Part 1 MONTAGE M 発表までの軌跡

Part 1 MONTAGE M 発表までの軌跡

はじめに自己紹介をお願いします。

大野 戦略企画グループという部署でシンセサイザーのマーケティングをやっています。マーケティングとは何かというと、商品を市場の人たちにきちんと伝えることと、市場の動きや意見を開発に戻すというのが主な役目となります。

大田 同じ戦略企画グループで、私は商品企画をしています。シンセサイザーの場合は開発チームに入り込んで一緒に開発を進めていく形になっていまして、商品プロデューサーとして、今までにMONTAGEやMODXなどを担当しています。

前機種であるMONTAGEが発表されたのは7年前の2016年でした。長らくフラッグシップだったMOTIFシリーズからのモデル・チェンジであり、新開発のMotion Control Synthesis Engineを搭載するという画期的な機種でしたが、MONTAGEはどういう楽器だったと受け止めていますか?

大田 長く続いたMOTIFシリーズは、音楽制作が1台で完結できるといういわゆるワークステーション・シンセでしたが、音楽制作シーンの変化の中でPCを中心とした方法が主流になっていきました。そこで改めて本来のシンセの楽しみ方を考えた時に、音作りの面白さや音の変化の気持ち良さをフィーチャーしようという方向に舵を切って生まれたのがMONTAGEでした。市場にはMOTIFの後継ワークステーションを期待する声もありましたが、Motion Controlや新開発のFM-X音源を組み合わせた変幻自在なサウンド、またその音質自体も評価され、MONTAGEはある一定の存在感を示せたと思います。これからのヤマハのシンセサイザーの方向性を伝えられた機種だと捉えています。 

大野 MOTIFシリーズでは“ミュージックプロダクションシンセサイザー”と呼んでいたのを、MONTAGEは“ミュージックシンセサイザー”として打ち出すようになりました。曲作りだけでなく、音色の変化さえもDAW上で細かく設定するような時代に突入してきたけれど、それをプレイヤーがコントロールできるものにならないか?と考えたのです。ものすごくたくさんのパラメーターを同時に片手でコントロールできるとか、それがテンポにシンクロした形で音色の変化を出せるといったようなことが、もしかしてシンセの新しい道ではないか?とみなさんに問いかけてみたんです。それがユーザーからの支持を得たり、こういうシンセなのだとわかってもらえるまでに結構時間がかかったなと正直思っていたりもします。逆に7年間続けてきたことで届いたメッセージがたくさんあるのかなとも感じていますね。 

ユーザーからはどんなフィードバックがあったのでしょうか?

大野 MONTAGEを最初に出した時、もっとこうなったらいいのにという意見は国内外問わずたくさんいただきました。ヤマハシンセのファンやMONTAGEを使っている人たちが、私たちの予想のもう一歩上をいく使い方を提案してくれたんです。それらのアイディアをバージョンアップではたくさん実現できたので、こちらが押し付けるだけの一方通行になっていない形で進化をしてこれたと思います。

大田 音を変化させる部分をフィーチャーすることでよりパフォーマンス志向に振ったわけですが、Super KnobなどのMotionControl、LiveSet、SSSといったパフォーマンスをするための機能にはすごくポジティブな反応をもらいました。一方で、MOTIFと同じようなUI構成で操作の仕方が違うというのは、それまで使っていた人を混乱させてしまったこともあり、操作が複雑だというネガティブな反応もありました。それから、ちゃんとしたパターン・シーケンサーがない、DAWリモート機能がないという指摘もありまして、それらに対してはバージョンアップで応えていきました。市場調査は常にやっていますし、その動向はいつも気にしながら商品企画、バージョンアップ等に反映させています。

では、MONTAGE発売後のシンセシーンや市場の移り変わりはどう捉えられていますか?

大田 それまでFMは過去の音源とされていて、あまり日が当たらなかったと思うんです。でも、MONTAGEを出した後はソフトシンセを含めいろいろなFM音源のシンセが出てきて、ちょっとしたFMの二次ブームみたいなものが起きたと感じています。また、ウェーブテーブルや、最近だとグラニュラーや物理モデリングなどを搭載した製品も登場するようになりました。MONTAGEで実現したサウンドコントロールの楽しさ、ちょっと変わった個性的なテイストを持ったサウンドが市場から要求されるようになってきて、他のメーカーもそれに応える形でいろいろな製品を作ってきてるのではと……全然関係ないかもしれないですけどね(笑)。 

大野 ソフトシンセの場合、最初は”往年の名器を再現する”というところから始まったのが、”本当に再現だけでいいのか?”と考えるようになって、たとえば、基本の回路はアナログシンセの再現だけど、”オリジナルにはない何か”が加わってきたように感じていて、そこでいろいろなメーカーが試行錯誤してきたんだと思います。私たちがFM音源をもう1回やろうとなった時に、単純にDX7の音を出すのではなく、FMはリアルタイムにコントロールすると強烈に音が変わって面白いシンセシスだということでいろいろな仕掛けをしたのも、そういう流れにシンクロしているのかなと。シンセサイザーがこれから先どういう音、価値を提供していくのかを検証する時期に、MONTAGEはすごく合っていたのかなと思っています。

そのMONTAGEを経てからの"MONTAGE M"の開発コンセプトを教えてください。

大田 あらゆる要求に素早く対応できるというポイントを強化したいと考えました。音表現の幅と深さ、高い操作性を備えたフラッグシップシンセサイザーを目指し、それに向けてさまざまなアイディアを関係者と共有して時に意見を戦わせながら、“MONTAGE M”の開発検討をチームとして2018年頃から動き出しました。

では、新モデルに付いた"M"の由来というと?

大田 まずは、AWM2とFM-Xに加えてAN-Xが入ったことで3つの音源、“Multi Engine”になったというM。それから、完全互換のソフトシンセ“Expanded Softsynth Plugin(ESP)”によってライブパフォーマンスと音楽制作がシームレスになるという“Multi Purpose”のM。あと、これは裏の理由みたいな感じですが、MONTAGEが成熟域に入ったということで、“Mature”のMです。

大野 Matureは初めて聞きました(笑)。社内の書類には書いてなかったので。

大田 こうやって後付けしていくんです(笑)。

大野 1番大きいのは、音源がマルチエンジン(Multi Engine)だということですね。