第11回「Aシリーズ」への想い

第11回「Aシリーズ」への想い アコースティックギターの要素を再構築し、コンテンポラリーで「使える」ギターに。
 
Profile
丹原嘉彦
丹原嘉彦

2003 年入社以来、アコースティックギターの設計・開発を担当。ARE搭載モデルや、SRT搭載エレクトリック・アコースティックギター等の設計・開発をモデル主務者として手がけた。2011年よりヤマハアコースティックギター全般の商品企画を担当。
 
——ヤマハのアコースティックギターの新しいシリーズは久しぶりですね。
CPX(1995)以来なので約16年ぶりです。ヤマハにはLシリーズやFGシリーズなどのストレートなアコースティックギターと、エレクトリック・アコースティックギター専用設計のAPX/CPXシリーズという2つの流れがあるのですが、Aシリーズは、その中間の領域にある『コンテンポラリーなアコースティックギター』を目指しています。Aシリーズの広告などのキャッチコピーは「Look, Feel, Sound」としましたが、Lookはルックス=デザイン、Feelは演奏性、Soundはピックアップを含めた音色を意味しています。これって、実はギターの要素の全てなんですよ。いわばAシリーズは、アコースティックギターの全ての要素を再構築して、現代のミュージックシーンの方向性にフィットするように練り上げたギターなんです。

——「コンテンポラリーなギター」とは具体的に言うと?
以前のアコースティックギターはネックが太く、弦も太めのミディアムゲージを張っていました。でも今のトレンドはネックは細めで弦が押さえやすく、弦高が低め、弦も細めのライトゲージが主流です。Aシリーズもその流れを意識して、細めのネックで押弦がしやすく、初心者の方でも、エレキからの持ち換えでも違和感なく弾けるような演奏性を実現しました。またデザイン面でも豪華なインレイを入れ込む方向性ではなく、シンプルで洗練されたアプローチで現代的な高級感を出すようにしています。

——Aシリーズのラインナップを教えてください。
Aシリーズにはオール単板の「A3」とサイドバックがラミネートの「A1」の2グレードがあります。ボディ形状はそれぞれに大型のトラッドウエスタンカッタウェイとやや小振りなフォークカッタウェイを用意しており、プレイスタイルやサウンドで選べます。さらにA3グレードはサイドバックの素材が異なるMとRの2種類がラインナップしています。Mはマホガニー、Rがローズウッドの略なんですが、マホガニーは柔らかいサウンドでボディ全体が鳴る感じでサスティンは比較的短めです。一方ローズウッドはサウンドが重厚でタイトな響き。こちらはサスティンが長めです。
  A3R AC3R A3M AC3M A1M AC1M
胴型 トラッドウエスタン
カッタウェイ
フォークカッタウェイ トラッドウエスタン
カッタウェイ
フォークカッタウェイ トラッドウエスタン
カッタウェイ
フォークカッタウェイ
表板 シトカスプルース単板 シトカスプルース単板 シトカスプルース単板 シトカスプルース単板 シトカスプルース単板 シトカスプルース単板
側・裏板 ローズウッド単板 ローズウッド単板 マホガニー単板 マホガニー単板 マホガニー マホガニー
プリアンプ SYSTEM-63 SYSTEM-63 SYSTEM-63 SYSTEM-63 SYSTEM-66 SYSTEM-66
——大きな特長であるネックについて聞かせてください。
ネック幅は今までと同じですが、ネックの厚みが従来のギターより薄くなっています。通常のネックはボディと接合する根本に向かってどんどん厚くなっていきますが、Aシリーズはほとんど厚みが変わりません。ほぼ真っ直ぐに感じるんじゃないでしょうか。またネックのフィニッシュも今までのような鏡面仕上げではなく、木の質感を活かした、薄めの塗装で仕上げました。ネックの握り心地についてはアメリカの音楽学校の学生さんを中心に、多くの方にブラインドテストで数々の有名ギターのネックと比べてもらいましたが、Aシリーズの評価がとても高かったので、自信を持っています。
——指板のエッジにも工夫があると聞きました。
指板の両端のエッジを丸める仕様にしました。かなり内側まで丸めていますが、これはネックをグッと握り込んだ時に手が痛くないように配慮したもので、ヤマハのアコースティックギターとしては初めての試みです。弦高も通常より低い設定になっているので、弦がかなり押さえやすくなっています。さらにブリッジ付近の弦の間隔を、通常のヤマハのアコースティックギターよりも少し広くしました。アルペジオなど指弾きをした時に弦の間に指が入りやすいようにしたんです。1弦から6弦までの幅でほんの数mmの違いなので微妙な差に思えますが、ギタリストの右手はものすごく繊細なので、弾くときの感触がかなり違ってきます。
——ピックアップも標準搭載されています。
コンテンポラリーという意味では、今やギターにピックアップが載っているのは当然だと思います。両グレードともピックアップを搭載していますが、特に注目していただきたいのが、A3に搭載されている「SRT」です。SRTは実際にレコーディングスタジオでトッププロエンジニアによるレコーディングを行ってサウンド作りを行いますが、SRT搭載のA3シリーズはボディサイズ、サイドバックの素材が異なる4つのモデルをそれぞれアメリカで実際に録音し、それぞれの録音ソースを基にしたAシリーズ専用のデータをプリアンプに反映しています。トッププロから圧倒的に高い評価を得ているSRTがこの価格帯で使えるのは、かなりコストパフォーマンスに優れていると思います。
——デザインもシンプルで洗練された印象です。
従来のデザインの常識にとらわれず、シンプルで高級感あるデザインを目指しました。ヘッドも普通のギターならインレイが入りますがシンプルにロゴだけにしましたし、ボディのバインディングも派手な貝ではなくオーガニックで高級感のある木象嵌を採用しています。
——その他、細かい点でこだわったところはありますか。
ピックガードですね。通常のヤマハのアコースティックギターのピックガード形状だと、どうしてもLやFGのイメージが強すぎると思い、新しいデザインを起こしました。ただ全く新しいわけではなく1970年代にトップアーティストに愛用された「N1000」のピックガードデザインをモチーフにして、存在感のある新しい形状をデザインしました。もう一つはラベルです。ホールの中にあるので一見ラベルが黒に見えますが、実はインディゴブルーという深い藍色になっています。いわゆるジーンズの色なんですけど、シンプルだけど「穿き込む=弾き込む」と味が出る、そんなギターになってほしいと思ってこの色を選びました。それから品番名にもこだわりました。ギターの世界では何十年もギタリストに愛されている歴史のあるモデルがありますが、どれも名前がシンプルなんです。ですからAシリーズもこれから長く歴史を重ねるモデルになってほしいという願いを込めて、できるだけシンプルな品番名をつけました。
——丹原さんは弾き語りを中心とした演奏活動をしていると聞いていますが、最近の活動はいかがですか。
ライブに加えて、最近は自作曲の録音を始めました。ライブ会場で配れるような10曲入りぐらいのオリジナルCDが作りたいと思ったんです。曲はあるんですが、録音は始めたばかりで、まだ弾き語りしたものを、ちょこちょこ録音してみているところです。いずれパソコンに取り込んでベースやドラムを入れたいなと思っています。

——音楽以外の趣味は?
実は最近、バイクに乗りたいと思ってるんです。二輪免許は学生時代に取得していたんですが、今まで原付しか乗っていなくて……。今はどこに乗りに行こうか、ワクワクしながら考えているところです。

——最後にAシリーズをどういう風に弾いてもらいたいと思いますか。
このギターは家に飾って鑑賞するギターではないので、家でもライブでもどんどん使ってもらって、弾き込んでもらいたいですね。ガンガン弾いて、ボディに傷がついて、それがまたいい味になるギターだと思うんですよ。それとボディのサイズやサイドバックの素材の違いで好みのサウンドが選べるのもAシリーズならではです。ぜひ、楽しく迷ってほしいですね。個人的にはマホガニーのサイドバックで小振りなサイズが好みです。

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新コンセプトアンプ「THR」
華美な装飾を避けたルックス、ネックのフィーリングへのこだわり、オールソリッドにSRTシステム(A3シリーズ)の優れたサウンド等ギタリストに弾きこんで欲しい実用派仕様のエレクトリックアコースティックギター「Aシリーズ」12月1日新発売!!
 
Editor's Comment
LシリーズでもAPXでもない、新しいヤマハのアコースティックギターは、とても軽やかで現代的。いい意味でヤマハらしさを裏切るイメージの顔立ちでした。特にピックガードがすっごくカッコイイです。実際にこのギターを弾いてみると、高音部のネックの細さに驚かされます。ハイポジションでコードを弾いても、アレ、こんなに押さえやすかったっけ思うほど、弾きやすいです。それとA3にはSRTピックアップがついたのも大きいですね。トップギタリストから絶賛されているこのシステムが載って、オール単板でお手頃価格。これからアコギを買う方は幸せです! もちろん気軽にライブハウスやストリートでガンガン弾ける2台めのアコギとしてもベストマッチのギターです。私のまわりでも「買いたい!」というギタリストが