防音まめ知識
見えてきた音の性質
紀元前500年、ピタゴラスは音階の各音を弦の長さが整数比となるように定めました。でも、その特性が測定できるようになったのは最近のこと。音は空気などを伝わって波紋のように広がっていく波動です。その音の波の変化が、音の大きさ、高さ、音色を決めるわけです。
耳は10兆倍!の音を聞き分ける
私たちの耳は、針が落ちた小さな音から落雷の強烈な音まで聞き分けます。これを音のエネルギーになおすと、実に10兆倍もの差になります。また、音の高さでいえば、20ヘルツの低音から20,000ヘルツの高音までを聞くことができます。
度が過ぎれば"音が苦"にも
音の感じ方は個人差が大きいとされていますが、限度をこえた大音響や低周波が人体に及ぼす影響は、決して好ましいものではありません。不快感から難聴へ、また精神的ストレスによって起こる症状の原因にもなります。
距離が3倍になれば音は半減して聞こえる
伝わる音のエネルギーは、距離の2乗に反比例します。
デシベル(dB)は、その音の強さを計量するときの最も基本になる物差しです。
音源からの距離が3倍になると音のレベルは約10dB減ります。
聴感上は、音が10dB減るとほぼ半減して聞こえます。
騒音規制の法律を守ろう
全国の主要都市では、現在何らかの騒音規制が行われていますが、ここでは東京都の例をあげておきます。1970年に「東京都公害防止条例」が施行され、騒音に対する規制基準値が定められました。それぞれの居住区域の時間帯による基準値が決められています。
- 第1種区域(住宅専用地区、文教地区など)
- 第2種区域(住宅地域、無指定地域など)
- 第3種区域(商業地域、準工業地域、工業地域など)
- 第4種区域(繁華街のうち特に指定された地区)
日常生活で感じる音
家の中に侵入する音のルート
外の騒音のうち、飛行機・自動車・楽器の音・人の話し声などは空気を伝わって家の外壁・窓・屋根などから侵入します。
また、地下鉄・大型車の振動などは地面を伝わって基礎・床などから侵入します。
これらの外の騒音に加え、家の内部で発生するトイレの水音・上階の歩行音などが家の構造物を伝わって音波に変わり耳に届きます。
これらの侵入経路ごとに対策をすることが防音の基本となります。
空気音を防ぐには・・・
- (1)防音材はより重く、より厚く
-
壁・床・天井の遮音性能は、使用材料の重量によって決まり、重くて厚いほど遮音性は向上します。
- (2)壁を多重構造にする
-
遮音性を上げるためとはいえ、壁をむやみに重く、厚くするわけにはいきません。そこで、おすすめなのが、壁や窓を二重にする多重構造です。中間の空気層にグラスウールを充てんして、遮音効果を高めます。共振を防ぐため複合材の使用も効果的です。
- (3)ドアや窓のスキ間をなくす
-
ドアや窓のスキ間、換気口など、音の通り道になる箇所を確実にふさぐ(パッキング、コーティング)ことが大切なポイントです。
固体音を防ぐには・・・
- 家の構造を強固にする
軽量鉄骨造や木造の住宅は一般に剛性が低いので構造体を伝わる振動が発生しやすくなりがちです。鉄筋コンクリート造では剛性は高くなりますが逆に遠くまで振動を伝えてしまうことがあるので注意が必要です。
- 床にクッションを敷く
足音や軽量物の落下音が下階に伝わるのを和らげるには、カーペットや木質フロアーの下地にクッション性のある材料(フェルトなど)を敷くのが有効です。
- 浮床で振動をシャットアウト
床と構造体の縁を切ること、つまり浮床構造にすることが、音の侵入を防ぐのに大変効果的です。さらに高度な遮音効果を得るために、床・壁・天井を防振構造として建物から縁切りすることも行われます。
遮音+吸音=耳にやさしい防音
一般に、音を通さないことが防音だと考えられています。しかし、遮音性能だけを高めても、部屋中に反射音がびんびん響いてしまい、生理的な苦痛を感じるようになります。快適な住まいのための防音には、音をはねかえすだけでなく、音を吸収する吸音性能とのバランスが大切です。
優れた音響効果への基本的なアプローチ
部屋の中で音を出すと、耳にはその直接音と共に、天井や壁から多くの反射音が、ほぼ同時に到達します。このように、音の波は減衰しながら何度も反射を繰り返すうちに、室内に響き(物理的な残響)が生じてくるのです。私たちは日頃こうした反射音や残響音によって、いわば味つけされた音を聞いていると言っても過言ではありません。問題は、それが良い音であるかどうかです。一般的に良いと感じられる音には、次のような基本条件が備わっています。
- 直接音が適切な強さ(音量)で耳に届くこと。
- 反射音が音の明瞭度を損なわず伝わること。
- 残響が適度に拡散し、フラッターエコーやブーミングのように歪みをつくらないこと。
ライブかデッドか、それが問題だ
どんな部屋にも、それぞれ固有の音響特性があります。それを「音場」(おんじょう)と言います。部屋の形や素材などによって音の反射や吸収の度合がちがい、音の響き方も大きく変わってきます。部屋の中でポンと手を叩いて、その音が大きくはね返ってくるようならライブ、沈みこんでしまうようならデッドということになります。固い壁や低い天井の部屋は大むねライブで、その典型がバスルーム。四方をタイルなどで囲んだ小空間では、音は減衰せず、やたらに往復反射し、ワンワンと歪んだ響きを作り出してしまうのです。一方、カーテン、ジュータンや本棚などは音を吸収し、部屋をデッドにする要素。しかし例えば吸音材などを張りつめた「無響室」のような特殊な部屋になると、ピアノの音もボソボソと、タイプを叩くような味気ないものになってしまいます。要は、このライブとデッドのバランスを、いかに理想的な姿に保つかの問題です。。
「音場」の善し悪しが音を決める
音楽とまともに向き合うためには、本来それにふさわしい楽器と場が与えられる必要があります。昔から邦楽の世界の背景には、畳、襖、障子の和風の座敷が、西洋音楽の背景には、堅竿な石造りの教会のホールがありました。当然、音が風のようにぬけていく前者はデッドに、音が神の声にように天井から降りそそぐ後者はライブに設定されています。しかし最近は、和風の部屋でも内装が新建材であったり、かなりライブに響くケースも増えてきました。ではピアノの練習には、どんな部屋がいいか。音が生気を失ってしまうデッド・スペースではもちろん困りますが、さりとて響きすぎる部屋で、カラオケのエコーのように音に包まれ、一人よがりの気分で細かい表現がなおざりになるのも困りものです。快適な音場とは、音の反響効果と吸音効果が絶妙なバランスを保ち、人の声や楽器の音色が適度な残響を伴いながら、歪みのない美しく自然な状態で伝わる空間を指しています。
平均吸音率で響きを計る
快適な音場を考えるときの基準のひとつに、楽器ごとの音の特性があります。そのためヤマハは、小空間での「推奨平均吸音率」(室内の響きを表す数値)を楽器別に設定しました。この平均吸音率が小さいほど部屋は残響が多くライブであり、数値が大きいほど吸音されて部屋はデッドであることを示しています。
たとえばピアノでは、0.25~0.37の範囲が最適とされていますが、この基準の中で、響きを重視する場合はややライブよりに、ひとつひとつの音を正確に聞き分けたい場合はややデッドよりに、室内の条件を整えるのがおすすめです。声楽では、響きが自然にかえってくる0.18~0.24の範囲が、心地よい音場と考えられます。管楽器では、音圧が高い金管の場合は吸音率の高い0.27~0.35が、響いた方が望ましい木管の場合は0.23~0.31の範囲が最適のレンジと言えます。一般的にどの楽器の場合でも、響きすぎるライブな部屋では疲れてしまいますし、吸音しすぎたデッドな部屋では音が生きてきません。
※平均吸音率とは室内の響きを表す数値のひとつです。
数値が小さいほど「ライブ」な響く部屋、数値が大きいほど「デッド」な響かない部屋です。
また低音、中音、高音がほぼバランスよく響くことも大事な条件です。とくに低音域は残響時間が長くなる傾向があり、部屋の固有振動(共鳴によるブーミング)を抑えるため、特別な処理と仕上げが必要になります。