Char meets THR
THRの第一印象はいかがでしたか。 最初はアンプには見えなかったね。「なにこれ?」みたいな。弾いたらビックリしたよ。今度は「いいじゃん、これ」って(笑)。ヤマハ、こんなの売っちゃダメじゃん、売れちゃうよって。
気に入った点は? アンプもさることながら、まずエフェクターだよね。コーラスもフェイザーもトレモロも入っていて、かなりいじれる。ディレイもロングからショートまであるし、リバーブもいいし。しかもこのエフェクターが面白いのは、エフェクトの切り替えも含めてツマミ1つだけでコントロールできるんだよ。ツマミを回していくと効果だけじゃなくてエフェクトそのものまでどんどん変わっていくわけ。それでありとあらゆるエフェクトを試して、かなり愉しんだ。エフェクトのかかり具合も昔っぽい感じでいいね。
昔っぽいとは? ハッキリかかるんだよ。俺はエフェクトを使う時はまずガッツリかけて、それから減らしていくタイプでさ、そのほうが手っ取り早いんだよね。THRのエフェクトは、そういう使い方ができる。
まずエフェクトのクオリティが気に入ったということですか。 エフェクターだけの話じゃなくて、いちばんはいいのは、この小さなアンプ1台で全部できることなんだよ。クランチのチャンネルがあって、エフェクターもたくさん入ってるから、あれこれ用意しなくてもTHRだけあれば、ツマミを回すだけ自分のイメージに近いサウンドがすぐ出せる。これはすごく便利だね。たとえば家でエレキを弾くなら、普通ならいろいろ用意しなきゃいけないじゃない、エフェクターをたくさんつないで、スイッチも70回ぐらい押さないといけないし(笑)。面倒くさいよね。
アンプシミュレーションのクオリティはいかがですか。 この大きさのものにしては、ものすごく良くできてると思うよ。クオリティっていうのは「何をやりたいか」によるから、いろんな言い方ができるけど、家で楽しく弾くなら、もう最高だよね。小さいのに近所から怒られるぐらい大きな音も出るし(笑)。それって結構大事なんだよ。
音楽を聴く機能はどうですか。 そこがTHRはすごいよ。オーディオとしても使えるっていう。一見レトロに見えて、実は「いまどき」な感じ? 外はアナログだけど中身は最先端のデジタルっていうのがね、いいよ。
このアンプを作った人たちの遊び心がギタリストの心に響くんだよ。
デザインはいかがですか。 THRはやっぱり「デザイン」だよ。音も機能もいいけどね。ヤマハの人がいないから言うけどさ(笑)、久々にいいデザインだね。「これヤマハが61年に最初に出したアンプでさ、30万したんだよ」って言っても、信じるヤツ、いるんじゃないの? レトロなデザインや色、電源を入れると真空管みたいにジワーっと光が入るところなんかに、このアンプを作った人たちの遊び心を感じるよね。そういうのってギタリストの心に響くんだよ。レトロなデザインの内側の見えないところにあるデジタルの中身もしっかりできていると思うし。だいたい、この鉄のハンドルもすごいよね。普通これしないよね。でもこれがいちばん頑丈なんだよ。壊れないから。長年の経験からね(笑)。
部屋に置いても、アンプっぽくなくていいですよね。 いい感じだよね。だいたい自分の家でマーシャルをガンガン鳴らせる人って、いまどき、日本じゃほとんどいないでしょ。このくらいの大きさのものって日本の環境にも合っているし、家で弾くのにすごくいいと思うよ。昨今はヘッドフォンで練習している若者も増えているらしいけど、音楽なんてヘッドフォンで聴くもんじゃないしさ。こっちのほうがずっといいよ。エレキって、所詮アンプあってのエレキで、2つで1つの楽器なんだよね。俺、いつも家ではアコギ弾いてるけど、こいつが家にあったら、ついエレキ弾いちゃうね。
エフェクターやアンプシミュレーターをこのサイズにまで凝縮したのが良かったのでしょうか。 そうだね。アンプ作りやデジタル技術を含めて、今までヤマハが培ってきた技術があるから、ここまでコンパクトにできたんだろうね。しかもツマミをやたらとつけずに最小限に絞り込んで、レトロなデザインにして。それが勝利だと思うよ。実はエレキギターって誕生してからさほど変わっていなくて、ある意味完成されているって言い方もできるのかもしれない。逆にアンプってものすごく進化して、レコーディング機材も含めてデジタルになって、一時期は大きいラックを積み上げるのがデジタル系のギタリストだったけど、そのデジタルがいくところまで行き着いて、ここまでコンパクトでアナログのニュアンスを持ったアンプが出てきたんだと思うよ。すごいよね。ここまで来たか、と。
THRをギタリストの方々に勧めるとしたら? 初心者からプロまで楽しめるんじゃないかな。コストパフォーマンスは最高だね!家で弾くアンプとしては理想的、だよ。ホント、遊びやすいアンプだと思うよ。ずっと弾きたくなるアンプだよね。
アコースティックギターはずっとヤマハ「L51」。
1975年以来35年間、これに勝つギターはなかった。
ヤマハとのつきあいを教えていただけますか。 そりゃー長いよ。最初に買ったピアノがヤマハだしさ。そのピアノは今でも持ってるし。買った時はデカくて、家に入れるのがたいへんだったよ(笑)。『PIANO』っていう歌の歌詞になってるけど、あれは本当。ピアノを滑車で上げて二階から入れてって大騒ぎでさ。近所の人が集まって来ちゃった(笑)。その後はバンドでヤマハのライトミュージックコンテストに出たりした。道玄坂のヤマハの入り口にステージが作ってあって、そこで演奏したのを覚えている。上のスタジオにもよく出入りしていたね。ギターでいうと、初めて俺が買ったヤマハは1975年に買ったアコースティックギターの「L51」かな。
アコースティックギターはずっとヤマハのL51がメインですよね。 L51を買う前はアメリカ製のアコギを使っていたけど、これが固くて弾きづらくて。ライトゲージじゃぜんぜん鳴らない。アメリカのギターはどれもやっぱり外人向けだなって痛感した。その後L51が来てからは、ずっとあれ1本だね。ネックも自分にぴったりだし。スタジオミュージシャンをやってる時から使っているけど、音、いいもんね。綺麗な音で録れてる。アコースティックギターは生音がよくないと弾く気がしないけど、その後いろんなギターを弾いたけど、ヤマハのL51に勝つものはなかったんだよ。
L51は一度ネックが折れたと聞きました。 そうなんだよ! 野外で演奏してる時、スタンドに立ててたら風で倒れちゃって折れて。もう直らないと思ってショックだったけど、ギターの職人さんはさすがだよね。綺麗に直してくれて骨折した部分は前より強くなって帰ってきた。俺はあんまり楽器を大事にする方じゃないけど、それ以来L51は一応大事にしてる。
「TRADROCK」は原点に戻ってギターで表現できることを見つめ直すプロジェクト。
最近Charさんが取り組んでいる「TRADROCK」について教えてください。 デビューが76年だから、今年でデビュー35年、ギターを弾いて45年以上になるけど、その間、音楽業界、レコードビジネスがものすごく変わったよね。それで自分を見つめ直す意味もこめて、デビューするまでの期間に、自分はどんなアーティストに影響されてきたのか振り返ろうと思った。65年から75年までの10年間は特にいろんなアーティストが出てきたんだけど、とりあえずロックだから6アーティスト、ピックアップした。自分がいちばん影響を受けたヤードバーズの3人、エリック、ジェフ、ペイジ、そして歌モノとしてのビートルズ、エレキを俺に弾かせてくれたきっかけとなったベンチャーズ、そしてエレキギターの可能性を最大限まで高めたヘンドリックス。彼らをもういちど自分でアレンジすることで、今後「自分に何ができるのか」「どんなオリジナルが作りたいのか」ということが見えてくるんじゃないか、と思った。できれば音源だけじゃなくて、メンバーが一発で演奏している映像を撮ってシリーズ化したいと思ったんだけど、メジャーでは縛りが多すぎてできないから、まずはZICCAというレコード会社を作って、いろんなものを自由に配信できてネゴシエートできるようにして、それでこのプロジェクトをはじめたんだ。
「TRADROCK」で取り上げているルーツロック的なものは若い人にも新鮮かもしれませんね。 そうなんだよ。家の子ども達を見ていても、80年代や90年代はそれなりのロックを聴いていても、気がついたらヘンドリックスを聴いてるし、レッド・ツェッペリンを聴いてるわけ。「オヤジ、やっぱりいいよね」とか言って。これがクラシックだったらなるべく形を変えずに昔のまま演奏するんだろうけど、ロックなら変えていいと思うんだ。そのままじゃつまんないしね。それがトラッドという意味。トラッドっていうのは、親父が着ていたスーツにパッチを当てて、いま風にアレンジして着る、っていうことじゃん。ロックってそういうことをやっていい音楽じゃないかと思うんだ。でもTRADROCKをやるにあたっては、原曲をもう一度、全部一通りコピーしたんだよ! 耳コピでね。
本当ですか! やってみたら「あー、ベンチャーズなめてたなー、みたいな。」(笑)。当時は子どもだったから、かなりいい加減だったなと。今やってみると結構大変で。特にベンチャーズがいちばん大変。エレキを流行らせた原点のバンドだけど、テケテケしてるだけじゃなくて、さすがにそれを裏付けているテクニック、アンサンブルがすごい。ごまかしがきかない。歌がないからさ。
ベンチャーズって凄いんですね。 『キャラバン』で練習しないと弾けないフレーズがあったね。こんなにギター練習したのは中学校以来じゃないかな。ピアノでいえばバイエルが表現豊かに弾けるのか、ブルグミュラーが弾けるのか、ハノンがちゃんとした運指で弾けるのかということと同じ、「苦手克服」ってヤツですか(笑)。ここまで来ると、普通もう原点には戻らないじゃない。それをもう一度しっかりやろうと。
本当に原点に戻る感じですね。 何十年やったって、まだエレキで表現しきれていないものがやっぱりあるわけで、それをこの6人をもう一度やり直したことで、6弦×22フレットあるいは24フレットにある可能性に気づけたわけ。まだ「こんな風なフィンガリングができるんだ」とか。もう、何でも分かってる気になっちゃうでしょ。これだけ長くやっていると。でもやってみると「ベンチャーズすごいな!」ってまた気づけるんだよ。
現在TRADROCKのツアー中ですが、ライブでの手応えはいかがですか。 音源だとわかりにくいけど、ライブだと見えることもあって、ちょっと手前味噌だけど、オリジナルの音源では何人もギターがいるものを、ライブでは俺が一人でやるってところが面白いはず。1本のギターで音を絶やさないで、どういうフレージングならいけるのか。つまり一人二人羽織状態(笑)。ギター弾ける人が見たら「すげぇ面倒くさいことやってるんだな」ってわかってもらえると思う。
最後にCharさんから、読者の方々にメッセージをお願いします。 音楽という不思議なモノは、人間だけに与えられたものだと思う。より多くの人に楽器を弾く楽しみを味わってもらいたいね。今はいろんな楽器が選べる時代だし、いろいろ習える教則モノもある。だから「楽器を弾く」という趣味を持つことが盛り上がって欲しいと思うし、自分がそのキッカケになればいいなと思ってます!
(取材:2011年11月)
profile : Char
1955年、東京都出身。8歳からギターを始め、中学生の時にはスタジオ・ミュージシャンとして活動。1973年、SMOKY MEDICINEを結成。1976年に『NAVY BLUE』でソロデビュー。1979年からJ・L&C(のちのPINK CLOUD)として活動。1989年にはBAHOを結成。近年はオリジナル・レーベルZICCAで、TRADROCKシリーズを展開。
Char:公式ホームページ http://www.zicca.net/
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