※この記事は、月刊誌「バンドジャーナル」2007年12月号~2009年4月号に掲載された内容を一部改定して転載しており、取材当時の内容になります。制作:音楽之友社
「ソルフェージュされた息に対して、自然に反応するクラリネットです。それに、もうひとつの楽器〝身体〝を響かせ、歌うように吹くことで、キャラクターのある音が出ると思う」
― 内山さんはヤマハのクラリネットを愛用されていますが、どのようなきっかけで使うようになったのですか?
内山 いつも、自分の声や弦楽器みたいに吹くことができないかなと思っていたんです。ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器は楽器自体が完成されているけれど、クラリネットはその意味で未完成だった。具体的には、スロートノートのラやシ♭の音が響かず、正しいレガート奏法で音階を吹いても「ドレミファホハヒド」となってしまう。弦楽器でもピアノでも「ドレミファソラシド」と響くのが当たり前でしょう?特に吹奏楽でのクラリネットは、メロディをリードしなければならないから、それが凸凹では話にならない。
それで、均一に音階が並ぶクラリネットはないものかとずっと思っていたところ、ヤマハのCSが登場しました。吹いてみたら、自然な奏法で吹いてもこれまで苦労していた音が自然に並んだ!それ以来、N響でオールラウンドに使用するようになったのです。CSは素朴で、楽器の原点をもっていると思う。今はそこからのヴァリエーションであるCS-Vmasterをメインに使い、ときどきイデアルも吹いています。
― 音のツブをそろえるための余分な苦労は、しないに越したことはない?
内山 そのとおりです。日本では「難しい楽器を苦労して吹きこなすのが上級者だ」という変な意識が強くて、そのためにどれだけみんなが苦しんでいるのかわからない。僕がプレイヤーとしてヤマハに要求したのは、「ちゃんとした息と奏法で吹いたときは、スクールバンドの子供が吹いても、しっかりと鳴る楽器を作ってほしい」ということでした。ゴルフの世界でも、難しいクラブを使っているのはアマチュアなんです。プロは、アマチュアみたいに難しいクラブを使ったら、商売になりませんからね。楽器も同じこと。「楽器とは何だろうか」とヤマハが原点に立ち返った結果、奏者がストレスなく吹くことができる楽器に仕上がった。
― 音程に関してはどうですか?
内山 ひと口に音程が良いと言っても、チューナーの442Hzでぴたっと決まるという意味だけではなくて、僕らが言う本当の意味は、いろいろな倍音を伴った、本当に響きのある音が響いたときの話なんです。響きが本当に出てくると、その響きの中で低めにとったり高めにとることができる。ウィーンフィルなんか、機械で測ったらけっこういろいろな音程で演奏しているのですが、1人1人が「うなり」を聴いており、響きの中に豊かな倍音を持っているから、高貴なハーモニーが形成されるんです。
今のヤマハのクラリネットは、しっかりとした音程の「核」の周りに、豊かな響きがあるから、低くしたいときも高くしたいときも柔軟に対応できる。ソルフェージュされた息に対して、自然に反応してくれます。音程も音色も全部一体なんです。分けて考えてはいけない。そういう意味では、もうひとつの楽器「身体」を響かせることも重要です。そうすれば、奏者それぞれの本当のキャラクターをもった音が出ると思う。子供たちに難しいことを教える必要はありません。「お腹から声を出して歌うような気持ちで吹きなさい」と言えばいいのです。
内山洋(うちやま ひろし)

国立音楽大学卒業と同時に、首席奏者としてNHK交響楽団入団。N響の定期公演はもとより国内、海外公演にもソロクラリネット奏者として数々の演奏会に参加。2000年、NHK交響楽団に多大な功績を残したものに贈られる有馬賞を受賞した。指導にも力を入れ、東京音楽大学教授としてクラリネットの基本奏法のみならず、いかにして音楽全体に対する基本を身に付けさせるかをテーマに、多くの後進を育てあげた。2011年1月没。









