マーチングの効用

What'sマーチング?マーチングってなに?

最近、我が国にも世界各地でのバンドフェスティバルや各種の行事が数多く紹介されるようになり、その中にマーチング部門が設けられているのが目につきます。あまりマーチングが盛んとはいえないヨーロッパの国々でさえ、マーチングに目を向け始めています。何故、この様にマーチングへの関心が高まってきたのでしょうか。

指導者から見た効用

バンドの指導者にとってのマーチング活動の効用は、表面的な観点からのみ考えられてはならないと思います。
たとえば、マーチングが動きながら演奏するものである以上、演奏会等での静止した演奏にくらべ、音楽面でハンディを負うのは誰の目にも明らかであり、そのため指導者としては選曲にも神経を使い、より一層演奏効果を高めるためアレンジまでしてバンドの負担を軽くするよう気を配る必要があります。
海外のマーチング・ショーの中に、必ずと言って良いほどコンサート(停止演奏)が義務づけられているのもそのあたりを考慮したものでしょう。これらは一見マーチングの効用とは矛盾するかに思われます。
しかし、バンドの指導方法はただ一つに限られるものではありません。一年に一曲だけを深く突っ込んで指導することにより、様々な問題を学ばせることもできれば、逆に出来るだけ多くの曲に接しさせることで指導効果を高める方法もあります。そうした中で演奏技術をより一層高めより深く追求してゆくことは、アマチュアのバンドでもとても大切ではあるものの、それが全てではなく、それ以上に音楽に親しませ楽しさを教えることで、バンドから巣立った後も、何らかの形で音楽に楽しみを持ち続けられる人を育てることが要求されるのではないでしょうか。
マーチングは、そうした音楽指導にふさわしい一つの方法でもあるのです。
マイナス面も確かにありますが、それ以上にプラス面が数多く生まれてくる分野と言え、その効用については、指導者のバンドやマーチングに対する日頃の考え方により、評価が変わってくるでしょうが、指導のそうした考え方をバンドのメンバーに伝え、身につけて貰うにはマーチングは最もふさわしく、広い角度からの指導が出来る分野なのです。

外部から見た効用

一方、バンドの外部からマーチングの効用を考えてみると、マーチングには音楽的、動的要素など幅広い要素が含まれていることから、誰にでも気軽に楽しめ、親しみやすいことがあげられます。
又、発表の場から考えてみても、動きを含めた音楽の楽しさをより多くの人達に伝えられる効用があります。パレード等においてはバンドへの関心の有る無しにかかわらず、その場に居合わせた人々全てに音楽の喜びを分かち与えられるのです。
こうした喜びの分かち合いにおいて、外部から見たマーチングの効用は、そのままバンド自身から見た効用につながってきます。この事をもう少し考えてみましょう。

音楽と動きが調和する喜び

コンサートの時、指揮者はその曲想を伝えるために指揮棒に思いを表します。その時、指揮者は顔の表情で、時には全身で指揮棒だけで唄いあげられない思いを表現しようとします。又、歌を口ずさんでいるとなんとなく曲に合わせ、身体を動かしてみたい時があります。マーチングは、バンド全体が指揮棒であり、演奏者であり音楽なのです。その曲目にふさわしい動きが演奏と見事に調和されたとき、楽しさが感じられ、それが観客の人達に伝えられたときに喜びが生まれてきます。
スポーツにおいても、フィギュア・スケートの種目等では、音楽が流れ、それに合わせて演技が繰り広げられます。体操競技でも床運動などで同じことが言えます。演技だけでも素晴らしいが、バックに流れている音楽と動きとが一体となったときに、感動が生まれ、心の高まりを覚えるのです。
マーチング・バンドが楽器を持たずに、テープやレコードの音楽に合わせて動いたとしたらどうでしょう、それでも効果は同じように有るでしょうが、バンド・メンバーや指導者にとっての満足感はかなり違ってくるはずです。自分たちで演奏し、自分たちの音に合わせて動く ― そして、その動きが音楽と見事に一体となった時に初めて、バンド・メンバーと指導者におけるマーチングの効用が表れてくると言えるのではないでしょうか。

指導者に始まり、指導者に終わる

その効用も単にマーチングの華やかさのみを追ったり、曲の拍数だけ動きを付けたに過ぎないような、中身のないマーチングをしていたのでは到底期待できないでしょう。多くの効用は地道な練習の中から生まれてきます。そして指導者の考え方、指導方法によって効用も様々なものとなるでしょう。
たとえマーチングの指導要綱、練習方法、資料等がどんなに整備されていたとしても、そこに情熱のある指導者がいなくてはマーチングの効用は見つけられません。何にもまして、優れた指導者の出現がマーチングの効用に対するかまびすしい議論に終止符をうつものであることは間違いないでしょう。

2007 JAPAN BAND CLINIC(日本吹奏楽指導者クリニック)テキスト
マーチング講座I・II 山崎昌平:著より