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ピアニスト松田華音のピアノダイアリーinロシア

幼少期からロシアに渡り、18才で名門ドイツ・グラモフォンからデビュー。
今、熱い注目を集める話題のピアニスト松田華音が、ロシアから様々な話題を書き綴ります。

(毎月1日、15日頃更新。※更新日は、都合により前後する場合がございます。)
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pianist 松田 華音

pianist 松田 華音
1996年、香川県高松市生まれ。4歳で細田淑子に師事、ピアノをはじめる。
2002年秋、6歳でモスクワに渡りエレーナ・ペトローヴナ・イワノーワに師事、翌年ロシア最高峰の名門音楽学校、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校ピアノ科に第一位で入学。 2006年 TVロシア文化チャンネル主催、くるみ割り人形国際音楽コンクール、ピアノ部門第一位受賞。
2009年 AADGT 国際Young Musician Competition(ニューヨーク)第一位受賞。2010年 才能ある青少年の国際コンクール&フェスティバル「クラシカ2010」グランプリ受賞(カザフスタン)。2011年12月、国立アレクサンドル・スクリャービン記念博物館より2011年度の「スクリャービン奨学生」に選ばれる。
2013年2月、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校で外国人初の最優秀生徒賞を受賞。翌年同校を首席で卒業。(ロシアで成績優秀者に贈られる「赤の卒業証書」で卒業。)9月、モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学。
11月ドイツ・グラモフォンよりCDデビュー。
オーケストラとの初共演は8歳。これまでにミハイル・プレトニョフ、マルク・ゴレンシュタイン、秋山和慶、円光寺雅彦、高関健などの指揮者、ロシア・ナショナル管弦楽団、ロシア国立交響楽団、キエフ国立フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、東京交響楽団、広島交響楽団などと共演。


※上記は2015年10月7日に掲載した情報です。

No.7Ни пуха ни пера!(ニ プーハ ニ ペラー!)

2016.02.12更新

皆様こんにちは、2月になりましたね。
私は、無事試験も終わり冬休みを過ごしていましたが、そろそろ後期の授業も始まろうとしています。
ロシアでは、1月25日は「学生の日(ロシア正教の暦で聖タチアナの日)」と定められていて、モスクワ大学創立記念日であり、後に全ての学生のお祭りとして祝われるようになった祝日で、冬学期の最後の日でもありました。
色々な行事もありお祝いされるのですが、この日までに、大学生は全ての試験を受け、ザチョートカ(成績簿)に成績を記入してもらって提出しなければならず、またこの日から冬休みが始まります。

ところで、皆さんは、意外に思うかもしれませんが、ロシア人は、非常に縁起を担ぐというか、迷信を信じる国民です。
たとえば、日本では新しい年の始まりに、新年の抱負を語ったり他の人にも尋ねたりするものですが、ロシアでは願い事は口に出すと叶わなくなると信じられていますから、そんな質問は、ちょっぴり嫌な顔をされてしまうかもしれません。
今日は、大切な試験の前に、ロシアの学生たちがどんな験担ぎを行って試験の成功を祈っているか!ご紹介したいと思います。

まず最初に、試験を控えた人は、髪や、ひげや、爪を切らないほうがいいと言われています。
コンサートの前も同じように言われるのですが、これまで蓄積してきたものがなくなってしまうと嫌がられるのです。
なかには、切羽詰まって洗う事すら嫌がる人もいるようですが、私はというと、髪を切ることはなるべく避けようという気持ちがありますが、爪は必要であれば整えますし、もちろん髪も洗います。(笑)

また、試験前夜に、開いた教科書を枕の下に敷いて寝るというのは、大勢の学生に人気のあるおまじない?のひとつです。
眠っている間に必要な知識が頭の中に入ってくると信じられています。
効果のほどはわかりませんが、たいてい試験前夜は、まだまだやるべき事を抱えつつも「もうこれ以上は無理だ‥」という気持ちで眠りにつくものですが、翌朝枕の下から教科書を取り出す時には、「やることはやった!」という気持ちになったりするものですから、心理的な効果は侮れないと言えるかもしれません。
ちなみに私は、コンサートの前に、枕の下ではありませんが、枕元に楽譜を置いたりしています。

そしていよいよ試験の日の朝は、ベッドから起き上がる時に、必ず右足から立つという事を習慣にしている学生も多くいます。
ロシア語では、「左」という言葉は、正しくない方という意味でも使われますので、正しく1日が進むようにと、右足から1日をスタートさせる人が、実は試験の前でなくとも少なくありません。
何か上手くいかなかったり、不機嫌な気持ちになるような事に遭遇した時に、「今日は、違う足(左足)で立ってしまったみたいだ」という表現もあるくらいです。

また、試験で良い成績をもらった学生は、これから試験を受ける他の学生に、「頑張ってね」と声をかけながら、肩をポンポンと軽く叩いたり、握手をしたりして幸運を配ります。
逆に、良い成績をもらえなかった学生は、なるべく皆に触れないように気をつけようとします。
いつもならば、握手をしたり抱擁したりして挨拶を交わすロシアの学生達ですが、試験の日だけは、触れ合う事にも慎重です。(笑)

ところで、ロシアでは、これから試験を受ける時、コンサートの前もそうなのですが、成功を祈って「Ни пуха ни пера!(ニ プーハ ニ ペラー!)」という言葉がかけられます。
「頑張ってね!」「幸運を!」という意味ではありますが、実は、直訳すると、「獣も鳥も獲れませんように!」という実に奇妙な言い方です。
もともと狩りに出かける猟師さんに成功を祈ってかけた言葉だったようですが、それなのに何も獲れませんように!と言うのは、おかしいですよね。
実は、ロシアでは、成功を言葉にすると、私たちの周りに潜んでいる悪霊に邪魔をされると考えられています。
そんな悪霊を欺くために、逆の事を言葉にして、悪霊に邪魔をさせないようにする、すなわち成功を祈るのです。
ですから、「Ни пуха ни пера!(ニ プーハ ニ ペラー!)」と声をかけられた方も、うっかり「ありがとう」などと御礼を言ってはいけません。
猟に出かけるのに、何も獲れませんようにと言われているのですから、怒って当然、同じようにひどい言葉で「К черту!(ク チョルトゥ!)」、地獄に落ちろ!と返さなければならないのです。
もちろん、頑張って!という「Удачи!(ウダーチ!)」、ご成功を!という「Успехов!!(ウスペーハフ!)」という言葉もあって、若い人の間では最近はむしろこちらの方がよく使われるようにも感じるのですが、年配の方となると、迷信を信じる方のほうが断然多数派です。
ただ、いくらおまじないのようなものだとはいえ、尊敬する方に「「К черту!」、地獄に落ちろ!という乱暴な言い方で返すのは、やはり気が引けて、ついつい小声になってしまうのは、私だけではないようです。(笑)

勉強に使ったノートやメモは、次の試験もうまくいきますようにと燃やして飛び越えるという慣習もあるようですが、私は、とても燃やす気持ちにはなれず(苦笑)、保存しています。

さて、9月から新学期が始まるロシアでは、後期授業の始まりを迎える2月ですが、日本の皆さんは、ちょうど入学試験や学年末試験の真っ最中でしょうか。
ロシアでは今インフルエンザの流行で学級閉鎖や学年閉鎖になっているシュコーラ(小・中学校)も多く、気をつけなければと思っています。
大切な時期、皆様もどうぞお風邪など召されませんように、お元気で、
 「Ни пуха ни пера!(ニ プーハ ニ ペラー!)」

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pianist 松田 華音

pianist 松田 華音
1996年、香川県高松市生まれ。4歳で細田淑子に師事、ピアノをはじめる。
2002年秋、6歳でモスクワに渡りエレーナ・ペトローヴナ・イワノーワに師事、翌年ロシア最高峰の名門音楽学校、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校ピアノ科に第一位で入学。 2006年 TVロシア文化チャンネル主催、くるみ割り人形国際音楽コンクール、ピアノ部門第一位受賞。
2009年 AADGT 国際Young Musician Competition(ニューヨーク)第一位受賞。2010年 才能ある青少年の国際コンクール&フェスティバル「クラシカ2010」グランプリ受賞(カザフスタン)。2011年12月、国立アレクサンドル・スクリャービン記念博物館より2011年度の「スクリャービン奨学生」に選ばれる。
2013年2月、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校で外国人初の最優秀生徒賞を受賞。翌年同校を首席で卒業。(ロシアで成績優秀者に贈られる「赤の卒業証書」で卒業。)9月、モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学。
11月ドイツ・グラモフォンよりCDデビュー。
オーケストラとの初共演は8歳。これまでにミハイル・プレトニョフ、マルク・ゴレンシュタイン、秋山和慶、円光寺雅彦、高関健などの指揮者、ロシア・ナショナル管弦楽団、ロシア国立交響楽団、キエフ国立フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、東京交響楽団、広島交響楽団などと共演。
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※上記は2015年10月7日に掲載した情報です。

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