Mike Stern(マイク・スターン)

コンテンポラリーであり、ジャズであり、そしてグローバルなリズムを持つギタリスト、マイク・スターン。彼がヤマハギターを使い続ける理由、それはまさに感性の一致した不可分なパートナーであるからに他ならない。今、あらためて語られるその出会いとこれからの関係。

まず、ヤマハ ギターを使い始めたきっかけは何でしたか?

MS: もうかなり前のことになるけど、マイルス・デイビスとプレイしている頃にヤマハのスタッフと出会い、彼もそのツアーに同行していたんだ。当時はマイルス・デイビスとダブルビルコンサートというツアーを複数のバンドで行っていて、その時、ヤマハのスタッフに、「プロフェッショナル」という名前のギターをプレゼントされたんだ。それは、かなり良いギターだったんだけど、そのタイミングではヤマハ ギターに移行するきっかけがなくて、そのまま数年が経ってしまったんだ。その後、活動を行っていく中でヤマハ ギターをときどき試していたら、年々楽器の完成度が上がっていくのが手に取るように分かってきたから、今度は僕の方からあらためてヤマハにコンタクトをとって、スタッフとミーティングを重ね、結果的に自分のモデルを作ってもらうことになった。その頃からいろんなヤマハ ギターを手にしているけれど、年々クオリティーが良くなっていったね。今もなおそのクオリティーの向上には目を見張るものがあるよ。

コラボレーションしながらヤマハとの関係が深まったようですが、それ以前はストラトキャスターを主に使っていましたよね?

MS: 確かに昔は、おもにストラトを使っている時期もあった。あとはテレキャスターもよく使っていたね。ロイ・ブキャナンやダニー・ギャットンのビンテージ モデルを持っていたんだけれど、ボストン公演中に滞在先で強盗に襲われて、盗まれてしまったんだよ! 相手が拳銃を持っていたから、仕方なくそのまま手渡したんだ…。盗まれた後、ギター クラフトをしている友人がその2本と同じシェイプのコピーを作ってくれたから、それでしばらく演奏したんだけれど、コピーというよりむしろ似て非なるカスタム メイド ギターという感じだったね。それらと今ここに持っているギターはかなりシェイプなども似ている。けれど、音や強度、柔軟性はこのヤマハ ギターの方が断然いいね!

「These Times」Mike Stern
2003.9.13発売
マイク・スターンのレーベル移籍第一弾

本当に気に入った一本があれば大体事は足りるだろ?

楽器は基本的に一本しか使わないみたいですけど、それには何か理由があるのですか?

MS: 自分が本当に気に入った一本があれば、大体のステージでは事足りるだろう? まぁ、たまにアコースティックを使う時もあるけどね。僕はいつも、なるべく一本のギターで色々な音を表現したいと思っているんだ。そういう意味では、自分にぴったりフィットする一本を見つけることのほうが大事だね。

たくさんのファンやアマチュア プレイヤーが気になる所だと思うのですが、普段の練習はどのようにしていますか?

MS: 音楽は終わりのない練習だよ。一生涯練習! それと、音楽というのは常に進化し続けているから、いろんなジャンルを聴いて音楽的な視野を広げることも大事だね。僕の場合は、クリニックなどで教えることもひとつの練習、勉強になっているよ。まぁ、これはほとんどの人には当てはめにくい練習だけど…。いわゆるギター練習という点で言うと、やはりスケールやセオリーが中心になるね。あとは、曲をよく聴いて自分流にアレンジしたりもする。練習方法は人によってさまざまだけれど、音楽は最終的に魂で弾くということを忘れずにいれば大丈夫だよ! とにかく時間はかかるけどね。音楽の練習はある意味で無限大ともいえる。これが出来たら終わりというのはないから、答えはあるようでいて実は存在しないんだ。僕自身も正解を知っている訳ではないしね。音楽というのはその答えを見つける旅ともいえるのかもしれない。それがたまらなく面白い所だと僕は思うよ。

ギタリストとして最も重要と考えている事は何ですか?

MS: う~ん、キャリアとしては22歳からギターを始めて今は50歳になるからねぇ(笑) 大事なことはいろいろあるよね。繰り返しになるけれど、やはり練習を欠かさないことと、一ケ所に落ち着かないことかな。それと、いろいろな人と会ったり影響を受けたり、とにかく可能性を広げるのを大事にしていくことだね。たとえば、違う国の言葉を話せるように勉強することも音楽の勉強に似ているものがあると思うよ。外国語を憶えることで行動できる範囲がぐんと増えて、そこからさらに広がる可能性を秘めているわけだから…。音楽とは終わりなき可能性を秘めたものだと思っていつもプレイしているよ。

“マイルス4世代”でのレコーディングはエキサイティングだったよ

現在の活動状況を教えてください。

MS: 去年「These Times」というアルバムをリリースしたんだ。前のアルバムにも協力してくれたリチャード・ボナがまた参加してくれて数曲一緒にプレイしている。それと、シンガーのエリザベス・コントマノー、それとインストルメンタル数曲に参加してくれたサックス プレイヤーのケニー・ギャレット、ドラムのヴィニー・カリウタ、ベースのウィル・リー、もう一人ベースのヴィクター・ウッテン、もちろんリチャード・ボナもベース プレイヤーだよね。なんか、ベーシストばかりだなぁ(笑) でも、全員が一気に演奏するわけではないからね(笑) 大勢参加してくれたのでレコーディングはとても楽しかったよ。あと、1トラックにベラ・フレックという凄腕のバンジョー プレイヤーが参加しているよ。バラードで一緒にプレイしたんだけれど、なんとも素晴らしいサウンドだったね。結果的にこのアルバムは幅広い音、いろいろなミュージシャンたちの人生の臭いも感じるCDになったと思うよ。

他のアーティストへ参加してアルバム、コンサートなどを行ったりはしないのですか?

MS: あぁ、そういうのにもよく参加するよ。最近とくに興味深いライブCDのレコーディングがあったんだ。それには、ジミー・コッブ、ロン・カーター、ジョージ・コールマン、そして僕という「マイルス4世代」が一緒になってレコーディングしたんだよ。年代順に言うとジミー・コップ、ロン・カーター、ジョージ・コールマン、そして僕! この4人の中では僕が一番若いんだよ!(笑) どんなレコーディングだったかというと、ライブハウスにお客さんを入れてステージにはマイク1本だけを置いた。ミキサーやPAはまったくない状態で1本のマイクのみで4人で演奏したんだ。これはとても楽しかったし、興味深いライブであり、レコーディングだったね。とくにこの連中とプレイすると面白い。そういえば、ロン・カーターにはロン・カーター jr.という息子がいて、ベース プレイヤーでもあるんだけど、彼がヤマハのベースが欲しいって言ってたなぁ(笑)