吉野寿

※このインタビューは2006年に行われたものです。

イースタンユースでの活動に加えて最近ではワンマンライブも敢行し、その詩的な歌詞とエモーショナルなサウンドで「ニッポンのパンク」を体現し続ける吉野寿氏。彼の作品は、文語調から口語、怒涛から繊細まで幅広い表現で感情をゆさぶり、在野での活動こそが自分のアイデンティティであることを証明する。その吉野氏が、デビュー前から愛用し続けるヤマハSG-1000。なぜこのギターでなければダメなのか?どこが吉野氏をそれほどまでに惹きつけるのか?モデルチェンジ直後のNewSG-1000と比較しながら、その理由を伺った。

俺の場合高音域は必要 さらにボトムが“ドーン”と出てほしい

すでに新しい SG-1000 をライブで使用されたそうですが、今までメインに使っていたモデルとの違いはありましたか?

吉野: そうですね。リハでちょっと使って良さそうだったんで本番でもそのまま使ってみたんですが、まずボトムがより強いっていう印象がありましたね。これまでのモデルでコードとか弾いたときに、高音は結構出るんですけど、低音域と高音域の真ん中くらいというか、もうちょっとボトムの音がドーンと出てほしいなって思う時はあったワケです。それが、すごくよく出るという感じでしたね。高音域がモコモコしないでクリアに出ながら、低音域もちょっと厚みが出たっていう印象だったんですよ。

よく低音の太いギターだと高音が出ないとか、上が出るタイプだとその逆とか言われますよね?

吉野: そうなんですよね。俺の場合、高音域はマストなんですよ、絶対必要。さらに開放弦でコードを弾くことが多いので、もうちょっとドシンとした音が出たらなって思うんですよね。で、これまではアンプで色々やったりしてたんですけど...。以前のインタビューでは「アンプを 2 系統に分けたりしている」ということでしたよね。

吉野: そうです。フロントをフル 10 にしちゃうとすごく歪んでしまうので。もともと俺はエフェクターで歪ませる方なんで、フロントは抑えてるんですよね。そうすると、バランスが難しかったんですけど、新しいモデルではその足りないところがすんなり補われているっていうか...。

●イースタンユース
吉野寿 (G、Vo)、田森篤哉 (Ds)、二宮友和 (B、Cho) による 3 ピースバンド。怒涛のパワーと疾走感、そして時折見せる美しいメロディが絶妙のバランスを生む。日本的でありながら海外のファンも多く、国内はもとより全米ツアーも精力的に行っている。

それは今までのセッティングにつないだ状態で?

吉野: 同じですね。他のギターと同じセットでやったときに、よりヌケがいいというか、相対的に馬力があるっていうか。ま、俺の SG-1000 が使い込んでくたびれてきているからかも (笑) 枯れてきてるって言えるのかもしれないけど。これまで使っていた SG-1000 は、「ライブの時に手が当たる」という理由で、ピックアップセレクターを外していましたよね? それは今回も同じですか?

吉野: そうです。最初、リハーサルに持ってきてもらった時は付いていたんですけど、すぐ取ってもらいました (笑)

普通はここに手が当たることはないと思うんですけどね (笑)

吉野: 色々工夫していろんなものを被せたりしたんですけど、どうしてもライブだと引っかかってしまうんですよ (笑)

さきほどの「新しい SG-1000 は音が太い」という部分をもう少し詳しく教えてほしいのですが、たとえば「EQ でブーストしたような感じ」とか、または「サウンドのキャラクターとして低音の存在感が強くなった」とか、そういった違いはありますか?

吉野: 基本的には一緒、同じ系統ですね。SG-2000 でも SG-3000 でもなくて、SG-1000 の音なんですよ。リアをシングルにした時には高音が出るんだけれど、プラス 5 弦 6 弦あたりの太さがよりクリアに抜けて出てくるっていうか、そういう印象です。だから全体的にエッジがあるというか、そういうイメージですね。

それは低音がより下に広がったというイメージ? それとも低音が前に出てくるような感じですか?

吉野: どうでしょう? なんて言ったらいいのかな。全体的にこう (両手を上下に広げて) グッと広がってるっていうか。

eastern youth
『365歩のブルース』 2006.3.8 発売
¥2,857(税抜)
米国でもリリースされ 2006 年春には米国~日本でのツアーを敢行。
キングレコード

今までの SG-1000 の音がそのまま...。

吉野: そうですね。今までのが結構真ん中っぽかったのが、それがこう (上下に) 広がって行く感じ。「ジャーン」ってやったときに、それにプラス「ドーン」っていう音が入る。

なるほど。でもその広がり方とかは「ずっと SG-1000 を使っているギタリストだからこそ分かる」そういったレベルですか? それともライブに来たお客さんでも分かるぐらいでしょうか

吉野: コードの力強さっていうか、パワー感みたいなのは、客席でもちゃんと分かると思いますよ。

アンプに繋がない空音ではどうでしょうか?

吉野: あー、それはどうなんですかね。でも俺はクリーンの音もよく使うんですけど、クリーンな音ですでにそういう違いは分かります。

歪ませなくても?

吉野: そう。ローディーの人も一発で分かってましたよ。上の方 (ハイ・ポジション) でミュートしたフレーズとかもやるんですけれど、その辺でも力強くなってグッと出ますね。

なるほど。高音域で弾いても、ということですね。

吉野: そう。エッジのある音でもボトム感っていうのが出る。エッジがあるんだけど「グォーン」って低く出てくる、低域が抜けてくるような。

吉野さんのギターはピックアップセレクターを外しているので、フロントとリアのボリュームのバランスで音を作っていましたよね? 低音がそれだけ変わると、「今度はフロントを少し絞らないと」といったことにはなりませんか?

吉野: 今のところそこまではいかないですね。もうちょっと使っていくうちに少しずつ変えていこうかなと。この間使った感じでは、あまりミュートのリフとかにしない、開放弦を使って「ジャージャーン」っていう曲にはちょうど良い感じですね。

すると低音が太くなっても全然うるさくない?

吉野: そうですね。モコモコ感っていうのとは違う。

長く使っているうちに色々なことが起きて自分のモノになっていく

YAMAHA SG-1000
●メイプルトップ&マホガニーバックのボディにマホガニーネックをセットインした、ロック向きのSG。

ヤマハから新しい「IRA (イニシャル・レスポンス・アクセラレーション)」について説明はありましたか?

吉野: ああ、言ってました! 「出荷前にギターを振動させる」っていうやつですよね。「多分それでボトムが出るようになったと思います」って。本当にその通りでしたからね。まぁ、どうして木を揺らすとボトムが出るのか? ってことは俺にはまったくナゾなんですけどね。でも「じゃあ」って持って「ジャーン」と弾いてみたら実感できましたね。「前のと違う!」って。

さっき言っていたボトム成分以外にも何か違いが感じられましたか?

吉野: ん~、なんていうか、よりボディが鳴っている感じはしますね。それは、もしかすると俺がずっと使ってきたヤツ (最初に購入した SG-1000) が鳴らなくなってしまっていたのかもしれないんですが (笑) まぁ俺、SG-1000 を何本か持っているんですけど、1 本 1 本けっこう違うんですよね。重さも違うし。それがなぜかはナゾなんですけど。最初に自分で買ったヤツがダントツで重いんですけどね (笑) その次に来たモデルはすごく軽くて、新しい SG-1000 は真ん中くらいの重さかな。

吉野氏の要望により取り外されたピックアップセレクター。それ以外は市販モデルとまったく同じ仕様となっている。

その重さはどうですか?

吉野: 重い! すごく重い。「もっと軽けりゃな」って思う時ありますよ。持ち運びの時とか (笑) でもしょうがないですよね。そういうギターだから。

よりレンジが広がって低域も伸びたということですが、吉野さんとして「まだもう少しココが欲しい」という音的な要望はありますか?

吉野: いやぁ、もう SG-1000 の音に合わせて自分のセッティングも変えてきたから、逆に「もう変わらないでくれ!」っていう感じ (笑) もうこの新しい SG-1000 で良いなって。「これから買う人は良かったね。前よりもっと良くなってるよ!」って。

吉野氏がデビュー前から愛用する SG-1000、通称「1 号機」。ライブ時には、ピックアップセレクターを外した穴から汗が入り、ひっくり返すとしたたり落ちるほどだったという、百戦錬磨のまさしく愛機である。

じゃあ今後は新しい SG1000 がメインになると。

吉野: そう、でも長く使ってみないと分からないものですからね、ギターは。長く使っているうちに色々なことが起きて、それで自分のモノになっていく。そういうものなので、もうちょっと付き合ってみないと。

ネックの感触やフレットの感じが変わったりはしてないですか?

吉野: まったく同じですね。これが SG1000 ! っていう感じ。

さすがにもう熟成されて完成したギターなんですね。

吉野: 個人的にはそういうところは変わらないで欲しいですね。

1人でクラッシュやりたかった だからエレキじゃないとダメ

新しい SG シリーズで採用された IRA (イニシャル・レスポンス・アクセラレーション) は、完成品のギターに特定の振動を与えることでプレイヤーになじんだ響きを短期間で再現する技術。IRA に関する詳細はこちら

以前のインタビューで、「フロント P.U. とリア P.U. のボリュームのバランスでトーンをコントロールしている」と言っていましたが、最近でもその方法ですか?

吉野: 変わってませんね。SG-1000 は、ボリュームをフルにすると急に音が「ブワッ」と太くなって、それが良いんですよ。俺、プレイの合間に、歪み用のセッティングのままでボリュームだけ絞って「ペロペロ」と弾く時があるんですけど、その時の音も逆にちょうどいい細さの、暖かみのある音になるんですよ。これもいいんです。

フレットを有効長いっぱいに延長した「オーバーバインディングフレット」。弦落ちを防ぎ、チョーキングやビブラートをより確実にする。

「セレクターを外した穴から汗が入って、ライブのときに音が出なくなる」と言っていた初代の SG-1000 はまだ現役ですか?

吉野: バリバリですね。でも最近は逆さにすると水 (汗) が出てくるほど過酷なライヴはやってないですし、ギターの本数も増えたので、トラブルは減りましたね。前は 1 本だけで1 ステージやってましたから。

ライブ環境が良くなっても、ライブの内容自体は相変わらずパワフルですよね?

吉野: ええ。それは変わっていないはずですよ (笑)

アタックが強くブライトでパワフルなロック系サウンドを求めて開発された SG-1000 は、メイプルトップ&マホガニーネックのセットネック構造を採用している。

吉野さんの SG-1000 も本数が増えてきたわけですが、レコーディングでの使い分けは?

吉野: もうここ 1 ~ 2 年、レコーディングはほぼ 1 号機で録ってますね。あとまあ、キャラクターの違う音が欲しい時はヤマハのセミアコとかを使っています。ちょっと小さめなボディのヤツがあるんですけど。

2 号機がレコーディングに登場しないのは何か音が違うとか?

吉野: いや、もうほぼ一緒ですから音は。それでも 1 号機を使うのは、まぁなんか愛着があるから (笑) 俺と一緒にダメになってきたっていうか、俺と一緒に枯れてきたヤツなんでね。俺の身体と同じ湿気を含んできてるし。

楽器と人間の魂のつながり的な部分ですね。

吉野: もうボロボロなんですけど、それが良いんですよ。

新しい SG-1000 は今後のレコーディングには?

吉野: これは良いと思います。まだこれからですけどね。レコーディングはマイクを通すことで音が変わるので、単純に「普段弾いてて良いから」というのとは違うことがありますから。

最近はソロでのライブ活動も行っていますよね?

吉野: そうですね。バンドを中心に 1 人で録音したりライブをやったりしています。

ソロのときもアコースティックギターではなく?

吉野: エレキです。エレキギターじゃないと。けっこう昔からいるんですよ、1 人でパンクっていうのは。ビリー・ブラックとか。ああいう人みたいなのが良いんですよ。「バンドを組めなかった、メンバーいなかった」みたいな (笑) だって俺、1 人でクラッシュになりたかったんだもん。だからエレキじゃないとダメ。バンドとは別で色々考えていることがあるので、それをできる範囲で具現化していきたい。もちろんメインはあくまでバンドですけど。もともと "自分の中から湧き上がるもの" を自己表現しないとバラバラになってしまう... そんなことでバンドを始めたわけで、今はそこをもう一回しっかり見つめたいんですね。