YVN500S 6つの物語 第二章

ARTIDA YVN500S 6つの物語 ―2000年からの軌跡―

2011年6月、満を持して発売となったアルティーダシリーズのフラッグシップ、YVN500S。発売に至るまで、その裏にはバイオリン設計者、木材技術者たちの弛まぬ努力、そして数々のアーティストたちとの出会いや開発を通じたエピソードがあったのでした。ここに至るまで、10年間に渡るYVN500Sの軌跡、全6話をお届けします。

第二章

A.R.E.技術採用の試練

「耐久性問題なし」という

ひとつの答えを得るために

YVN500Sの音の遠達性と幅広い音楽表現―それらを実現させたのは、ヤマハが独自に開発したA.R.E.技術です。1990年代後半、バイオリンへの適応を念頭に、ヤマハはA.R.E.技術の開発に着手しました。2001年には水蒸気を利用して木材の経年変化と同様な特性の変化を引き出すことに成功。A.R.E.技術の基礎が出来上がりました。しかし、この技術をバイオインに適用するには、乗り越えねばならない課題が立ちはだかっていたのでした。

ザハール・ブロン教授の高評価と、ミヒャエル・ノーデルマン氏のYVN500Sプロトタイプを使用してのコンクールへの挑戦(第一章)。この結果を受けて、いよいよA.R.E.技術を用いたヤマハバイオリンを世の中に出そうという雰囲気が高まるその裏で、設計者、開発関係者は大きな問題に直面していました。「バイオリンの寿命は他の楽器に比べてとても長い。A.R.E.技術を施した木材の耐久性や性能は十分に確認されているのか」という議論が社内で起こっていたのです。

ヤマハの楽器はさまざまな促進試験を行なうことで、その長期信頼性を確認しています。この方法の信頼性は大変高く、世の中で認められているヤマハの楽器の安定性、耐久性の源になっています。A.R.E.技術を施したバイオリンの試作品も、この基準をもとにさまざまな試験に合格していました。

しかし、A.R.E.技術はバイオリンにとって新たな素材であるため、従来の促進試験以上に、さらに耐久性を追及し、その信頼性を実証すべきだという結論に至ったのです。そのため、木材のわずかな構造変化や化学的・物性的変化のさらに踏み込んだ解明も必要になりました。

社内トップの号令のもと、1年以上をかける実験計画が作成され、徹底的な検証が始まりました。技術者たちは、A.R.E.技術自体の開発を一時中断し、ひたすら耐久性を確認する実験に没頭したのです。A.R.E.技術を適用したもの、そうでないものの優位さを正確に確認するためには、同じ性質をもつ木材のサンプルが大量に必要となります。そのため、原木、つまり大きな丸太を確保し、木を切り出すことから始めたのでした。使ったテストピースは数千枚以上。この膨大な材料を用いて、耐久性や特性変化、そして強度計算など、さまざまな調査を行いました。

1年後に得られた膨大なデータと報告書の最初の部分に書かれた言葉、それは「耐久性に問題はない」というシンプルな一言でした。この一言が、開発を中断した1年間を意義あるものに変えました。技術者たちは確信をもって、YVN500Sの開発に再び専念することができたのです。

※一定期間の試験で、より長期的な寿命を予測・保障するための耐久試験

2005年 世界物理年 冬のイベント
「ナノテクノロジーが明らかにするバイオリンの響き」
講演会にて、ヤマハバイオリンの製作技術を発表

2005年12月、東京大学生産技術研究所で開催された講演会「ナノテクノロジーが明らかにするバイオリンの響き」の中で、ヤマハバイオリン「アルティーダ」の製作技術とともに、検証を通じて得たA.R.E.技術データの一部を発表し、反響を得ることができました。

A.R.E.

(Acoustic Resonance Enhancement)

A.R.E. Logo

A.R.E.技術とは、温度、湿度、気圧を高精度に制御することで音響特性を改善するヤマハオリジナルの木材改質技術であり、製材後長期間を経た木材の経年変化と同様の変化を、短期間で生みだすことによって音の伝達と振動効率を上げ、中低音成分の伸びの促進と、高音成分の立ち上がりの増大や減衰の高速化を実現します。また、薬剤等を一切使わない環境にやさしい技術です。A.R.E.技術は、当社のアコースティックギターの上級モデルやヤマハホールのステージの床材にもバイオリンに先駆けて使用されており、その基礎となる技術は、特許を取得したほか、2つの賞を受賞しています。

◆特許

日本 特許番号 3562517
ヨーロッパ EP 1291143

◆受賞歴

経済産業省主催 第3回「ものづくり日本大賞」製品・技術開発部門優秀賞
→ニュースリリース

全国発明表彰 第一表彰区分 特別賞「朝日新聞発明賞」
→ニュースリリース

◆Video

A.R.E.の音の違い

◆Link

→研究開発「A.R.E.技術」

YVN500S

YVN500Sイメージ

◆Information

→YVN500S製品情報ページ

◆Video

Artida YVN500S プロモーションムービー