第10回「THR」への想い

第10回「THR」への想い ギタリストのライフスタイルを変える新発想のデスクトップギターアンプ。
 
Profile
キム・ソンヨン
キム・ソンヨン

2004 年入社。ソフトウェアエンジニアとして、アレンジャーワークステーションや電子ピアノ、シンセサイザーの開発に携わる。2008年よりギター商品のソフトウェア開発を担当。
 
——THRシリーズは今までにないタイプのギターアンプですね。開発の経緯を教えてください。
ヤマハには「Fシリーズ」や「DGシリーズ」などギターアンプの名器の血統があります。その技術とノウハウを継承しつつ、ちょっと大きいテーマですが『現代のギタリストのためのギターアンプとはどうあるべきか』を考えてみたのがTHRシリーズです。たとえば、今、ギタリストはどこで一番ギターを弾いているかというと、たぶんパソコンの前だと思うんですよ。そこで「ギターアンプを床から机に上げてみる」ことをテーマにしました。そこから発想すると、サイズはコンパクトなほうがいいし、オーディオとしての高品位な音楽再生にも対応したい、さらにオーディオとギターの音を同時にミックスして再生できれば、もっと楽しめるな、など現代のギタリストのライフスタイルを考えながら、THRの仕様を固めていきました。

——THRにはどんな機能が搭載されているのでしょうか。
回路レベルでシミュレーションが行える「VCM」というヤマハ独自の最新テクノロジーを採用し、真空管アンプのサウンドをリアルに再現するアンプシミュレーターを搭載しています。このアンプシミュレーターはスゴイです。「なんとなくそれ風」ではなく、ギターアンプの真空管などをパーツレベルで解析し、挙動までも緻密にシミュレートするんですよ。ギターアンプの種類はCLEAN、CRUNCH、LEAD、BRIT HI、MODERNの5タイプを内蔵していて、それぞれの真空管アンプ独特のサウンドやレスポンスを忠実に再現しています。さらにTHR10にはベース用アンプ、エレアコ用アンプ、色づけのないフルフラットのチャンネルも内蔵しました。単三電池でのバッテリー駆動が可能ですので、自分の部屋だけでなくいろいろな場所に持ち出しての演奏もOKです! 評価のために多くのギタリストに弾いてもらいましたが、バックステージに置きたいとか、ツアーでホテルの部屋に置きたいとか、とにかく興味の強さがハンパじゃなかったですね。
——THRとパソコンとはどうつなげるのですか。
本体背面にあるUSB端子で接続します。USBオーディオ、つまりデジタルで音声を伝送しますので、アナログ接続より高品位なサウンドでオーディオが楽しめます。さらにAUX端子も搭載しているので、iPodやiPhoneなどのポータブルプレイヤーも簡単に接続できるんです。THRにはヤマハが長年AVコンポで練り上げたオーディオ機器のノウハウが全面的に投入されていて、オーディオとしても非常にグレードが高くiPodなどのスピーカーとしてもお勧めできます。さらにギタリストにとってたまらなく楽しいのは、自分が弾くギターのサウンドとオーディオの再生音源との混ざり具合がとても自然で、まるで一緒に弾いているように聞こえるところです。これはハイグレードなギターアンプとAVコンポが高いレベルで融合しているから可能なことで、ギターアンプもオーディオも自社で作っている、ヤマハならではのメリットが活かせたところだと思ってます。
——搭載されているエフェクターも素晴らしいクオリティですね。
モジュレーション系とディレイ/リバーブ系の2系統を搭載していますが、ヤマハのプロ用ミキサーに搭載されているものに匹敵するくらいのハイクオリティなエフェクターです。しかも、エフェクトはたった1つのノブでエフェクトの選択と効果の強さが調節可能です。ややこしいパラメーター操作は抜きにして、各エフェクターのいちばん美味しいところを直感的に操作できるように工夫しました。

——デザインも個性的でとてもカッコいいです。
THRはギターが好きなメンバーが集まって作ったのですが「どういうアンプがほしいか」を論議して掘り下げていったら「レトロ」というキーワードが出てきたんです。鉄板の色味もフロントグリルの形状も「レトロ」という観点から選んでいきました。ちょっと昔のラジオみたいな感じでしょ? 鉄のハンドルもこだわりです。最初に試作が上がってきたときには「測定器?」って周りの人から言われました(笑)。
——デザインで特にこだわった点は?
なんといっても真空管を摸してオレンジに光るイルミネーション「バーチャル・チューブ・イルミネーション」です! オーディオ的な視点では全く意味のないところですが、ギタリストとしては「絶対に譲れない」と(笑)。これ、電源を投入するとジワーっと時間をかけて明るくなるように工夫してるんですよ。そこがまたギター好きな人たちに大ウケしました。やっぱギタリストは大好きなんですよ、こういう真空管アンプ的なニュアンスが。ちなみに暗いところで光らせるとグリルの影が床に映って幾何学的な模様になるんです。これは設計者としては「想定外」にカッコ良かった点でした。

——開発で苦労した点はどんなところですか。
THRはフルレンジのスピーカーを2発搭載していますが、ギターアンプでもありオーディオでもあるという、音に対する考え方が対極的ともいえる要素を同じスピーカーで両立しなくてはならなかったので、スピーカーのチューニングには苦労しましたね。通常のギターアンプとは違う帯域の低音が出すぎたり、ハウリングのポイントがギタリスト的に"美味しい"ところではなかったりして。そのあたりは実際にギターでアンプを鳴らしながら丹念に音作りをしていきました。
——開発を通じて楽しかった思い出は?
開発の過程で国内や海外のトップギタリストの方々に試奏してもらって感想を聞く機会がありました。みんなこのアンプを見たら大変喜んでくれて、夢中になって弾いてくれたことや、そんな素晴らしいギタリストたちと一緒に仕事ができて良かったと思っています。

——キムさんのギター歴について聴かせていただけますか。
先輩に借りてギターを弾き始めたのが高校三年の頃です。ですから始めたのはちょっと遅めかもしれません。大学では軽音サークルに入って、そこではもうギター一筋でした。主にヘヴィメタルを弾いていました。ヤマハに入ったのもギターに関わる仕事がしたいと思ったからです。
——ギターは現在もよく弾いているのですか。
バンドをやっています。主にオリジナルハードロックを演奏しているバンドです。コピーバンドをやったりもしますね。カントリーからヘヴィメタルまで、いろいろです(笑)。

——じゃ会社でギター、家でもギターですね。
それが、家だとなかなか落ち着いてギターが弾けないんですよ。ギターを弾いていると2歳になった子どもがヨチヨチ寄ってきて、弦を引っ張ったりアームを回したり、いろんなイタズラするものですから(笑)。そんな理由もあって最近は会社で弾く時間のほうが圧倒的に長かったですね。音作りしてる頃は、半年ぐらい毎日ずっとギター弾いていました。おかげでギターが少し上手くなりました(笑)。

——最後にTHRについて読者の方々に一言おねがいします
デザインもインパクトがありますが、このアンプの本当の良さはサウンドなので、実際に弾いて鳴らしてもらいたいです。ぜひ楽器屋さんでサウンドクオリティを確認してください。もしお買い上げいただいたら、ぜひ自慢しまくって、お友達にも弾かせてあげてほしいと思います(笑)。

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Editor's Comment
完全に一目惚れしました。初めて逢ったその日から『ずっと好きだったんだぜ』という感じ。机に向かってMP3の音源を再生したり動画サイトでライブを見ながらアンプに通さずにエレキをペチペチ弾いていたオヤジギタリストにとってはまさに福音!しかも『気絶するほど悩ましい』このレトロなデザイン。電源を入れるとジワっと光るあたり涙モノです。で、このサウンドクオリティ!!何時間でも弾いていたくなりました。とりあえず机の上のスペース空けておきます。