reface開発ストーリー

 

reface開発ストーリー

MARCH 15, 2016 | Hamamatsu, Japan

コンパクトサイズながら、卓越した演奏性と本格的なサウンドでキーボーディストだけでなく、すべての音楽ファンから高い支持を得ているreface。この全く新しいコンセプトを持ったシンセサイザーは、どんな発想で、どんなプロセスで生まれてきたのだろうか。開発プロジェクトチームのメンバーに話を聞いた。

  • プロデュース 山田祐嗣
  • サウンド・デザイン 柏崎紘一
  • ソフトウェア・エンジニア 森田怜
  • プロダクト・デザイン 勝又良宏

サイドプロジェクトから始まったストーリー

refaceの開発は、どんなきっかけで始まったのですか。

柏崎:以前、社内で新規商品アイディアのブレストの機会があり、そのヒアリングに私が呼ばれました。そしてほかに面白いメンバーはいないかということだったので、山田さんと森田さんを呼びました。

山田:今までの業務とは違い、自分としては初めて一人称でアイディアを出せた機会でしたし、自分自身「ほしい」と思える楽器のアイディアが出てきました。

その時3人から出たアイディアはどんなものでしたか。

山田:当時は、「気軽なプチ本格楽器」と呼んでいましたが、「気軽だけど本格的なもの」、そして「音を作る楽しさ」といった、その後refaceの根幹となるアイディアはすでに会話の中で出てきていました。

そのアイディアからrefaceプロジェクトがはじまったのですか。

柏崎:我々は3人ともシンセとは別の電子楽器の開発を担当しておりましたが、このアイディアが面白かったので自主的にサイドプロジェクトとしてはじめました。

 

作ってみたら面白かった

まずどこから着手したのですか。

山田:まだぼんやりとしたイメージしかなかったので、とにかくアイディアをカタチにしたプロトタイプをつくっちゃおうと。というのも、我々のイメージする「気軽なプチ本格楽器」という価値が本当に面白いのかを検証したかったんです。

できあがったプロトタイプはどうでしたか。

柏崎: 最初にreface CSの原型となるプロトタイプを作り、自分たちで弾きながら相互評価したんですが、結構ハマりました。割り切った操作子で音作りするという考え方が楽しかった。

森田:そこで共感してくれそうな社内の人たちを集めて評価会をやったんですが、みんな長い間没頭してくれたので手応えを感じました。CSはプリセットを持っていないので、それぞれゼロから音作りをするんですが、人によって出てくる音が全然違うんですよ。そこが面白かったし、いろいろ気づきもありました。

プロトで検証できたのはどんなことでしたか。

山田:「気軽なプチ本格楽器」というコンセプトに対して我々自身が「いける!」という確信が持てたことが一番大きかったです。

コンセプトをカタチに

その次には何をしたのですか。

森田:プロトで基本的なコンセプトが固まってきたので、デザイン研究所にいた僕の同期の仲間に「話だけでも聞いてもらえない?」ってメールを投げてみました。

勝又:ある日デザイン研の部下が「こんなメールが来たんですけど」って言ってきたんです。それが森田さんからのメールでした。読んでみたら、これはめちゃめちゃ面白そうだと。で、早速話を聞きに行きました。そしたら例のプロトがあって触ったら楽しいし、やろうとしていることもユニークで、なによりわかりやすかった。ぜひやりたいと思いました。

山田:製品がまだカタチになる前の時点でデザイナーに入ってほしかったのは、コンセプトメイキングからrefaceに関わってもらいたかったから。発泡スチロールを削ったブルーモックを見ながら「気軽なサイズって何?」というところから会議に参加してもらいました。定期的に何度も集まり最終的にrefaceのデザインモックアップができあがりました。イメージが形になるプロセスは毎回すごく楽しみでした。

デザインモックアップの次はどんなステップに進んだのですか。

山田:音も出て、デザインも見えてきたので、今度はその意匠を含んだカタチで本当に動くものが必要だと思いました。いわゆるワーキング・プロトです。この頃から、社内を巻き込む活動をはじめました。

どんなことをしたのですか。

柏崎:この頃は、ことあるごとに社内でrefaceをプレゼンしました。各国からヤマハスタッフが集まるマーケティング会議でもプレゼンしましたが、その時の反応は凄かったですね。最初は普通のプレゼンみたいにスクリーンにスライドを映しながらコンセプトを語っていたんですが、途中で「つまり、これです」ってデザインモックの実物を見せたんです。そうしたら悲鳴みたいな声が上がってすごく盛りがったんですよ。そんな反応も、私たちの自信になりました。

世界一弾けるミニ鍵盤を!

そしてやっとゴーサインがでるわけですね。

山田:ここまでやれば、製品の魅力はわかってもらえます。refaceもここからは「製品化の検討」というフェーズに入りました。

製品化のプロセスで一番大変だったのは?

山田:たくさんありましたが、最難関はなんといってもミニ鍵盤の新規開発でした

柏崎:「小さいけど本格的」というrefaceのコンセプトを体現するためには、ミニ鍵盤の精度は大変重要でした。触った瞬間に鍵盤が「残念」だと、第一印象で「所詮はオモチャ」と思われてしまいます。ですからrefaceには「世界一弾けるミニ鍵盤」が必要だと考えました。

森田:世の中にあるいろんなミニ鍵盤を集めて弾いてみると、やっぱりいい物と悪いものがありました。僕は鍵盤が弾けないのですが、それでも違いはすぐにわかりました。

山田:鍵盤の新規開発には時間がかかることはわかっていましたので、開発のかなり初期の段階からミニ鍵盤については研究していました。一般にミニ鍵盤というと手が小さい子供のための教育楽器というイメージがあります。でもミニ鍵盤をライブで使っているアーティストはたくさんいますし、ピアニカのプロ奏者もたくさんいます。私たちはrefaceのミニ鍵盤を「新しいインターフェース」として提案できるレベルにしたいと思いました。

従来のミニ鍵盤にはどんな問題があるのですか。

山田:まず弾き心地です。従来のミニ鍵盤だとタッチの最初は軽く、押せば押すほど重くなります。逆にFSX鍵盤に代表されるような「ヌケがいい鍵盤」と言われる鍵盤は弾くとそのままストンと落ちるような感覚です。それとミニ鍵盤のもうひとつの問題は「和音が弾けない」こと。白鍵の奥が弾きにくいのです。

そういう問題はどうやってクリアしたのですか。

山田:これは鍵盤開発チームの努力なくしては語れませんがゼロから一緒に研究することから始めました。そして、これまでの鍵盤開発チームが培ってきたノウハウを集結させ、試作と評価を繰り返しました。また、形状についてはあえてピアノ鍵盤形状やオルガン鍵盤形状にとらわれずrefaceのデザインを考慮し、デザイナーを交えてゼロベースで考えました。その結果、演奏性やデザインの観点からrefaceの鍵盤は今までのミニ鍵盤より長くなっていますし、鍵盤の形状もグリッサンドを考慮して鍵盤上面はカマボコのように少し丸みを持たせています。

理想から現実へ

製品化という局面となると、やはり今までとは違う苦労がありましたか。

山田:プロトの頃は理想を追えばよかったので「あるべき論」で会話ができました。しかし製品化となると、様々なリアリティと戦わなくてはいけません。たとえば「本当にスピーカーは必要なのか?」といった意見もありましたが、refaceのような新しい価値を持った製品が安易にスピーカーを外したら、コンセプトもメッセージも変わってしまいます。その価値がゼロになってしまうかもしれません。ですから守るべき物はしっかり守りました。

デザインや実装の部分ではどんな苦労がありましたか。

勝又:refaceのパネルは上下のケースはすべて同じです。パネルはモデルによってツマミだったりスライダーだったり、またDXのようにLCDがあったりしますが、これらを4モデル共通で使えるように複雑に組み合わせます。使うボス※もモデルごとに違いますし、ボス逃げの穴などもいっぱいあったから4モデル共通に使えるようにするためには、パズルみたいで本当に大変でした。
※ボスとは複数のパーツを組み合わせる際のネジ穴やピンをはめる穴のこと。別パーツと嵌合させる際の位置合わせなどの目的で使われる。

山田:製品化のプロセスでは最後までいろんな変更があったのですが、勝又さんは日々張り付いてくださって、細かい所までよく見てくれました。

勝又:担当デザイナーが開発に張り付くのは当然ですが、とはいえ実際問題としていちいち口を出すのは心苦しい部分もあります。この段階だとデザイナーはもう「やりなおし」としか言いませんので。でも山田さんはよく見せてくれました。

山田:refaceのように研ぎ澄まされたデザインはパーツ一個でも妥協するとなし崩しになってしまうと思ったので、申し訳ないぐらい頻繁に見てもらいました。最初にハードルを高くしておいたので、納得がいくものができたと思っています。

ユーザーへのメッセージ

最後になりましたが、開発者としてrefaceをどんな風に楽しんでほしいと思いますか。

森田:できればソファーにゆったり座って膝の上で弾いてもらいたいですね。スピーカーの角度も膝に載せた位置から耳を狙っているので、いい音で楽しめると思います。

柏崎:僕は休日にはソファーにゴロっと横になって、お腹の上にrefaceを載っけて弾いて楽しんでいます(笑)。究極のリラックススタイル。最高の癒しの時間です。

山田:refaceは電池で駆動できますから、気軽に家の外に持ち出して使ってほしいですね。refaceにはスピーカーがありますから、アコースティックギターのような感覚で楽しめると思います

勝又:プロダクトデザインの立場で言えば、すべての部分がデザインされていて、そこにデザイナーの想いが込められています。refaceは本当にいいデザインに仕上がったと思っていますから、逆に「ここを見てほしい」って言いたくないんですよ。お客さんに発見してもらいたい。YouTubeなどで買った方が演奏している動画なんかを見ると、気が利いた人は横から低めに撮っていて「そう、そこそこ、その角度がいいんだよね」って(笑)。鍵盤のアールにしても、スライダーの形状にしても細部まで気を配ってあるので、ぜひrefaceのカッコいいところ、素敵な部分をたくさん見つけてください。

開発者の作った音源をチェック! Soundmondo