武庫川女子大学附属中学・高等学校 久家亮市先生
バンド紹介をお願い致します。
私達の学校武庫川女子大学附属中学校・高等学校は、高校野球の聖地“甲子園球場”の南東に位置する清閑な住宅地にあります。正門を入った所には高さ45メートルの時計塔がそびえています。これは、学院の創立者公江喜市郎先生の「理想は高く」という考えの基に建てられたもので、構内のみならず近隣のどこからも見えるランドマークになっています。
創部は1989年で、それまでの鼓笛隊からマーチングバンド部に活動内容も名前も変わり、それ以来“Eins”(アインズ)という愛称で親しまれ現在に至っています。
この“Eins”とはドイツ語の「1」(ein)に「s」をつけて英語風に複数形にした造語で、「何事にも一番をめざす者たちが集まった仲間」を意味しています。
日頃は、「時を守り、場を清め、礼を尽くす」の三原則を揚げ、中学1年生から高校3年生まで6学年が毎日明るく楽しく心ひとつにして活動し、大会や本番にも常に全員で参加しています。部室に入った所には全員の名札がパート毎にボードに並べられ、登校時は「今日も一日頑張ります」、下校時には「今日も一日ありがとうございました」という気持ちで自分の名札を返すことが日課の一つになっています。また、部室の壁には上記のクラブ三原則の他に「壁はいつかドアになる」などの言葉や大切な心掛けを示す紙が至るところに貼られ、行事やメッセージその他連絡事項等を伝えるためのホワイトボードも置かれています。その他、「ぐんぐんEins」というタイトルの部内新聞を発行し、広報としてだけでなく部員の気運を高めたり気持ちをひとつにすることに役立っています。
大会におきましては、マーチングバンド全国大会に2001年から11年連続出場し、関西大会では、20年連続金賞を受賞し現在に至っています。その他、「ブラスエキスポ」「3000人の吹奏楽」など数々のイベントや地域の行事にも積極的に参加しています。
クラブ活動は運動部でも文化部でもただ技術を高め試合や大会に勝つことが大切なのではなく、その活動を通して人としての生き方や社会に出るために大切なことを学ぶ場所だと考えています。ですから、「音楽づくり」「ショーづくり」の前に「人間づくり」を土台に置きクラブ運営をしています。たとえば、練習場所であるグラウンドに入退場するたびに一礼をする(建物や教室の出入り、練習や本番で使用する会場に対しても同じ)ことや、目の前のゴミを見て見ぬふりをせずに拾うこと等を実践しています。このように礼を尽くすことにより人や物、場所に対して敬意を抱き感謝の気持ちを持てるようになり、やがては自立することにもつながります。また、マーチングをジグソーパズルにたとえ、何よりも「責任」が大切であるということを部員たちは自覚しています。部員一人ひとりはジグソーパズルの1ピースであり、一つでも欠けると決して作品にはなりません。
このような取り組みから、Einsの明るく爽やかな「笑顔」と「ショーマンシップ」が生まれるのです。これからも人間づくりを土台にして、一つでも多くの成長の種をみつけながら、皆さんの心に届くショーづくりを目指して頑張ります。
先生のプロフィール
1984年 大阪音楽大学音楽学部声楽科を卒業。
声楽を故 横田浩和、桑田陽子、リコーダーを故 西充、北山隆、神谷徹の各氏に、指揮法を斉田好男氏に師事。
大学卒業後、神戸市の公立中学校で15年間勤務。その間全国大会に導くなど、吹奏楽部の顧問としても活躍する傍ら、リコーダーを中心にアンサンブル活動を続ける。
1999年より、武庫川女子大学附属中学校・高等学校に勤務し、同マーチングバンド部を連続全国大会に導き現在に至る。
神戸ウインドアンサンブル音楽監督、西宮市高等学校吹奏楽連盟副理事長、兵庫県マーチングバンド協会副会長、日本マーチングバンド協会関西支部副支部長、高砂音楽家協会会長
マーチングとの出会いをお聞かせください。
今は武庫川女子大学附属中学校・高等学校ですが、その前は15年間神戸市の方の公立の中学校にいました。
元々はスポーツ系のクラブにずっと所属し、小学校は野球だったり高校の時はサッカー、大学の時は卓球と、何がしたいんかちょっとよく分かりませんが、色んなスポーツをやって自分のクラブの中身もスポーツだったんですけど、音楽の教師だという事で、初任校の5年間は吹奏楽部に入っておりまして実際には吹奏楽のみ、本当にコンサートバンドのみの活動しかやっておりませんでした。
その次の神戸市の中学校では、マーチングを顧問の先生がされていて、私はマーチングの事を全く知らずに入ったんですけど、2年目ぐらいまでは私がコンサートバンドの指揮をやり、そしてもう1人の先生がマーチングの指揮をやり、私は後ろで副指揮をやるというぐらいに本当にマーチングというものに自分が携わるという事は無かったんですけれども、出会いとすればその学校でマーチングをやっていたので自分の責務としてマーチングをやる事になりましたね。
その中学校に私が赴任して3年目に、メインでされてた先生と私と一緒にやって初めて全国大会に行ったんですけれども、そのあとその先生が出てしまいまして、私はそのままマーチングとコンサートバンドを引き継ぐという形なんですね。だから自分の学生時代にマーチングをしていたとか、今マーチングをやっていて大変失礼な言い方なんですが、自分からマーチングをやるという事は、もし2校目も吹奏楽しかやっていなかったら、もちろん絶対とは言いませんけどもマーチングはしていなかったもしれないですね。
指導をされる上で気を付けているポイントは何ですか?
出来るだけ否定をする言葉を使わないですね。あかん、無理、ダメじゃなくて、出来る!大丈夫!って、次は!と言って。やっぱりもう1回戻ってやるときに、次は絶対って思いながら、失敗せんとこうとかそういう事では無くて次はやろうっていう。
合奏も吹奏楽用とオーケストラ用と授業用とか関係なく常にいいものをと思って合奏しますので、私が例えば「もう少し音量上げて」とかコントロールをするようなことをあまり言わずに、「こんな風に吹いてみて」とか、「もう少し遠くへ」とか「ここはオレンジじゃなくて赤い色」とか感性を動かすような自分が演奏するときに「こうしなさい、ああしなさい」というコントロールをしたバランスでは無くて、常にこういうイメージ、こうやってやろうという様な子供の感性から出てくる音楽っていうものを大事にしようと思っています。
あとは色んなトレーナーが来られて初めて分かったことなんですけど、私は本番用の指揮とか練習用の指揮とかいうのは無いんですね。本番は練習の様に、練習は本番の様にという言葉だけではなくて、色んなバンドを指導されてる方が「先生は練習中も指揮棒を持って本番と同じように振られるんですね」と言われたことがあるんですよ。
本番用とか練習用とかいうのが自分の中ではありえないです。だから子供たちも常に、僕が「今そんな風に振った?」って「もし今のみんなの音を振るんやったらこんな風に振ってるけど、今僕はこんな風に振ったからみんなはこういう音が出てくるはずやねんけど」っていう感じで、いつもの練習通りに本番に舞台に上がるので、いつもと変わらないので、先生の指揮を見てたら安心して吹くというか、本番だけ違うっていうのは特に、マーチングで「行けー!」っていう声がいつもより大きいとかいうのはもちろんありますけども基本振りだしたらいつも通りなのでとにかく、それは生活もそうですし、普段からフロアの上は人間的な全ての総合的な力がそこに出るからと言っているので、人としてどうあるべきか、見えないところでどうあるべきか、というようなことも含めてなんですけども全てが本番の舞台に、全ての集大成がそこにあるのでただ単に練習をしてきた積み重ねとかそうではなくて、人としてどうあるべきかという事も含めて大事にしていくという事ですね。自発的に自分からこうしよう、じゃないとマーチングは面白くないと思うので、なんでもそうだと思うんですけど、自分の心情としてそういう風に指導しています。
もし棒に音楽が無ければめちゃくちゃ飽きるじゃないですか。4拍子を100回何も考えんと振れっていうたら飽きますよね?でもここに音楽があるから指揮は飽きたことが無いですし、自分も子供の前でタクト振る以上は、この棒に音楽を全て注いでいるというか、だから指揮も楽しいです。
生徒にはジグソーパズルで例えていまして、とにかく1ピースでも無くなったら作品にならない、ジグソーパズルの絵にならない、一つ一つ同じようで絶対違う、無理やり埋め込んでも出来ないし、ピンチヒッターが効かないという事で、多分マーチングバンド部の子にマーチングから1番は何ですか?って聞くと「責任」って答えると思うんですよね。自分がそこにいなければいけない、ピンチヒッターが効かない、だから社会出て一番通用するということを、マーチングから教わると思います。
本当にピースの重みをしっかり感じながら、それが少なかろうが多かろうが、同じ重みとして感じてやってはいるんですけれども、そんなことを大事にしています。
ブラスに関して言うと生徒たちには「息を吸って、息を吐く。」という風に言っています。
息という漢字は心の上に自分が乗っていますよね。ですから「空気を吸って、空気を出すな」と。
音を出すのではなくて音楽を奏でるために、息を吸って息を吐けと。そんなことばっかり言っていますね。
そういうことの積み重ねなんです。音を練習するのは作業やから作業というのは繰り返すと飽きてくるから、もし今日の練習で自分が少しでも飽きたらそれは音を出す練習だけをしているから飽きるって事ですね。
練習場所や練習方法で工夫されていることはありますか?
練習場所は、部室があって、うちも一番多いときは154人部員がいました。
校舎をリニューアルした時に部室をきれいにしてもらい、入り口の下駄箱からものの30mほど行くとグラウンドがありまして、グラウンドにはマーチングが30×30寸法が取れる、練習ができるスペースがあります。もちろん、向こうからボールが飛んできたり・・・という事はありますが、スペースとしてはあります。
2001年から11年連続行かせて頂いたあと3年途切れまして2015年に改めて中編成になりました。
現在は結果的に外で音を出しながらの練習が出来なくなったんです。本番と同じ練習、イコール音を出しながら動くという練習がほとんど出来ていません。
音は合奏でやる、もしくは各部屋に分かれてパート練習、セッション練習をやる、そしてコンテをやるときは歌を歌いながらなど、楽器の音をとにかく出さないという事を強いられていまして、それは都市部の方もそうかなと思うんですけども、その中で子供たちはよくやってくれているなと思います。
なので体育館での練習っていうものが生徒達にはとても必要ですが、演奏しながら動くということが日頃出来てませんので、まず体育館行ったらそれに慣れることから始まります。でも水を得た魚というか演奏しながら動けることの幸せっていうものを感じられるという、別の意味で全てがマイナスではなくて、当たり前のことに対して感謝が出来るとかいうようなことを意識付けの中でやっているので、だから「今は外で音が出せない」のでじゃあどうすればいいのかということを必死になってやっているところですね。
練習の方法は、ベーシックはベーシックで毎日少しでも練習をしていますが、なかなか人数が今は小編成になってしまいましたが、それでも「その時にどう動く」じゃないですけど、じゃあその人数で何ができるかという事を考える、もちろん人数が多ければ多いほどコマ数も多いので色んな絵が描けますけども、少人数だからこそ出来ることもあるのかなぁと思ってはいます。
平日は火・木が7時間目までありますので、月・水・金が16時~完全下校の18時半、火・木が16時40分から18時半の時間で練習しています。土曜日もAとBが順番にありますが、A週が土曜日も授業がありましてB週は授業が無い、A週は13時半から17時半くらい。日曜日は9時から12時半ぐらいまでの少ない時間の中で練習しています。
高校生だけでなく中学生も入っているので、どちらかというと中学生を中心に練習が組まれています。
神戸市の学校は水曜日を必ず休みにしないといけないとか、朝練はしてはいけないとか、土日はどちらかを休みにしないといけない、練習をしても3時間以内とか割と厳しいですがある程度それに準じているところはありますね。
基本、土日は大会とか本番が無いときはどちらかを休みにしている事が最近は多いです。高校生だけだったら本番前に体育館練習で夜に練習されているところもあるかもしれませんが、うちは中学生がいるのでそれが出来ないです。
でも土日の昼間に体育館が取れるかっていうと全然取れませんので、本当に難しい中、グラウンドで歌を歌いながらやるので、歌が上手になるというか音程感が作れるっていうのと、歌でちゃんとハモれるようになりますね。
全部がマイナスではないというか、それはそれでプラスになる事はあるんですけど、吹奏感とか、パーカッションも常にミュートを付けてやりますので外でやるときは、ヘッドの跳ね返りであったりとか、そういった微妙なところのニュアンスが変わってきますよね。
だからこそやりがいとかマーチングの楽しさというものをいかに厳しい練習の中でやりがいに変えて味わわせるかというのが1番のポイントになってくると思いますね。
ヤマハの楽器のいいところをお聞かせください。
1本1本の完成度・質感が高いところですよね。
当たり外れが無いというか、1本1本に差が無いというところに技術力の高さというのをすごく感じます。
こちらからすれば当たり外れが多いと1番それが怖いので、ヤマハの楽器は信頼性があるというところですよね。
ヤマハはあのゴシック体のYAMAHAを見るとヤマハ!と思うので時代の流れで変えてほしくないなと思うんですよね。ヤマハのマークも絶対変えてほしくない。あれが長年ヤマハが積み重ねてきた信頼性のマークだと思うんですよね、あれを見ると安心ていうか。
ヤマハへの信頼性っていうのはヤマハだったら大丈夫っていうものがあるからこそ、勝手なお願いですが、ぜひここだけは譲れないというところは貫いてほしいなぁと思いますね。
これからマーチングを始める方、指導される方へメッセージをお願いいたします。
なかなか0からスタートするのはすごく敷居が高いと思いますが、まずはやっぱりいろんな人に手伝ってもらって協力をして、自分一人でやろうとするとすごく大変で結局やらないという事になってしまうので、身近なところからやれたら、子供たちの素顔とか表現をするというような吹奏楽だけでは見られない表情というものがあったり、達成感があったりしますので、色んな方の力を借りたり、ヤマハさんだったらトレーナーの力を借りるとかいう事で、自分が出来ないところをやろうとすると敷居が高くなりますのでまずは出来るところからやってみてもらえたらと思います。
体育大会や運動会でやったり、運動場を周回で歩くだけでも随分と違うと思いますし、隊列をそろえたりとか始め出来なかったことが出来るようになるという達成感もマーチングは目に見えるし、最近はiPadを使って今日の練習の動画を撮って家でフォーメーションを確認するという事が、昔はビデオを撮ってコードを繋いで次の日に教室に行って見せるというような事しかできなかったんですけど、今はすぐ見てみんなで共有してという事が出来るので、そういった意味では目に見えて出来るようになった、揃うようになったという風に子供たちが実感できると思います。
特に小学生なんかそうだと思います。「間隔が均等になったね」とか「右と左の足が揃ったね」とかというのを、だから見せるっていうこっちが指導してどうこう言うよりも、動画とかを使って子どもたちに出来るようになった実感を味わわせるという事になったら、子供たちから「もっとうまくなりたい」とか、「もっと揃うようになりたい」とか、「揃ったらきれい」と思えて、それが音楽にも結びついていくので、縦が揃うとこんなにきれい!ピッチが揃うとこんなに美しい!というような事にもつながっていくと思うので、『マーチング=動き』だけをやるんじゃなくて自分を表現するとかもちろん身体を使うという事もあるし、リズム感やテンポ感も出来ますし、やはりマーチングをやるという事で吹奏感が上がったりマーチングをやる事の意義というのを本当に実感できるので、そういう意味ではマーチングをやる意味というのは大きいと思いますね。
ですから子供たちに、揃ったらきれいとか目に見えて出来るようになったことが実感できるというのが1つの利点として活かせるところかなと思います。
1番はとにかく子供たちの達成感と素顔が見れるのが何よりも素晴らしいところかなと思いますね。