テクノロジー
繊維や樹脂、金属など、長年にわたり親しまれる振動板素材にはそれぞれ固有の音色的キャラクターがあり、それが音の魅力や個性を生み出してきたことは事実です。素材が持つキャラクターに寄り添いながら、経験値と勘を頼りに魅力的な音へと脚色していく。そうした作業こそ開発者の腕の見せどころであり、ひいては従来型スピーカーの音づくりのすべてであったといっても過言ではありません。これに対して、NS-5000に採用する高強度繊維糸ZYLON®を100%使用した織物は、ベリリウムに匹敵する音速と圧倒的な情報量を有しながらハード系素材にみられる固有の鋭い共振ピークを持たない、従来のいかなる振動板素材とも異なる際立った特性を備えています。この稀有の素質をほんとうに活かし切ることができたなら、音楽をよりストレートに、ありのままに再現する、真にヤマハらしい「21世紀のNS-1000M」ができるのではないか。その想いを実現するために、ヤマハでは2008年からZYLON®糸100%の織物を使用したスピーカー振動板の開発に着手。3cm口径ソフトドーム型ツィーター=JA-05K6型、8cm口径ソフトドーム型ミッドレンジ=JA-08B5型、そして30cm口径コンケーブ型ウーファー=JA-3132型からなる世界初の100% ZYLON®による3ウェイ・スピーカーユニット群を完成させました。
なかでも、ドーム型として世界最大級の口径を誇る8cmミッドレンジのJA-08B5型は100% ZYLON®振動板の可能性を極限まで追求した、NS-5000の設計コンセプトを象徴するユニットです。ドーム型だからこそ実現できるロスのない駆動と、広い指向特性がもたらす豊かな音場感。さらにユニット背面の管共鳴を打ち消すR.S.チャンバー(ツィーターとミッドレンジに装備)や、ウーファーが再生する音響エネルギーを減衰させていた大量の吸音材を取り除いて音楽本来の響きも蘇らせるアコースティックアブソーバー、レーザー計測を駆使した最先端のFEM解析によって箱鳴りを抑制するエンクロージャー補強構造という3つの新たな周辺技術とも相まって、100% ZYLON®ならではのノンカラーレーションとワイドレンジ、限りない静寂性と澄んだ響きを実現しています。
100% ZYLON® 8cm口径ソフトドーム型ミッドレンジ JA-08B5型
独自の特殊成形技術によりダイヤフラムからサラウンド(エッジ)まですべてを継ぎ目のない100% ZYLON® とした、8cm口径ソフトドーム型ミッドレンジ=JJA-08B5型。NS-5000のシステム設計はこのユニットを基準に始まりました。100% ZYLON®の音速と情報量を最大限に引き出せるよう、ボイスコイルから振動板までの距離がコーン型とは比較にならないほど短く、駆動ロスの少ないドーム型を選択し、口径については生産性を考慮した事実上の最大サイズである8cmに決定。ハイパス側クロスオーバー周波数は本ユニットの魅力をもっとも贅沢に味わえる750Hzとしました。
100% ZYLON® 8cm口径ソフトドーム型ミッドレンジ
100% ZYLON® 30cm口径コンケーブ型ウーファー JA-3132型
センターキャップレスの100% ZYLON® コンケーブ型コーンを採用した30cmウーファー=JA-3132型。同一素材ならではのツィーター~ミッドレンジとの見事な音の一体感と切れ味はもちろん、750Hzという高めのローパス側クロスオーバー周波数で最高のパフォーマンスを発揮できるよう、30cmクラスのウーファーとしては異例のワイドレンジ設計としました。アルミダイキャスト製ウーファーフレームはエンクロージャー装着状態でのFEM解析に基づく最新設計で、背面側の空気抵抗を最小限に抑えながら高剛性を実現しています。
100% ZYLON® コンケーブ型ウーファー
R.S.チャンバー
ツィーターやミッドレンジの背面から放射され不要音を抑えるために、吸音材を詰めた小さなバックチャンバーなど様々なアイデア、形状が提案されています。しかし、従来のほとんどの方式ではチャンバー内部の強い共鳴を排除するために大量の吸音材が必要で、音楽本来の自然な響きまでも奪われていました。そこで100% ZYLON® 8cmミッドレンジと3cmツィーターの背面には、中央部のメインチャンバーで発生した共鳴のピークを長さが異なる左右2本の共鳴管で打ち消すR.S.(ResonanceSurpression)チャンバー(日本特許5817762号)を装着。各ユニット本来のフラットな周波数特性を取り戻し、音楽のデリ ケートなニュアンスまでも克明に描写します。
R.S.チャンバーの周波数特性
吸音材を充填した直管R.S.チャンバー
ストレートチューブ
R.S.チャンバー
アコースティックアブソーバー
調音パネルの開発で得たノウハウを投入し、コンパクトなJ字型共鳴管で狙った周波数の定在波を除去する新開発アコースティックアブソーバー(日本特許6044164号)を組み込みました。キャビネット形状をシンプルな直方体とすることで定在波を特定の周波数に集約し、その周波数を狙って打ち消すことで、これまで必要だった大量の吸音材のほとんどをなくすことができ、音楽本来の自然な響きを蘇らせることに成功しました。さらに、吸音材を詰めた従来のエンクロージャーと比べてウーファーからの高域エネルギーが損なわれにくく、8cmミッドレンジとのスムースな音の一体感も実現しています。
アコースティックアブソーバー無し
アコースティックアブソーバー有り
アコースティックアブソーバーの動作
アコースティックアブソーバー
アコースティックアブソーバー設置イメージ
新概念のエンクロージャー構造
レーザースキャンによる計測と最新のFEM解析を駆使し、人間の聴覚では検知できないレベルで「箱鳴り」を制御する新概念のエンクロージャー構造を実用化。スピーカーユニットが発した音がエンクロージャーの6面にどのように伝わり、どのように再放射されるかを高精度にシミュレートして設計された独自の補強桟がエンクロージャーの響きの時間軸を完璧なまでに揃え、自然な響きのなかに圧倒的なS/N感を再現する、まさしく異次元のオーディオ体験をもたらします。
レーザー測定器によるエンクロージャー表面の振動モードを測定
FEM解析