「全国大会出場校の多くは、クラリネットを同じブランドで統一しているらしい」―― 最近そんな噂をよく耳にするが、それにはちゃんと理由があるとバンドディレクターの小澤俊朗氏と中村俊哉氏はいう。そこで、彼らが指導している神奈川大学吹奏楽部を訪ね、詳細を伺った。
※この記事は、月刊誌「バンドジャーナル」2007年12月号~2009年4月号に掲載された内容を一部改定して転載しており、取材当時の内容になります。制作:音楽之友社

中村俊哉 氏
玉川大学文学部芸術学科音楽専攻卒業。吹奏楽を小澤俊朗氏に師事。現在、神奈川大学吹奏楽部コーチ、他。21世紀の吹奏楽「響宴」会員。
― 神奈川大学のクラリネットセクションは、全員ヤマハの楽器で揃えていると伺いましたが?
小澤 ええ。もう20年近くヤマハのクラリネットで統一しています。それ以前は、他社のものが多かったのだけれど、セクションの音の輪郭が不鮮明だった。そこで、全員ヤマハに揃えて試してみたら、結果はもう一目瞭然。合奏の中で旋律がきれいに浮かび上がって、全員がヤマハのほうが良い、という意見だったのです。
― 同一のメーカーで揃えたことも良かった?
小澤 ええ。吹奏楽のクラリネットは、オーケストラでいうとヴァイオリンセクションに相当する要の楽器です。楽器の数も一番多いし、ユニゾンでメロディを奏でることが多い。
そうすると、同じ特性を持った楽器を揃えるというのが1つのポイントになると思うんです。まずユニゾンが合っていなければ、ハーモニーも合いませんから。
― メーカーが揃っていればいい?
小澤 私は、オーケストラや古典の独奏曲などで求められているクラリネットと、吹奏楽のクラリネットでは、求められているものが違うと思います。
吹奏楽、とりわけオーケストラの編曲ものでは、メロディを担当することが圧倒的に多いので、他の楽器の響きに埋没してしまったのでは用をなしません。トランペットのような大きい音までは要求しませんが(笑)。音色的に明るく主張がある楽器を使うべきだと思うんです。
現在の吹奏楽のサウンドは、昔に比べると金管楽器などが随分クリアになりましたよね。その中で、クラリネットにも新しい音が求められてきたのではないでしょうか。同一メーカーにも機種により特徴・個性がありますから、選定の際にしっかりと見極めるべきです。
中村 吹奏楽でトゥッティをつくる場合、他の楽器との相性の良さが求められると同時に、溶けてしまわない存在感も必要です。これはなにもクラリネットに限った話ではありませんが、特にクラリネットにはそれが求められるように思います。
― 吹奏楽のクラリネットは、明るい音の楽器のほうが適しているということ?
小澤 吹奏楽は明るい曲が多いですからね。さらに、吹奏楽の特徴としてクラシックからオリジナル、ポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを演奏し、コンサートホールから体育館、野外と、さまざまな場面で演奏効果が求められています。そのためには、まず明るく吹きやすい楽器を使ったほうが良いと思います。
中村 その逆は難しいんです。暗めで重い音色をもった楽器で明るい音を出すためには、リードを替えたり、息のスピードを変えないといけない。でも、ヤマハであれば幅広い表現に対応できる。それも、上級者だけでなく、まだこれからという子でも。
B♭の音だけ合っていてもユニゾンが合うわけではない

小澤俊朗 氏
神奈川大学吹奏楽部音楽監督、東京ミュージック&メディアアーツ 尚美客員教授、尚美ウインドオーケストラ指揮者のほか、日本を代表するバンドディレクターとして活躍。日本バンドクリニック委員会代表。21世紀の吹奏楽「響宴」実行委員会代表。
小澤 ヤマハを選んだもう1つの大きな理由は、楽器全体の音程の良さ。音色だけ良くても、音程が悪かったのでは仕方ありませんから。チューニングのB♭だけでなく、すべての音域の音が合っていなければユニゾンは合いません。
中村 B♭の音だけ吹くのなら、どの楽器もコントロールできるのですが、他の音から吹いてきてB♭の音にジャストに入ってくるかというと話は違ってくる。他の音の音程の癖を引っ張って入ってきて合わないということもあるんです。
小澤 下のB♭からレジスターキーを使ってFに上がり、Fからソファミレドと下がったときに、B♭の音がちゃんと落ち着くかをチェックすると、音程の良し悪しがわかります。B♭が上ずってしまう楽器が少なくない。だからといって管を抜くと、他の音がフラットになってしまうので気をつけなければいけません。 昔は、真ん中とベルを抜いたりしていたけど、今はそんなことはしません。ヤマハの楽器だと全部入れてぴったり合うので、「管を抜くのは、君の奏法が悪いんだよ」と言っています(笑)。
セクションで吹いたときに出てくるサウンドが大事
― 吹奏楽コンクールの全国大会に出場する団体の多くが、ヤマハのクラリネットで揃えているという噂を聞きましたが?
小澤 本当だと思います。しのぎを削っているバンドほどヤマハの使用率が高い。
コンクールは音そのもので優劣を競う場です。どこのメーカーの楽器を使っているのか審査員はまったく考えず、出てきた音だけで判断している。そういう場では、「うちはこんなに高価な楽器を使っているから、良い音がするはずだ」という考えは通用しません。
神大が最初にヤマハを選んだとき、1stは他社の楽器を使っていましたが、客観的に聴いたらヤマハのほうが良かったので、とりあえず借りてコンクールに出たんです。その結果、「サロメ」で全国大会の金賞がとれ、バンドジャーナルの講評で「木管で一番良い音がした」と書かれたんですよ。
― 他の団体も同じ理由で、ヤマハのクラリネットを使うようになった?
小澤 そうだと思います。ブランド品のほうが良いと思っていた先生も、セクションのサウンドを聴くと納得します。チューニングから、もうまったく違う。音程も格段に良くなるし、立ち上がりも見違えるようになる。みなさん、その違いを体験すると「ああ、こういうことなんですね」と納得します。
― 具体的には、どのように楽器を選んだらいいですか?
中村 一番わかりやすいのは、1パート2~3本ずつぐらいで和音を吹いて比較する方法。1本だけで選ぶと、その奏者の奏法の癖が含まれてしまい、楽器そのもののクオリティがわかりにくいけれど、和音ならばはっきり違いがわかるはずです。B♭の和音を1つ鳴らしただけでも。
他には、いつも演奏している曲のメロディをユニゾンで吹いてみてもわかります。音程の合い具合や揃ったときのサウンドの違いは歴然としているはずです。
― ありがとうございました。
クラリネットパートに聞きました!

神奈川大学吹奏楽部のクラリネットセクションは全員ヤマハのクラリネット(CXモデル)を使用している。これによって、「メンバーで音色や発音が揃えやすい」「音程がすごく合わせやすい」と多くのメンバーは言う。また、「この楽器を使うようになって大きな音が出るようになりました」「以前は高音がきつい音しか出なかったけれど、この楽器に変えたら吹きやすくなって音が柔らかくなった」と、個人の技術も向上したという意見も聞かれた。同部では、E♭クラ、アルトクラ、バスクラもヤマハを使用しており、「音程の感覚や吹奏感が共通しているので、違和感なく持ち替えることができます」と好評だ。
神奈川大学 吹奏楽部

1938年の創部以来70年の歴史を持つ。部員数は130名余り。定期演奏会とサマーコンサートを中心とした自主企画コンサートのほかに、大学行事、地域イベントへの出演、音楽鑑賞教室など、さまざまな活動を積極的に行っている。また、全米大学バンド指導者協会大会やTheMidwest Band Clinicなど、海外の催しにも数多く招聘される。全日本吹奏楽コンクール常連校として、2007年には通算21回目の金賞受賞、2004年には日本管打・吹奏楽学会より吹奏楽アカデミー賞演奏部門を受賞した実績を誇る。









