ギリシャ神話の神の名を与えられたヤマハカスタムクラリネット“CS・SEシリーズ”。設計者が理想とする、より自然な吹奏感とシリーズそれぞれの色が、多くの奏者を魅了している。ヤマハの卓越した伝統技術と科学の融合を、クラリネット設計の真髄にみた。
※この記事は、月刊誌「バンドジャーナル」2007年12月号~2009年4月号に掲載された内容を一部改定して転載しており、取材当時の内容になります。制作:音楽之友社
ヤマハクラリネットの歴史上、革命的とも言われるCS・SEが誕生して20年余。その間にも、さまざまな試行錯誤を繰り返し、数々のシリーズを生み出してきた。自然で思いのままに音楽表現できると高い評価を得、プレーヤーに支持され続けるヤマハクラリネット。今回は設計の面から、楽器の魅力に迫ってみたい。
プレーヤーの音楽表現をより豊かにすることがクラリネット設計の本質
ヤマハクラリネットの設計に長年携わる宮地勲氏。クラリネットの設計において最も重要なことは、いかにプレーヤーが音楽表現しやすい楽器であるかだそうだ。
「“プレーヤーが自然な吹奏感をもて、無理なく音楽表現できること”はヤマハのクラリネット設計においての絶対条件ですね。表現が制限されることなく自分の思い通りに扱える楽器が、名器だと考えています。CS・SEが生まれたきっかけも、プレーヤーの息の入り方を意識しつつ、求める音を追求した結果でした」
CS・SEそれぞれの個性は、机上のコンピュータで割り出されたものではない。求める響きをもつ1本に出会うまで、職人としてのカンと微妙な調整を行いながらの繊細な実験が日々繰り返される。
「シリーズにはそれぞれコンセプトがあり、それに基づいて設計を行います。たとえば、SE-Vmasterではしなやかで滑らかな響きを求め、グラナディラの表面に塗る塗料を開発しました。設計者というと常にコンピュータに向かっている印象があるかもしれませんが、実際はクオリティを統一するため図面を残すのに利用するのが常。音の追求は地道に1本1本作って吹いてみる、その繰り返しです」
ヤマハブランドは製品にムラが少なく安定した品質を誇る。その秘訣は職人の手に加え一部機械を用いるところにある。
「完全なハンドメイドは必ずしもよい楽器ではないと考えています。もちろん製作者のカンは大事にしていますが、それにプラス、細かい寸法など、必ず守る規定を設けていることで、ムラのない製品づくりが可能になっています。ヤマハでは採寸して調整しているところを、いまでも職人のカンが尊重される工房では見た目でOKを出していたりしますからね。そういう点から見ても、すべてハンドメイドで高価な楽器=よい楽器とは言い切れないと思います」
その点、ヤマハクラリネットはプレーヤーを選ばない安定した楽器として、プレーヤーに選ばれる楽器となっている。活躍しているスクールバンドなどでヤマハを愛用するクラリネットプレーヤーがが多いことも、“同じ音色で演奏できる”という点で、よい意味での統一感を醸し出しているのだ。それでは、宮地氏の考えるクラリネットの本質とは何だろう。
「設計において私が追求している点は、ただひとつ、外見・形状を大きく変えなくても、まだまだクラリネットを進化させることができるという点です。クラリネットの本質は、プレーヤーの自然な吹奏感と音の響き。誰でも思いのまま演奏表現でき、自然で美しい響きをもつクラリネットを、これからも作り続けていきたいですね」









