YANCY×CP4 STAGE
シンガーソングライターとしての活動と並んで、関ジャニ∞、椿屋四重奏、一青窈、植村花菜、BONNIE PINK、アン・サリーなど、数多くのミュージシャンのサポートやプロデュースを行ってきたYANCY。バディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、ドクター・ジョンなど世界的アーティストとも共演を果たしながら、八代亜紀のミニアルバムも全曲サウンドプロデュースするなど、まさにその活躍は八面六臂! ヤマハのステージピアノはP250から愛用しているというYANCYに、CP4 STAGEについてインタビューした。
P250(2002年発売)から、10年以上ヤマハステージピアノを愛用していただいていますが、どんな風にCP4 STAGEを使っていますか?
ライブで、メインのピアノとして使っています。ライブ会場にはピアノがない場所も多いですし、グランドピアノがあったとしても、ライブでちゃんといい音を出すにはマイクを立てるとか、エンジニアの方の時間と労力がかかりますから、CP4 STAGEをピアノとして使うことが多いです。CP4 STAGEの感想をお聞かせください。
凄くいいですね。いちばん気に入っているのは、今回から新しく入ったCFXですね。最近はずっとこの音色をメインで使っています。CFXの音の印象はいかがですか?
鮮やかな音色なんですが、重みがあるんです。鮮やかと重み、この2つの要素は相反するものなんで、普通は同時にあることは少ないですが、CFXには両方を感じます。「鮮やかな音色」とは、どういう意味でしょうか。
具体的に言えば、弦が響いている感じがします。CFXはフォルテで弾いた時も、とてもピアノらしい音がします。他の機種では、強く弾くとちょっと歪むというか、少し音が暴れる感じがあったんです。CP4ではどのタッチでもとてもピアノらしい音だと思います。鍵盤が変わったのもあるんでしょうか。
鍵盤のタッチはとてもよいです。今までは強く弾くと自分が思っているより音が出過ぎてしまうことがありましたが、CP4 STAGEの鍵盤と音のレスポンスはとてもスムーズで自然です。 このあたりがピアノの難しいところだと思うんですね。本物のピアノだってソフトに弾いた時と強く弾いた時は、同じ楽器とは思えないぐらい全然音が違いますから。CP4 STAGEはそれが再現できていて、どのタッチでもとても自然で凄いと思います。音色としてCFXの使用頻度は高いですか?
かなり多いです。CFXは全体の7割ぐらいですかね。普通は曲やシーンによって音色を使い分ける人が多いと思うのですが、僕はバラードでも激しい曲でも同じ音色で弾くのが好きなんです。本物のピアノのように、1つの音色の中からどれだけいろんな音色が引き出せるか、タッチ次第でどこまで綺麗な音が出せるか、ということにトライするのが好きなので。だから僕にとって、CP4 STAGEは「CFXというひとつの楽器」、というイメージです。YANCYさんによるCFX音色のデモ演奏をお聴きください。
ヤマハステージピアノの定番音色であるCFIIISの音色はどんな時に使いますか。
ライブ会場によっては「CFXだとパワーがありすぎるな」と感じることがあるんですが、そんな時にはCFIIISを使います。
CFの音色はどんな点がいいと思いますか。
CFXが「鮮やかな音」だとしたら、CFは「シットリした落ちついた音」ですね。CFで特に素晴らしいのはバランスです。今までずっとヤマハステージピアノのメイン音色だっただけあって、完成度が高く、音のバランスがとてもいいと思います。使い勝手が凄くいいんです。ライブ会場ではいつもリハの時に本体の5バンドマスターEQを触りながら音を決めていくんですが、たまにCFXだとなかなか音が決まらない時があるんです。そういう時にCFを使うと、スッと決まったりします。
YANCYさんによるCFIII音色のデモ演奏をお聴きください。
エレピ音色はどうでしょうか。
音の好みで言えば、ローズの73(Rd I 73)が気に入ってます。CP4 STAGEにはいろんなビンテージのエレピ音色がプリセットされているので、本当に便利です。
ちなみにローズやウーリッツァなどのビンテージサウンドは、ビンテージっぽいフレーズや弾き方にこだわらないで使ったほうがいいと思います。最近の若い人って、ビンテージなんて知らないから新しい発想で、面白いことをしてて、とてもいいと思うんですよ。ローズの古い鍵盤ではなく、新しくて性能がいいCP4 STAGEの鍵盤で弾けるわけですから、そのメリットを活かしてほしいです。例えばファンキーな曲でエレピを弾くとしても、本物では出せないぐらいローを強調したり、本物のローズでは出ない音域を使ったり、古い鍵盤では反応しないぐらいの速いパッセージを使ってみたり。そういうことにトライすることで、新しい表現が可能になると思います。
YANCYさんによる Rd I 73 音色のデモ演奏をお聴きください。
CP4 STAGEならではの使いこなしがあれば、教えてください。
5バンドのマスターEQが使いやすいですね。5本のスライダーがパネル面にあるので、いつでも触れるのがいいと思います。ギターやドラムは楽器自体が生で鳴っているので、会場の響きかたの違いはあってもある程度同じような音が出ると思うんです。でも電子ピアノって音を出す時には必ずPAを通るので、PAや、会場の鳴りで、毎回音がかなり変わってしまいます。時には自分が思っているイメージと違う音になることもあるので「手元ですぐに補正できる」という意味でも、EQのスライダーが目の前に出ているのは助かります。
それとリバーブなどもスライダーでリアルタイム操作できるのも面白いと思います。僕はけっこうリバーブを演奏中に変えたりもするんですよ。フレーズを弾きながら、残響感を変えていくんです。フレーズを弾いているうちに音響系みたいにしたくなってリバーブをどんどん深くしたりとか。オルガンプレイヤーって演奏しながらドローバーを動かしていくじゃないですか。そんなイメージです。
こういう楽器の側からの提案って、ありがたいです。普通ならリバーブなんかだと、エディットの階層の下に入ってしまうのが当たり前なんですけど、スライダーでいじれるようにしてくれたから演奏中に動かしてみたくなるし、やってると「これ音響系になるじゃん」っていったアイディアが生まれてくる。目の前にスライダーがなかったらこういうプレイはしていないと思います。
YANCYさんによるリバーブのリアルタイムコントロール
ところでCP4 STAGEのいちばんのオススメポイントはなんでしょうか。
CP4 STAGEって、音や演奏性、そして機能もまったく妥協していないのに、とにかく「軽いよ、持ち運べるよ」というのが最大の売りだし魅力だと思うんです。今までキーボーディストはいつも運搬で苦労してきました。昔なら、エレピを積んでシンセを積んで、ハイエースがキーボードだけでいっぱいになるっていう時代もありましたから、もう夢のようです。CP4 STAGEなら、いいピアノの音が入っていて、エレピの音も入って、良い鍵盤で、それがソフトケースに入れて電車でも運べる。これは革命的ですよね。常に「クルマで運ばないと」って思っていたキーボーディストとにとっては革命的です。
キーボーディストは今まで本当に大変だったんですね。
大変でした。今までのステージピアノをハードケースに入れたら、一人だと「ちょっと持ち上げる程度」が限界。階段だと必ず誰かに手伝ってもらわないと危険で運べなかったんです。ところがCP4 STAGEならソフトケースで普通に一人で担いで上がれます。これは凄いことです。実は先日も大阪でライブがあったのですが、いつもならピアノをクルマで運んでもらったり、現地で調達するんです。でも今回はちょっと立て込んでいて楽器が用意できなかったので、CP4 STAGEをソフトケースに入れて新幹線で運んだんですよ。自分一人で。それで結局その日、普通にライブができました。これは感動でした。長い活動歴でも新幹線で楽器を持ち込んでライブするというのは初めてでした。いや、厳密にいうと二回目でした。ずっと前に電子ピアノを毛布にくるんで運んだことがあります。でも「何を運んでるんだ?」とおもいきり不審がられました。やっぱりソフトケースで運べるのが最高です(笑)。
YANCYさんの近況を教えてください。
自分の演奏に関してなんですが、僕は古い音楽が好きで、そこから学んだフレーズが自分のなかに溜まっていて、今まではそれを組み合わせることで自分を表現してきたんです。でも最近はそれを破壊したい、それを全部崩してみたい、と思うようになりました。曲を演奏するときも、今までなら「ここはこう弾こう」って考えていたんですけど、そういうアプローチではなく、子どもが何も考えずにバーっと弾いてしまったような感じの演奏に憧れています。
絵本作家の荒井良二さんという方がいて、昔から存じ上げているのですが、最近は親しくさせていただき、よくいっしょに飲んだりもしていたのですが、新井さんが「上手く描けちゃうのが怖い。こどもは僕より全然凄いですよ」って仰っていて、自分にとっての音楽でも同じことがいえるのかもしれない、と思ったりしています。だから、自分が作った曲でも、今までだったらフレーズを決めてやるところを、今は何も考えずに弾き始めて、音が不協和音になってもいいからどんどん弾き続ける、というようなことをしています。
それと同じようなことですが、近藤房之介さんとトリオ編成でツアーに行ったんですが、房之介さんにも「もっと破壊しろ」と言われました。たぶん予定調和でない瞬間に出た音のすごさや美しさのことを言われているのだと思います。今はまだ手探りですが、やり続けることで、また次のステップに行けるかな、という予感を持っています。
新しいプロジェクトの予定などはありますか。
YANCY'S MUSIC GUMBO STEWというプロジェクトがあります。僕は以前からニューオリンズの音楽が好きなんですが、ニューオリンズのピアノをニューオリンズのブラスバンドの中に入れてみたいと思っているんです。ニューオリンズでも、ブラスバンドの音楽とバンドの音楽ってけっこう別々なんですね。ドラムもバンドだと一人でセットを叩きますが、ブラスバンドだとバスドラムとスネアが違う人が叩くじゃないですか。だからリズムも違うんです。そのニューオリンズのバンドとブラスバンドの感じを行ったり来たりできるようなことをやりたいと思っています。
今、ご自宅兼スタジオを作られていると聞きました。
そうなんですよ。大工さんにお願いしつつ、自分も大工さんといっしょに家を作っています。自分で作ると、家の構造もよくわかります(笑)。実はスタジオがほしくて家を作っているようなものなんですよ。山を降りないとコンビニもないような場所なんですが、そういうところにスタジオがあって、そこでミュージシャンが集まってリラックスしながら音楽を作るのっていいなと思っているんです。不便なこともいっぱいあると思うんですけど、それだからこそ個性が強くなっていくわけです。ベースがいないからベースレスでバンドをやっていたら、他にないような個性のサウンドになったとか。今ってネットを通じて音楽の情報が多すぎて、何でも揃っている。でも僕はそれが逆に不幸だなと思っています。音楽の情報はもっと少なくていい。情報が少ないところで、ああでもない、こうでもない、ってやっているうちに出てきた音楽にこそ、価値があるんじゃないかな。今作っている自宅兼スタジオが、そういう音楽づくりの拠点になるといいなと思っています。それと今まではライブでのプレイヤーとしての活動が多かったのですが、今後の理想としては自宅スタジオも作るので、制作半分、演奏半分ぐらいのバランスにできるといいなと思っています。最後にCP4 STAGEに興味を持っている方にアドバイスをお願いします。
僕自身、今まで「ステージピアノは重い方が演奏性は優れている」といった、一種の思い込みがあったんです。鍵盤のアクションもある程度の重さがないと、ちゃんとした鍵盤アクションはできないはずだ、と。でもCP4 STAGEを弾いてみて、演奏性は重さに関係なかったことがよく分かりました。弾き心地がいい鍵盤で、この音で、この機能で、つまり今までのクオリティをキープしたまま、ソフトケースで運べる重さになったんです。しかも価格としても、以前より手が届きやすくなりました。アマチュアの方などで、重さがネックでステージピアノを断念していた方も多いと思うんですよ。みなさんに、ぜひお薦めしたいと思います。
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