対談 須藤千晴(ピアニスト)×尾藤栄里子(CLP-600シリーズ商品プロデューサー)

ピアノの本2017年12月号

*月刊ピアノ12月号の記事に加筆・修正を加えたものです。

弾き手の思いに応える電子ピアノ

――須藤さんがクラビノーバ『CLP-685』を弾かれてみた感触は、いかがでしたか?

須藤千春
(以下、須藤)
20年ぶりに鍵盤をリニューアルされたとお聞きして、すごく楽しみに弾かせていただきました。こういう響きを出したいから、こういうタッチで弾こうというこちら側の思いにピアノが対応してくれると、“じゃあ次の音はこんな風に響かせよう”というさらなるイマジネーションにも繋がります。『CLP-685』が私のタッチに対応してくれることがうれしかったです。
尾藤栄里子
(以下、尾藤)
ありがとうございます。今回のリニューアルにあたっては、新しく開発された〈グランドタッチ鍵盤〉と、ヤマハCFXとベーゼンドルファーという2種類の音源を搭載しています。打鍵と発音のマッチングにより、このぐらいの強さで弾いた時にはこういう音色と音量で返ってきてほしいという、弾き手の思いに反応して自然に発音する楽器を目指していました。鍵盤だけ、音色だけが良ければいいということではなく、その二つが合わさって楽器として鳴ることが大事だと考えています。それがヤマハのクラビノーバの特長でもあるので、そこを須藤さんに感じ取っていただけてうれしいです。

――そうした総合的な開発ができるのはなぜでしょうか?

尾藤
我が社にはピアノと電子ピアノそれぞれの技術者がいて、一緒に開発ができているからだと思います。
須藤
細かいレガートやスタッカートなど、弱音で音を繋いでいくようなニュアンスのある演奏にも繊細に対応してくれるので、すごく進化していると感じました。
尾藤
弱音の出し方は、かなり追求した部分です。鍵盤一つひとつのハンマーウェイトを改良したことで、弱タッチから強タッチの重さの幅が広がりました。それによって、タッチの変化によって返ってくる音とのマッチングが、弾き手の期待したものにより近づいたのではないかと思います。
須藤
そうなると、より細かい表現が可能になりますよね。
尾藤
ピアニストの方は、曲を表現して演奏されます。『CLP』シリーズのリニューアルにあたっても、表現ができる電子ピアノを目指して作っています。鍵盤の先端から支点までの距離をグランドピアノと同等まで長くしたことで、鍵盤の奥の部分のタッチ感も向上しました。
須藤
確かに、鍵盤の奥の部分を弾いても、違和感がなかったです。

――音色に関してはいかがですか。

須藤
CFXとベーゼンドルファーの、二つのコンサートピアノの音色を選べるのは魅力的ですね。弾く作品によって変えられるのも、電子ピアノならではの良さだと思います。
尾藤
もともとベーゼンドルファーは、宮廷内のさほど広くない部屋で弾くために作られたピアノでした。CFXは規模の大きなホールでもストレートに遠くまで届くように音が作られているので、お好みでそれぞれの音の違いを楽しんでいただきたいですね。
須藤
曲の途中で音色を変えてもいいですしね。
尾藤
はい、ボタン一つで変えられます。

リビングルームでグランドピアノの響きに包み込まれる体験

――スピーカーからの音の響きはいかがでしたか?

須藤
広い会場で弾いているような響きが聴こえてきて、音に包まれるような感覚がしました。
尾藤
それは『CLP-685』と『CLP-675』に搭載している〈3ウェイスピーカーシステム〉の特長です。クラビノーバは家庭で弾くピアノであり、それでいてグランドピアノの弾き心地を目指しています。ですから、リビングルームに置けるサイズでもグランドピアノの音色に包み込まれるような体験ができるという、独特な音響になっているんです。

――〈3ウェイスピーカーシステム〉は、どういう構造なんですか。

尾藤
低音・中音・高音域をそれぞれ専用のスピーカーとアンプで響かせているんです。クラビノーバは弾く方のための楽器ということも意識していますので、弾いている人が音の響きの中に入っていくような感覚を楽しんでいただける。そんなスピーカーシステムを搭載しています。
須藤
リビングで練習していても、コンサートホールで弾いているような響きがイメージできるのは、すごく心強いです。
尾藤
“発表会でグランドピアノを弾く時と、家で練習する時では、全然違う楽器のように感じて緊張しちゃいました”という、ユーザーの声を聞くことがあります。そういうことがなるべくないように作っていますので、多くの方に安心してお使いいただけるかと思います。音の立ち上がりの良さはいかがでしたか?
須藤
細かいパッセージも、ゆったりとしたレガートも、どちらも良く聴こえてきました。細かい部分も混ざり合った響きも、すごく良いバランスなんですよね。
尾藤
『CLP-685』では、アコースティックピアノの響板と同じスプルース材を使った〈スプルースコーンスピーカー〉を採用しています。

――これまでのスピーカーとはどう違うのですか?

尾藤
試作の段階で何度かほかのスピーカーと聴き比べてみたんですけど、音のレスポンスの速さが違うんです。スプルースのほうは、ピアノの音の芯の硬い部分がすぐに返ってきます。“これはもうピアノのためのスピーカーだね”と採用されました。音がはっきりすると、高音域のキラキラしたニュアンスも出やすいのです。
須藤
同梱されるヘッドフォンも良さそうですね。
尾藤
ご自宅で練習される時にヘッドフォンを使用される方も多いので、そこはこだわりました。ヘッドフォン装着時を想定して、奏者の耳と同じ位置にマイクを置いて聴こえてくるピアノの音を、そのまま収録する〈バイノーラルサンプリング〉を採用しています。ですから、ヘッドフォンをしていても、ピアノ本体から音が響いてくるような臨場感のある自然な音を聴きながら弾いていただけます。

ピアノ初心者からピアニストまで、幅広いユーザーに愛される

――Bluetoothも内蔵されていますが、どのような使い方が可能ですか?

尾藤
スマートフォンやパソコンなどに入っているオーディオデータを、内蔵のBluetoothを通じてワイヤレスで楽器本体に送信して再生することができます。また、音源を再生しながら練習したりすることもできますね。クラシックのみならずポップスや、バンド演奏で一緒にピアノを弾いたり。さまざまな楽しみ方ができますね。
須藤
電子ピアノならではの機能を使ってレパートリーを増やしたり、即興の練習もできますね。
尾藤
レッスン曲(303曲)の曲データが内蔵されていますので、再生しながら片手ずつ弾いたり、初心者の方も練習に活用してほしいですね。ちなみにこの音源ですが、打ち込みデータではなく実際に人が弾いたものが収録されているんです。楽譜通りに弾きながら、それでいて適度に情緒のある演奏をするということで、演奏者は大変だったみたいです(笑)。
須藤
それは大変そう(笑)。初心者の方やピアノを趣味で独学される方にもお手本となる音源が入っているのは、すごく便利だと思います。

――そして、デザインにこだわったインテリア性の高さも特徴です。

尾藤
私たちは〈演奏空間〉という造語で呼んでいるのですが、デザインにはこだわりました。『CLP-685』はアップライトピアノのような形で、蓋を明けると中央にメーカーのロゴが入っていて、その前に座って弾く。その〈演奏空間〉に、操作パネルなど邪魔なものがあまりないように、デザインされているんです。

――すごくシンプルで、上品な佇まいです。

尾藤
アコースティックピアノらしい佇まいを意識しつつ、それでいてコンパクトで家庭に置きやすいのもポイントです。トレンドを取り入れたカラーバリエーションを採用しているので、ご家庭のリビングに合う、お好きなカラーを選んでいただけます。トラディショナルなカラーに、今回は新たにダークウォルナットを加えた5色をご用意しています。
須藤
ダークウォルナット、素敵ですね。私もリビングに1台欲しいです(笑)。クラビノーバは、ピアノ初心者の方はもちろん、日々、演奏表現の向上を目指すピアニストにもしっかりと応えてくれる。実際に弾いてみて、そしてお話を聞かせていただいて、とてもよくわかりました。
尾藤
ありがとうございます。

文/上野三樹 撮影/川合泉