Joe Bonamassa (ジョー・ボナマッサ)

※このインタビューは2008年12月に行われたものです。

まず日本の印象は。クリニックはどうでした?

クリニックはうまく行きました。日本に来たのは初めてですが、とてもみなさん礼儀正しくて、僕の言うことをよく聞いてくれました。日本については本で読んだことはありますが、本で読んだのと、実際に自分の目で見るのとは全然ちがいますね。5日間日本に滞在しましたが、明日帰るのが寂しいです。

日本食は大好きです。アメリカでも週に2、3日は日本食をたべています。もちろん寿司は大好きです。自分がどこにいて、どこへ行くのかわかっていないと、色んなことを見逃しちゃいますよね。ビルの上のほう、6階ぐらいまできちんと見ないと、どこに何があるかわからないですよね。

ギターを始めたきっかけは?

4歳から弾いています。父がギタリストでした。家の中にギターがたくさんあって、最初はクラシックから始めたんです。
ギターはチャレンジングな楽器です。ギターは引き手の感情、フィーリングとか、手の感触にとても左右されやすいんです。楽器そのものより弾く人に左右されるということです。例えばEの音一つにしても、みんなそれぞれ弾き方がちがいますよね。自分の中に表現するのに最適な楽器で、そこがチャレンジングな部分です。

ブルースに興味がわいたのはなぜ?

子供の頃色んなジャンルの音楽を聴いていました。クラシックからはじめたんですが、クラシックは譜面どおりに弾かないといけないんです。自由な解釈を加えられない。でもブルースはシンプルで、I、IV、Vが決まっていますが、それ以外に特にルールはなくて、自由に弾くことが出来ます。
毎回違うことを弾くことができる。そのときの気分にマッチしたものを弾けるんです。

ブルースは自分の近くにあったのですか?

ブルース、ロック、クラシック、ジャズやブルーグラスの人たち、いろんな人の音楽が家にあふれていました。その様々の要素がまざって今の自分の音楽は形成されていると思います。自分はブルースのミュージシャンでもないし、ロック、クラシックでも、ジャズ、のどのジャンルにも属してない。自分はエンターテイメント・ビジネスにいるけど、あるジャンルのカテゴリーにはいるほど、一つのジャンルを掘り下げていない。

ブルースはあまりポピュラーではないけど、ブルースのすばらしさは?

ブルースロック、っていうけど自分はエンターテイメント・ビジネスにいる。
ブルース・ビジネスでも、ギター・ビジネスでもない。自分の仕事は人々を楽しませること。日本でブルースはポピュラーじゃないって言うけど、ハンバーガーだってマックが出来るまではそんなにポピュラーな食べ物ではなかったのと同じ理屈。いつ、どこでポピュラーになるかは、わからないよ。
自分もよく「ブルースなんてもう古い」とか「ブルースロックなんて人気がない」って言われてきたよ。でも先ほども言ったけど、自分の仕事は人々を楽しませることで、自分が弾いている音楽を人々が気に入ってくれればそれでいい。自分はあるジャンルのカテゴリーには属していません。ブルースを改革して、新しいジャンルを確立しよう、とかそういうことは思っていないんです。自分自身を改革しながら人々を楽しませて、世界中を回っている、っていうだけのことです。

年間200ステージ以上という過酷なスケジュールに耐えられるギター

ギター上達の秘訣は?

上達の秘訣はギターを第3の手と感じられるようになることだと思います。自分はある時間を決めて練習したり、一日何時間練習する、って決めているわけではありません。ただ時間がある時には楽屋だろうと、ホテルの部屋だろうと、このインタビューの間だろうと、暇さえあればギターを弾いています。練習している、っていう意識は特にしていないです。でも、そうやってたくさん練習はしています。何においても練習することは大切です。スケールばっかりを練習するのではなく、コードやフレージング、そして観客と感情的なコンタクト(Emotional Contact)をとる練習など、すべてが大事です。

ヤマハのギターを使うようになったきっかけは?

ヤマハは1年ぐらい前から使い始めました。長いことロード(ツアー)に持っていける、いいギターを探していたんです。ステージでも、スタジオでもいい音がして、更には世界中をツアーして回り、年間200ステージ以上という過酷なスケジュールに耐えられるギターをね。
今まで何本ものギターを弾いてきましたが、どれも満足いくものではありませんでした。自分はエレクトリックをよく弾いていたんですが、ある時マイク・テンペスタというヤマハの人に紹介されて、彼がヤマハのアコースティックを弾いてみないか、って言ってくれたんです。LJX26も36もすごくいい音がしていました。PAしてもすごくいい音がしていましたし、旅をして回っていても音が安定していて、耐久性があってすごくいいです。

たくさんギターを持っていますが、ヤマハの音のどんなところが気に入っていますか?

マーチン、ギブソンなど250本ぐらい持っています。ギターはいかに見た目がよくても弾きやすくて、弾き手を弾く気にさせるものでなければいけないと思っています。今もっているこのギターはいつも使っているものではないけれども、自分がいつも使っているものとまったく同じ感覚です。その一貫性が大切なんです。
あとは音に温かみがあること。ビンテージギターが貴重なのは、長い年月を経て音がまろやかになっていて、その温かみのある音が弾き手を弾く気にさせてくれるからなんです。

ピックアップの感想は?

これは反応が早い。これがあるからこのギターが気に入っているんですよ!これまでこんなピックアップに出会った事はないよ。こうやってソファーで弾いている時もステージでもいい音がする。コードを弾くいている時にクリーンないい音がするピックアップはたくさんあるけど、早いパッセージをPAを通してもきれいに一つ一つの音が聞こえるピックアップは数少ない。このピックアップは反応が早いし、全部の音がきれいに聞こえるからすごいよ。

毎晩同じ音がする、っていう一貫性がすばらしい

他のピックアップよりもすぐれている?

もちろん。250本もギターを持っているからよほど気に入ったギターでないと新しいのは必要ない。つまり、自分に一番あっているギターはなにか、っていうことなんです。音響さんの言うことや、モニターから聞こえてくる音、自分の耳などすべてを総合して自分に一番あったものを見つけることが大切なんです。今のところこのギターが一番いいんです。2000席のホールでも、野外でもいい音がしている。毎晩同じ音がする、っていう一貫性がすばらしいです。

エレクトリックもアコースティックの使い分けは?

アプローチはまったく同じです。エレクトリックもディストーションはあまり使わないし、一つ一つの音をはっきりと大きな音で弾きたいんです。アコースティックのほうはもっとクリーンな音で。違いはアコースティックではそんなにベンディングをしない、ってい、なおかつ大きな音で弾きたいです。ブルースのフレーズはどちらでも基本的なアプローチは同じです。

理想とするアコースティック・サウンドは?

スタジオでも、ライブでも理想としている音は初期の頃のクロスビー・スティル・アンド・ナッシュです。 アグレッシブでありながら温かみがあって、なおかつ明るい音がしている。もちろんビッグでラウドな音を求めています。鳴りが悪いギターを弾くとステージでは必死に音を出そうとしなければならなくなるけど、そうするとかえって音が鳴らなくない気がします。いい音がしているギターだと軽く弾いても深みがあって、人間味がある音がしている。

クリニックで一人で演奏してたのは?

クリニックは自分の20年間の軌跡をたどるものでした。自分が習った人たち、影響を受けた人たちの話。自分の音楽のルーツをデモンストレーションしていたんです。

影響を受けたアーティストは?

一番好きなのはクラプトン。そして、BBキング、ベック、ジョン・ウィリアムス、アル・デミオラ、エリック・ジョンソンなどです。

昔のものを学ぶことは大切ですか?

歴史を学ぶことはとっても大切です。歴史がわかって初めて未来がわかるんです。自分の好きな人が誰に影響を受けたか、ってずっとたどっていくと、最終的にはブルースに戻ると思います。ロバート・ジョンソンがいなかったらマディー・ウォータースもいないし、BBキングがいなかったらジェームス・ブラウンもいない。ツェッペリンやヒップホップも全部ルーツはブルースだと思います。それがわかってステージに上がると演奏も変わります。

Lギターに対するリクエストは?

去年はバッテリーについてずいぶん話しました。日本のバッテリー、アメリカのバッテリー、ヨーロッパのバッテリー、全部大きさが違うので不都合がありました。今は直っています。でも、全般的にはとてもいいギターです。このギターは歴史が長くて、ロングセラーですから、そんなに改良するところはないと思います。

ヤマハそのものの印象は?

みんな親切です。工場にも行きましたが、あんなにきれいな工場は見たことがありません。ヤマハで働いている人はみんな温かいです。アメリカにいるヤマハの人も日本にいる人もみんないい人たちばかりです。アメリカと日本でこれほどうまく連携して仕事している会社は珍しいです。

近々の予定

アルバムが2月に発売されます。来年の9月には日本ツアーも行います。あと、5月4日にロイヤル・アルバート・ホールで弾くんですが、クラプトン、ツェッペリン、ビートルズなどが演奏していて幼い頃から自分があこがれていたホールなので、それをとっても楽しみにしています。そこではDVDの収録も入ります。自分のウェブではロイヤル・アルバート・ホールの日までカウントダウンしているんです。そのチケットが6日間で完売したのにも感動しました。

アドバイス

自分に正直になること。自分はこれをやってはいけない、ブルースなんて古いよ、これをやれ、あれをやれ、って言われ続けてきたけど、自分は常に自分に正直に生きてきた。どんな音楽が好きでもいいんですが、とにかく自分のベストをつくすこと。学ぶことをやめないこと。出来るだけ多くのものを吸収すること。音楽だけでなく、色んなことを体験したり、見たりすれば、それだけ音楽に幅がでます。自分のやっていることに信念を持っていれば、必ず成功します。
そうしていたからこそ僕はスタッフに支えられて、誰も興味がなかった音楽でこんなに大きな成功をおさめられた。とっても誇りに思っているよ。
今では11枚もアルバムを出しているし、世界中をツアーして回っている。今までの努力と信念が身を結んだ。
2008年は今までで一番いい年でした。スタッフやファンに心から感謝しています。

いいギタリストとはどういうもの?

いいギタリストとはBBキングです。音を三つ出しただけで彼だとわかる。クラプトン、ジミー・ヘンドリックス、ベック、ジミー・ページなどもそうです。自分が考えるいいギタリストとは安全な道を行かない人、間違いを恐れない人、聞き手との感情的なコミュニケーションの必要性をわかっている人、広い視野を持っている人、いろんなスタイルの音楽を引き出しに入れている人、トーンを何よりも大切にする人、フレージングのセンスがある人。
ギタリストだからといっていつもリードを弾く必要はありません。コードの知識があればずっとリズムを弾いていてもいいんですよね。バンドとうまくブレンドできる人がいいギタリストです。

Lシリーズを弾いている人はたくさんいるんですが、ジョーさんの音が違うのはなせでしょうか?

頭の中にほしい音があるんです。弾いているうちにその音に近づけようと努力しています。
十分に練習しているので、自分の要求に手が応えてくれています。
あとは数年前に訪れた自分の考え方の変化のせいでしょうね。数年前まではソロとかを弾くと、自分が影響を受けた誰かのソロに似てしまっていたんです。あ、ここはクラプトンだな、とかベックだな、とかわかっちゃったんです。それをきっぱりやめて、それらすべての要素をうまくブレンドして自分の音とスタイルを確立しようと思ったんです。満足いくまでとことんやろうと思った結果です。今でも自分に満足していません。自分に満足できたら引退しますよ。

来年のツアーへのおさそい

来年日本でもアルバムがでます。みんなチケットを買って聞きにきてください。日本でも始めてのコンサートになるので、とっても楽しみにしています。
来年はもっと自分の名前が広まって大勢の人が来てくれるとうれしいです。

profile : Joe Bonamassa

楽器商であった父の元、幼少の頃よりギターと戯れスティーヴィー・レイ・ヴォーンを完璧に弾ける“ギターの神童”として注目を集める。11歳の頃からダニー・ガットンに師事し、ブルース、ジャズ、カントリー、そしてハードロックに至るまで様々な音楽の基礎を身に付ける。またダニー・ガットンがニューヨークでライヴを行うときは毎回バンドメンバーとしてライヴに出演し、ジョーが12歳の時にはB.B.キングの目に留まりオープニングアクトに抜擢された。

そしてジョーが17歳の時にマイルス・デイヴィスの息子、エリン・デイヴィスらとブルースロックバンド「Bloodline」を結成。シングル2作とアルバム1作をリリースしている。この頃からいわゆる神童的な扱いを卒業し、いよいよ本格的なミュージシャンとしての評判を博し始める。ジョーが23歳になった2000年にトム・ダウド(クリーム、リナード・スキナード、オールマン・ブラザーズ・バンド他)プロデュースによるアルバム「A New Day Yesterday」でソロデビューを果たす。以来現在までにスタジオアルバム7作、ライヴアルバム2作、ライヴDVDや教則DVDを3作と、精力的にリリースを続ける。そのスタジオアルバムのうち6作が米ビルボード・ブルース・チャート1位を獲得するなど、現在最も注目を集める若手ブルースロック・ギタリストとしての地位を不動のものとしている。またライヴは年間200本という驚異的なペースで行っており、2009年5月4日には彼のキャリア・ハイライトとなるロンドンのRoyal Albert Hall公演を行い、7日間でチケットを完売させ名実共に大物ギタリストとしての名を欧米全土に知らしめた。またこの公演ではエリック・クラプトンがゲスト出演をしている。

また、同年9月に日本企画のベスト盤「ザ・ベスト・オブ・ジョー・ボナマッサ」をリリースし、日本デビューを飾る。またリリースに伴い初の来日公演を行い、その圧倒的なパフォーマンスと卓越した演奏力、そしてピュアな人間性にブルースファン、ギターロックファンを魅了した。そして2010年3月に、ソロデビュー10作目となるアルバム「ブラック・ロック」をリリース。B.B.キングが初めてゲスト参加したこのアルバムは、メモリアルアルバムにふさわしく、楽曲、演奏、歌唱、どこを切っても秀逸なパフォーマンスが収められている。

ジョーが影響を受けたギタリスト/ミュージシャンとしてB.B.キング,ロバート・ジョンソン,ダニー・ガットン,エリック・クラプトン,エリック・ジョンソン,アルバート・コリンズ,スティーヴィー・レイ・ヴォーン,バディ・ガイ,マディ・ウォーターズ,Tボーン・ウォーカー,ポール・コゾフ,ピーター・グリーン,ゲーリー・ムーア,ローリー・ギャラガー,ジェフ・ベック,ジミー・ペイジらを上げている。さらにB.B.キング,エリック・クラプトン,ジェフ・ベック,アルバート・コリンズ,バディ・ガイ,フォーリナー,ジョー・クッカー,グレッグ・オールマン,ジョン・リー・フッカー,ポール・ロジャース,エリック・ジョンソンを始めとした幾多のブルースロック界の伝説と言われるギタリストらと同じステージでパフォーマンスを果たしている。

ヤマハアコースティックギター、LJX26C、LSX26Cなどを使用。