Part 3 ユーザーが求めるコントロールとワークフローの追求

Part 3 ユーザーが求めるコントロールとワークフローの追求

MONTAGE Mでは前機種のイメージを踏襲しているものの、インターフェースがいろいろとブラッシュアップされています。どういった点を重視した結果なのか、どう操作性が向上したかなどを教えてください。

大野 まず注目していただきたいのは、パネル左上のサブディスプレイ周りじゃないでしょうか。

大田 MONTAGEを出した後、操作が複雑だという意見をもらったと先ほど言いましたが、それに関して大野さんと打ち合わせをした時に、“MONTAGEの(左側の)8つのノブは、フィルターとかEGとか主要なパラメーターに限られるけれど、ここで直接調整できるというのは実は簡単だしクイックだよね”という話になったんです。それがのちにサブディスプレイにつながる検討をスタートさせるきっかけの一つになっています。ただ、元の限定されたパラメーターだとかなり自由度が少ない。でも、そこで単純にパラメーターを増やすと、表示が少ないがゆえに階層が深くなってより複雑になってしまい本末転倒です。最終的に、QUICK EDITボタンを押すとメインディスプレイでやっていることの70~80%をサブディスプレイを見ながらエディットできようにするということを目標にパラメーターを絞り込みました。特に、AN-X やFM-X 部分は担当者をつけてもらい、パラメータの選別、グルーピング、並び、また、FM-X を簡単にエディットするための仕組みなど評価を繰り返し、慎重に作り込んでいった機能の一つです。

クイックなエディットを実現するためにどのような工夫をされたのでしょうか?

大田 アナログシンセは、VCO→VCF→VCAという信号の流れの通りにパネルに配置されているからわかりやすいわけですよね。それを踏襲していく中で、パラメーターを絞っていきました。それと、1つのパラメーターに対して1つのノブが対応するっていうところは絶対外しちゃいけないなと。この仕組みはアナログサウンド以外も一緒です。また、どうしても数字でしか表現できないところは仕方ないんですけれど、なるべくグラフィックを多用して触ってみた感を出すようにしました。あと、QUICK EDITで音作りを始めて、例えばフィルタードライブをベロシティで変化させようと思ったけどサブディスプレイにはなかった場合に、そこからメインディスプレイに戻って階層に入っていくのは面倒ですよね。そこで、PAGE JUMPのボタンを押すだけでメインディスプレイでフルエディット版を見れるようにすれば、シームレスに繋がってエディットしやすいのではないかと考えました。言うは易しで、ソフト担当者は相当苦労してました。

PAGE JUMPで一瞬で深い階層に行けてしまうということですね。

大田 そうです。また、深い階層に行ってエディットし始めて、 今はフィルターにいるけどアンプにかけているLFOをいじりたくなったというような場合に、サウンド合成処理の流れを地図のように表示できるのがNAVIGATIONという機能です。アナログシンセの信号の流れに近いものがグラフィックで表現されていて、今いる場所がインジケーターでわかるんです。次に行きたい場所をタッチすれば一瞬でそこに跳ぶことができます。

大野 サブディスプレイのところで言うと、FM音源のようにパラメーターがとても多いものを、どうやったらもっと面白く的確にエディットができるか、アナログシンセ的なエディットができるのかっていうのをすごく考えてもらいました。選んだ音色のアルゴリズムが表示されていて、ハーモニクスやテクスチャーといったパラメーターを回すと、アナログシンセには絶対に出ない変化が起き、FMをよく知らない人でも楽しくいじることができるはずです。その音がフィルターやアンプというシンセサイザーとして共通化されているパラメーターに流れるようになっているので、エディットはすごく速くできるようになっています。音色のエディット以外にも、例えばたくさんのパートを使ってスプリットをしている場合はその範囲を表示できるとか、今弾いてる音がどうなっているかがだいぶわかりやすくなったと思っています。

ディスプレイ周り以外のコントローラーについてはいかがでしょうか?

大田 先ほど大野さんがアナログシンセを入れるということでKEYBOARD HOLDのボタンを付けたと話していましたが、PORTAMENTOボタンもそうですね。シンセでできる楽しい表現の1つがポルタメントだと思うので、外装機構担当者に頼み込んで、KEYBOARD HOLDとさらにその隣の上下の少ないスペースに押し込みました(笑)。

大野 一番下の鍵盤を弾いた後、ポルタメントタイムめちゃくちゃ上げて、今度は一番上の鍵盤を押すとすごくゆっくり上に向かうんですよね。その間に他のパラメーターをいろいろ動かして遊んだりすると本当に楽しいです。

大田 それから、目立つところだとリボンコントローラー。MOTIFやMONTAGEでは、ホールドモードになっているとどこの位置で反応しているか表示されないので、改善の必要性を感じていました。ピッチがアサインされていたら、いきなり音痴になっちゃうこともあり得るからです。それをいつか変えたいなと思ってたので、今回はそれに対応するインジケーターやボタン、3段階、5段階で切り替えられるグリッドモードを付けました。グリッドモードでは例えば、ビートリピートの長さを、ここのブロックでは4分で、次は8分、その次は16分といったようにあらかじめ決められた設定に変化させることができるんです。あと、オルガンのロータリーのスピードを切り替えるとか、リボンコントローラーをより使ってもらえるようになるんじゃないかなと思います。また、コントローラーそのものという意味では、MONTAGEとのシリーズ感を重視するために基本的に同じパーツを使う方向で作ってきたんですけれど、一部のノブ、データダイアル、ボタンについてはより操作性の良いものを新規に作っています。

演奏面では、MONTAGE M8xにはポリアフタータッチ対応のGEX鍵盤が搭載されました。

大田 ずっと昔からポリアフタータッチへの要望はワールドワイドであったんですが、品質とコストのバランスが取れなくて製品化するのが難しかったんです。それが今回、通常のスイッチタイプではなく、非接触の電磁誘導を利用した新しい鍵盤センサーが使えることになりました。鍵盤の押鍵・離鍵だけじゃなくポリアフターも検出できて、なおかつコストもこれまでとあまり変わらないということで採用に至ったんですが、鍵盤センサーとして完璧に動作させるためには、今までとは仕組みが全く異なる新規センサーということで新しいノウハウが必要になり、関係者は相当格闘していました。あと鍵盤仕様としては、今までは全鍵重さが同じバランスドハンマーだったんですが、よりピアノらしいグレーテッドハンマーに変更しています。表面的なタッチも、白鍵は吸湿性の素材、黒鍵は黒檀調になっていて、より弾きやすく疲れにくいと思います。

大野 GEX鍵盤が搭載されたのはMONTAGE M8xが初めてで、この楽器のために作ったものなんです。ベースとなっている部分はステージ・ピアノなどとも共通していますが、ポリアフタータッチをちゃんと実装した鍵盤としてシンセ専用となっています。

ポリアフタータッチを採用したのはDX1とCS-80以来で、88鍵では初めてですよね?

大野 コードを押さえて、その中でメロディーを弾いていけるのが個人的に面白いなと思ったんですけど、今後ユーザーの皆さん方が新しい音楽表現や新しい演奏の仕方に気づいてくれるんだろうなとすごく期待しています。

大田 ポリアフターでFM-Xの細かいパラメーターを動かすことができる音色など、ちょっと変わったものもあります。あと、シンプルかもしれないですけど、パッド音色のサウンドテクスチャーの微妙な変化を自分の指の動きで作り出すっていうのもやり方として1つあるかなと思います。

大野 ドミソと鳴っているだけなんだけど、それぞれの音が明るくなったり暗くなったり、ピッチが少し揺らいだりっていう変化を自分で作れるのはやっぱり面白いんですよ。“PAT”というポリアフタータッチの略が音色名の末尾に大体ついているので、それをカテゴリーサーチするなどしてぜひ試してもらえたらと思います。