第12回「Pacificaシリーズ」への想い

第12回「Pacificaシリーズ」への想い Pacificaの原点に立ち返った、22年目の新たな挑戦。
 
Profile
山城隆
山城隆

1998年入社。アンプ、エフェクターのDGシリーズ、STOMPシリーズ、BBTシリーズの設計開発・企画を担当。2005年よりエレキギターの設計に携わり、2008年よりエレキギター全般の商品プロデュースを担当している。
 
——Pacificaは長い歴史を持つモデルですね。
登場したのが1990年ですから、すでに22年間続いているモデルです。ヤマハのギターでは初めてアメリカの拠点である当時のYGD(Yamaha Guitar Development)で企画・開発されました。それまでのヤマハのギターはすべて日本国内で企画・開発・設計されていたのですが、もっとグローバルな発想でギターを開発する必要があるという考えから、アメリカやヨーロッパの拠点でギターの企画・開発が行われました。Pacificaはそのうちの一つでした。

——Pacificaはどんなコンセプトで作られたのでしょうか。
YGDは当時ノース・ハリウッドにありました。ノース・ハリウッドはスタジオミュージシャンが多い土地柄で、彼らが好んでいたのはレコーディングスタジオでどんな音楽にも対応できるオールマイティでクオリティの高いギター、「仕事の相棒」というイメージのギターでした。そんな彼らがよく使っていたのがオーダーに応じて1台1台ギターを製作する工房で作られる「カスタムショップ系」と呼ばれるギターです。具体的にはボルトオンタイプで、いろんな音が出せ、どんな音楽にでも対応できる演奏性の高いギター。そんな彼らのニーズに対応したのがPacificaでした。
——今回のPacificaのニューモデルはいままでにないイメージです。
Pacificaは登場以来ずっと基本的なデザインを変えてきませんでした。フロントとミドルにシングル、リアにハムバッカーという「SSH」のピックアップ構成も、多くのモデルで踏襲してきました。しかし今回Pacificaシリーズのラインナップを再構築する必要があったこともあり「今こそPacificaが新たに生まれ変わるべき時期だ」と考えて、大幅なモデルチェンジを行いました。

——モデルチェンジのコンセプトはどんなところでしょうか。
登場から22年を経て、当時の「カスタムショップ系」というコンセプトが、現在のギターシーンから多少ズレてきたかもしれない、という思いがありました。ですからPacificaの原点に立ち返り、そのコンセプトを最先端へとアップデートする必要があると考えました。たとえば現在のカスタムショップ系ギターは当時よりずっとトラディショナルな仕様が多くなっていますし、ショップごとの個性も強く打ち出しています。そういった要素を新しいPacificaに取り込みたいと思いました。
それともう一点は、ヤマハが得意とする「量産性」を活かすことです。カスタムショップで作られているようなクオリティの高いギターをユーザーが購入しやすい価格で提供するということも、今回のモデルチェンジで目指したことの一つでした。
——具体的にモデルチェンジで変わった点を教えてください。
まず大きい点としては、Pacificaのロゴが新しくなりました。以前は筆記体のロゴでしたが、このモデルからモダンで読みやすいロゴに変わっています。また、ヘッド先端に入っている音叉マークは海外から「クール!」と非常に高く評価されています。
——ニューモデル611HFMと510Vはどちらもピックアップ構成が思い切ったものになっていますね。
611HFMはP-90とハムバッカー、510Vはリアにピックアップが1発なので、いままでのPacificaのイメージとはかなり違うと思います。このアイディアは実はイギリス人スタッフからの声でした。確かに思い切った仕様ではありますが「Pacificaが新しくなる」という宣言の意味を込めて、あえて他のギターとは違った際立った個性を持たせたようと思いました。

PACIFICA611HFM
希望小売価格¥71,000(税抜)

PACIFICA510V
希望小売価格¥59,000(税抜)

PACIFICA311H
希望小売価格¥47,000(税抜)
——他にはどんな点が変わりましたか。
611HFMと510Vの共通スペックとしては、ペグがGrover製のLockingチューナーになりました。またナット、テンションピン(弦押さえ)には音響特性が象牙に近く、サウンドが豊かでチューニングの狂いが少ないGraphTech社製のBlack TUSQを採用しています。ネックも従来はサラサラした手触りのサテン仕上げでしたが、今回はグリップ感があるトラディショナルなグロスティンテッド塗装(着色塗装)にしています。いずれも、現在のカスタムショップ系ギター的なスペックといえると思います。
——PACIFICA611HFMの特徴について教えてください。
まずはピックアップ構成ですね。フロントはセイモア・ダンカン製のP90タイプの「SP90-1」です。P90の魅力は、キレがあるけど音が太い。そこがシングルとの違いです。「P90っていいよね」という声はよく聞くのですが、実際にP90が載っているギターって意外と少ないんですよ。ですから「P90が載った使えるギター」は存在意義があると思います。
リアは同じくダンカンの「Custom5」というハムバッカーです。ビンテージ系の音色ですが出力が大きめで、カバードタイプです。リアのCustom5はコイルタップができ、ボリュームのプッシュ・プルスイッチでシングルコイルの音も出せますので、実は見た目よりも相当キレのある音が出ます。ピックアップセレクターをセンターにしてP90+リアのシングルにすると、ファンクギターにピッタリのエッジが効いたサウンドになります。
それからブリッジですが、このモデルは敢えてアームのないハードテイル仕様にしています。これも今までのPacificaにはない方向性です。ハードテイルはボディの音を確実に拾えるので音質的にはより木材の響きのある豊かなサウンドになります。ブリッジの駒には弦が切れにくいGraphTech社製のBlack TUSQが使われています。
——もう一方の PACIFICA510Vの特徴について教えてください。
510Vもリアにピックアップ1発のみ、というかなり思い切ったピックアップレイアウトになっています。セイモア・ダンカンの「P-Rails」を載せていますが、とてもユニークなピックアップで、1台でP90、レールシングル、ハムバッカーの3種類の音を出すことができます。今までのリア1発のギターは「この音だけで勝負」という不器用なイメージでしたが、510VはP-Rails の持つ機能のおかげで、見た目よりもずっとバリエーション豊かなサウンドが出せるようになっています。ぜひそのギャップを試奏して味わっていただきたいと思います。ちなみに510VのP-RailsはPacificaに最適化された専用モデルになっています。ブリッジはWilkinson製ですが、ビンテージテイストのある6点止めのタイプを搭載しています。
——山城さんが新しいPacificaで曲を弾くとしたら、どんな音楽がいいですか。
611HFMなら渋いブルースを弾いてみたいですね。それも土臭いブルースより、ちょっとコンテンポラリーな感じのものが似合う気がします。510Vだったらやはりハードなギターがいいでしょうね。
——最後に新しいPacificaについて、読者へのメッセージをお願いします。
Pacificaの本質は「革新性」だと思います。新しいモデルはPacificaの革新性をアップデートすることで、今までのPacificaのイメージを打ち破るような、新たな個性を持ちました。ただし見た目よりも多彩な音が出せ、いろんな音楽に対応できる点が、Pacificaの遺伝子をしっかり継承している点だと思います。ぜひ店頭で新しいPacificaのサウンドを体感していただきたいと思います。
 
Editor's Comment

どちらもギターもPacificaなのに「ピックアップが変わるだけでこんなにイメージが変わるのか!」とこの2台を見て、正直驚きました。611HFMはP90が付いていて、アームのないハードテイル。この仕様は、かなりギター好きの心をくすぐります。こういう個性的なギターは、ギターを何本も持っていても、ついもう1本ほしくなってしまいます。510Vは潔いリア一発なのに、P-Railsという凄腕・技アリのピックアップのお陰で、見かけを裏切るクレバーさ。弾いてみてこのギャップにビックリしました。スポーツ一筋のようで、実は勉強もバリバリにできる感じ?ぜひ実際に試奏していただきたい2台です。