達にも、その"違い"をご自身の手と耳で確かめてみてください。
ぜいたくなカーリー・メイプル材を使ったネック。高級ウッド・べ一スのような確かな弾き心地とともに美しい虎杢も目 を慧く
加工法から見直しが図られたペグ。厚手で重厚感のあるツマミや、より精密なチューニングを可能にしたギヤが採用されている。
ホロウ構造の空洞体積を変更し、より深く、豊かな鳴りを実現したボディ部分。塗装もヴィンテージを意識したアンティークブラウンフィニッシュ。
テールピースは今回も前モデルで好評だったリバース式が採用されている。サドル部の材質は、ABS成型品からエボニーにグレードアップし、音質が向上した。
駒はサイズや部分的な厚さを改良し、高低どの音域でもレスポンスの良い立ち上がりとクリアでバランスの取れたサウンドを実現。
エンドピン・ゴムの材質まで、今回新たに改良。大きく安定感のある新規形状の採用により、強度も向上した。
池田達也Profile

MALTA(sax)や寺井尚子(vln)のグループの参加を経て、現在は自己が主宰する"たつやせっしょん"をはじめ、さまざまなセッション、スタジオ・ワークなどで活躍中。ウッド・ベースとエレクトリック・ベースの双方のみならず、アレンジやサウンド・プロデュース、さらにはMCや芝居(!?)もこなす"マルチ"ベーシストとして、幅広い分野での積極的な活動を行なっている。リーダー・アルバム『たつやせっしょん.其ノ壱.』(TATE-001/販売:ダイキサウンド)も好評。
ジャズライフ2011年2月号に掲載
編集:ジャズライフ
撮影:桧川泰治(人物&各部写真)