木村大

※このインタビューは2007年に行われたものです。

昨年のツアーで得たものを最大限に生かして

この9月から来年(2008年)の3月にかけて、日本全国をまわるリサイタル・ツアーが始まりました。昨年の秋から今年の春にかけてのツアーに続いて、2回目となりますね。

木村: 昨年からのツアーの中でいろんなアイデアが浮かんできました。クラシック・ギターの可能性を、ソリストとして広めるためのいろんなアイデアです。昨年のツアーはやりたいことがぎっしりと詰まった企画で、途中で変更することができませんでした。
それでフラストレーションが溜まることもありました。また、長丁場の中では演奏に集中できない状況もありました。これはファンの方々の応援でなんとかクリアできたんですが、自分がもっと能動的に仕掛けていかなければならないと痛感しました。悪い言葉ですが、ツアーでは演奏会を「こなす」という感覚がどうしても生まれてきてしまいます。それを撃退したいと思いました。

それを踏まえて、今回のツアーはステップアップしたものになりそうですね。

木村: 今回はすべての楽曲を自分で編曲しました。小編成のストリングスに入ってもらうんですが、この編曲も自分でしています。すべてを自分で担うことで、ツアーの途中での変更や改訂が自由にできるわけです。ギター1本で弾かないあり方を見て「木村大はソロをしないのか?」と言われるかもしれないけれど、ギターとストリングスの組み合わせをしているだけで、ギターはあくまでもソロで弾いていることに変わりはない。
ギター1本で2時間のリサイタルを開くあり方もあるでしょうが、実は聴き手も弾き手も辛い時間になってしまうことも多い。ピアノ伴奏があって始めてより輝きを増す、ヴァイオリンのリサイタルのように考えていただければいいわけです。その中で「無伴奏ギター」の作品を取り上げると、よりギター1本の魅力が引き立つのではないかとも考えているんです。何にせよ、ツアーでたくさんのお客さまから大きなエネルギーをいただけるのが本当に嬉しい。一晩のリサイタルの中で、毎回全力投球をして、クラシック・ギターの魅力を目一杯ご披露したいと思っています。

ストレートでオーソドックスなのが魅力

今回のツアーではヤマハのエレクトリック・アコースティックのギターを使われるそうですね。

木村: 現代の巨匠と言われているジョン・ウィリアムスもこうした方向性の活動を取り入れていますが、クラシック・ギターにも電気的な力の手助けを借りた演奏の仕方があってもいいのではないかと思いました。クラシック・ギターの音量には限界があります。つまり大ホールでの演奏には向かないということ。僕の目指すものは、フィンガー・ピッキングというクラシック・ギターならではの奏法の良さをそのままに、音量だけを増幅すること。増幅しても自然な音であるように、ヤマハの技術の方々に無理を言って作っていただいた楽器なんです。GCX31Cという機種をベースに、木村大ヴァージョンを作っていただいています。いずれは、ピックを使ってもいい音がするように、クラシック・ギターなのにロックもできるような楽器に仕上がっていったらいいなと思っています。

クラシック・ギターの世界では革命的な演奏スタイルとなりますね。

木村: 今回のツアーで、この楽器のキャラクターやカラーを追求したいと思っています。芯のしっかりした音色で、高音から低音までバランスのいい、ストレートでオーソドックスな楽器なので、それができるはず。生の音の倍音の鳴りとか、臨場感をつくり上げたいですね。

ギター造りにおいてのヤマハとのコラボレーションはいかがでしたか?

木村: 技術の方々はもちろんのこと、企業として挑戦や実験を率先して行う気質があるように思います。ギターの魅力を広めたいというモチベーションは、すでの僕と共有のもの。これでクラシック・ギターの可能性も広げたいと思っています。

意欲満々ですね。

木村: 20代の間はできる限りいろんな挑戦をしたいと思っているんです。もちろんクラシック・ギターが僕の中核。でももしかしたらフラメンコやロックなども取り入れていくかもしれない。エレクトリック・ギターも手にするかもしれない。でもクラシック音楽の美しさをもっと多くの人に知っていただだきたい、という僕の思いは揺るぎません。一見ヴァラエティに富んだ活動に見えても、それはすべて「木村大」の音楽活動なんだ、と言えるように頑張りたい。そのためにも、自分がまず完全燃焼できるリサイタルを積み重ねていかなければならないと思っています。

新しいアルバムのリリースは考えていますか。

木村: 今回のツアーの後に録音したいと思っています。ツアーで練り上げた演奏や、浮かんできたアイデアを盛り込んだものを。

楽しみにしています。

profile : 木村 大

1982年、茨城県土浦市に生まれる。5歳より父、義輝に師事、ギターと音楽理論を学ぶ。第13回GLC全国学生ギターコンクール小学校低学年の部優勝。その後、数々のコンクールで優勝する。96年、第39回東京国際ギターコンクールに14歳で優勝。96年と97年、茨城県知事賞受賞。バルセロナ音楽祭に招待されヨーロッパデビュー。17歳でソニーよりCDデビュー。以後3年にわたり全国リサイタルツアーやオーケストラとの共演、アルバム「カデンツァー17」「駿馬」「アランフェス」を発売。この間、テレビ、ラジオに出演。雑誌、新聞にも登場。日本のクラシック音楽会に旋風を起こす。2001年2月、第11回新日鐵音楽賞フレッシュアーティスト賞を受賞。02年4月より2年間、英国王立音楽院に留学。第1回ベストデビュタント賞(音楽部門)を受賞。07年9月から08年3月にかけて、全国20数会場でリサイタルを開催中。

木村 大