粟飯原様邸
調音パネル「ACP-2N」を自宅へ持ち込み、開発担当者とともに調音効果を検証するモニターレポート。CASE1では粟飯原靖司様のお宅に伺いました。フローリング20畳での効果的な設置の様子と粟飯原様ご自身によるレポートをお届けします。
Profile
普段はクラシックやジャズ、フュージョン等の音楽を好んで聴いているという粟飯原さん。自宅はマンションで、広さ20畳のリビングルームにスピーカーやアンプ等の機器を設置している。このリビングルームはもともと2部屋に別れていたそうだが、粟飯原さんは当初からここでオーディオを楽しみたいと考えていたため、オプションで間仕切りを外して20畳のひと部屋にしたのだそうだ。なお、隣にある畳敷きの和室および後方のキッチンとも繋がっている。
音質改善のために試行錯誤中!しかしまだ音質には不満…
粟飯原さんは、主に吸音のためにスピーカーの後ろにカーテンを吊すなど、既に自ら音質対策に工夫を凝らしている。しかしこのカーテンの効果について訊ねてみると、「高音については、多少は良くなったかな、という印象なのですが、正直まだ不満があります。でも自分ではどこがどう悪いのかはわからなくて…」と首をひねった。
まずは調音パネルを設置せず、粟飯原さんが普段オーディオを楽しんでいる状態で音楽を聴いてみることにした。粟飯原さんはいつもリスニングポイントとしているソファに腰を掛け、音楽を再生する。一通りの再生を終えたあと、「ACP-2N」の開発者であるヤマハの本地由和は「私たちとしては、左右のスピーカーの後ろにACP-2Nを1枚ずつ設置するかたちを基本形としていますので、まずはそれから試してみましょう」と提案した。
ACP-2Nの設置完了後、粟飯原さんは先ほどと同じようにソファに座って、改めて音楽を再生した。鳴りだした音をじっと聴いている。果たして聴こえ方は変わったのか?本地は、その後ろに立って、再生音を聴きながら頷いた。
はっきりと変わった高域の響き-パワフルさもグッと蘇った
粟飯原さんは1曲目の再生が終わるなり、後ろに立つ本地を振り向いて「凄いですね!」と嬉しそうな表情を見せた。「本当に聴こえ方が変わるものなんですね!」と、相当驚いている様子だ。
具体的に聴こえ方がどう変わったのかを訊ねると、「高音が暴れていたのがかなりすっきりしました。また、全体的にグッと引き締まった感じです」と笑顔で印象を語った。「しかし、一体どういったところが改善されてこんなに聴こえ方が変わったのでしょうか?」と、粟飯原さんは不思議そうな様子だ。
「実は」とヤマハの本地は語った。「こちらのお部屋の場合、普段から人が住んでいる空間なので、吸音効果のあるソファや家具などが置かれていますから、部屋自体の響きの特性については、最初からそこまで心配ではありませんでした。スピーカーの背後に回り込んでしまう音の処理をきちんとすることが一番の肝だったのです」と明かした。
「背後のカーテンにももちろん吸音が期待できるのですが、カーテンの吸音特性は中高音域が中心で低音域の吸い残しがあったのでしょう。それが今回ACP-2Nを設置したことで、低域がコントロールされ、音場が大きく改善されたのだと思われます」と分析した。
なお、粟飯原さん個人は自身でトランペットの演奏をしていることもあり、高域への効果が一番気になるようだ。粟飯原さんは本地の説明に頷きながら、「高域をより綺麗に響かせる設置方法はあるのでしょうか?」と質問した。
本地は少し考えこむ。そして「若干イレギュラーな置き方かもしれませんが…」とコメントしながら3枚目のACP-2Nを持ち出すと、なんとそれを仰向けに倒して、テレビの前に平置きした。
再び音が変わったテレビ前の平置き-
徹底的に設置バリエーションを試してみる!
状況としては、テレビの前にACP-2Nを平置きにして1枚追加し、計3枚を使用した状態だ。これで改めて音楽を再生してみる。すると粟飯原さんは、女性ボーカルもののジャズを再生しながら、「確かにまた変わりました」と声を上げた。一番気になっているという高域の響き方についてどうか訊ねてみると、「とても良いです。綺麗になりました。スピーカーの後ろに2枚設置しただけでも変化がわかりやすかったですが、真ん中に1枚置くというのも非常にわかりやすく効果が出るんですね」と感心した様子だ。
ヤマハの本地は、左右スピーカーの間に置かれた液晶テレビを指し、「テレビの両サイドにスピーカーを設置している方は多いと思いますが、このテレビの液晶も反射面になっており、再生音に影響します。今回センターにACP-2Nを設置することで様々な効果が出たと考えられますが、その1つはテレビの反射面にぶつかった音がコントロールされたことですね」と解説した。
さて、ここからは様々なACP-2Nの設置スタイルを試していくことにする。まずは、スピーカーの背後に吊されているカーテンの効果を利用してみることにした。テレビの前に平置きしたACP-2Nはそのままで、スピーカーの後方に置いている2枚を、それぞれスピーカーの外側にスライドさせてみる。カーテンとACP-2Nの効果をコラボレーションさせている状態だ。粟飯原さんはオーケストラの演奏音源を再生し、またしても「おお」と驚いた声を上げた。今度は距離感が変わったという。その印象を「例えるなら、プレーヤーと自分の距離が縮まった感じです。音が生々しく、特にフルートの音がグッと近くなりました」と表現した。
続けて、平置きにしていた1枚を外し、左右スピーカーの背部に2枚ずつ設置してみる。計4枚のACP-2Nを使った場合はどうなるのか。音楽を再生するなり粟飯原さんは、「今度は目の前にスーッとステージが広がっていく感じです」とコメント。音に聴き入りながら「この設置の仕方だと、オーケストラの音が混濁することがなく、とても自然に響いてくるようになりました」と述べた。
粟飯原さんの場合、自身で楽器を演奏することもあり、音源を分析的に聴く場合もあるという。粟飯原さんは「この設置の仕方では、音の1つ1つが混濁せずにはっきりと鳴っているので、そうやって分析的に聴くときにも有効ですね」と嬉しそうに話した。
私のACP-2N導入記- 粟飯原靖司さんの場合
モニター体験時には、正直「こんな我流の対策を行っている部屋で大丈夫だろうか」と心配になりました。最初は先入観を抱かないように具体的な説明を受けない状態のまま、オーソドックスにACP-2Nをスピーカーの後ろに1枚ずつ設置して試聴を開始しました。さらに2枚を追加したり、ラックの天板にのっけたりしてその効果を確認しました。また部屋の残響測定をして頂いた際には、理想的な周波数特性であるとのお言葉をいただき、大変うれしく思いました。
さて、以下に、私が個人的にACP-2Nを使用した際のレポートをしたいと思います。たくさんの曲を試聴してみましたが、今回のレポートではその中でも以下の2曲の効果を比較してみたいと思います。
1枚目のCDは、友人のフルーティスト福井恵利子さんのアルバム「eliodarc」より、1曲目『prologueofeliodarc~「Flightforthe21st」』です。フルートとピアノ、ベース、チェロによる演奏です。フルートが歌うメロディーで、これまではフレーズの頂点になると音がキンキンするのが不満でした。
2枚目のCDは、ギュンター=ヴァント、北ドイツ放送交響楽団によるブルックナーの『交響曲第9番』です。この録音は、1988年のリューベック大聖堂によるライブ録音で、教会の残響がとても美しい録音です。録音・演奏ともに私にとって最高の1枚ですが、フルオーケストラでffになる部分で、高音楽器群の混濁したような感じが気になっていました。比較には、3楽章の冒頭部分を試聴しました。
ACP-2Nの設置場所については、試聴位置であるソファーの後ろや、スピーカーの間にあるテレビに被せてみたり、その他いろいろな位置に置いてみましたが、生活空間としての見た目や機能性を考慮した現実的な方法として、以下の3パターンで比較しました。
1)ACP-2Nをスピーカー後方に設置
今まで不満に思っていた高音部分の不満が一気に改善されました。同時に響きも豊かになり、各楽器の一音一音の粒がはっきり聞こえるようになり、さらには奥行きも今まで以上に感じられました。
2)ACP-2Nをスピーカーの横に設置
1)に比べ高音が多少きつく感じましたが、音がぐいぐい前に出てくる感じでした。福井恵利子さんのCDでは、まるで彼女のパワフルな演奏をすぐ目の前で聞いているようで、ブレスも生々しく聞こえました。ブルックナーでは、実際に教会で聞いているように空間が広く感じられました。
3)ACP-2Nをスピーカーの後方と横に設置
4枚も贅沢に使っただけあって、高音域の不満点が改善されたのはもちろん、音の密度が増し、空間が前後左右に広くなったように感じました。
設置位置と曲の組み合わせによっては不自然に音が前に出てくる感じもしましたが、パネル自体が軽いので、設置位置を変えてみることでその辺の調節ができるのも、このACP-2Nの優れている点だと思います。
最後に、これまで私は我流で様々な調音アイテムを試してきましたが、実際にACP-2Nを使ってみて一番驚いたことは、正直オーディオボードやインシュレーター等と同じかそれ以上に効果があったということでした。
(レポート/粟飯原靖司)