おかえり、おんがく。 ヤマハで“もっと”配信&音楽を楽しもう
SPECIAL INTERVIEW
使用者インタビュー
花形楽器としてのプレッシャーを
背負い、打席に立つ
樋口楓と相棒・YTR-850Sの出会い
バーチャルライバーグループ・にじさんじに
所属する樋口楓さん。
2020年にはメジャーデビューを果たし、
アニメタイアップ、ワンマンライブ開催など
アーティストとして挑戦を続ける彼女は、
普段は吹奏楽部に所属する高校生でもある。
ヤマハの「YTR-850S」を愛用しているという樋口さんに、
トランペットの持つ魅力をうかがった。
流行りの曲はわからなかった
音楽やトランペットとの出会い
- 読者の方に向けて、自己紹介をいただけますか?
- でろーんでろーんこんでろーん!みなさんはじめまして、バーチャルライバーの樋口楓と申します。にじさんじという事務所に所属していて、配信や歌を歌う活動をしています。
- 樋口さんと音楽の出会いについて教えてください。
- もともと父と母がドラムをしていたこともあり、いつも音楽が流れているような家庭で育ちました。小さい頃は両親の趣味で、スリーピースのバンドばっかり聴いてたんです。周りの子が「ミュージックステーション」とか見始めて、流行りの曲の話をするようになっても、まったくついていけなかったですね(笑)。
- 楽器経験は、トランペットが最初でしたか?
- 3~4歳の頃からピアノを習っていたものの、左手と右手をうまく同時に動かせなかったんです。小学校2年生のときにクラブに入って、音楽室の倉庫に眠っていたトランペットを初めて吹いたんですけど、トランペットは3本の指で済むんですよね。「なんかこっちの方が直感的にできて楽しい」って感じたのを覚えています。
- それがトランペットを始めたきっかけだったんですね。
- 他にトロンボーンやユーフォニアム、サクソフォンもあったんですけど、トランペットは一番音がわかりやすかったんです。ピアノを弾いていたときから、右手のメロディーばかり暗譜してしまう癖があって。トランペットだとメロディーが吹けるから、「あ、これがいい」と思ってトランペットを選びましたね。
- デビューされてすぐの頃、ジャズについてツイートされていました。ジャズも聴かれるんですね。
- そうですね。吹奏楽部の顧問の先生が「オーケストラ、ジャズ、ファンク、いろんなジャンルを聴いた方がいいよ」といつも仰っていて。よく「これ、家で聴いておいで」ってCDを持ってきてくださるんです。
- スランプじゃないですけど、壁にぶつかってなかなか越えられないときとか、ソロのオーディションに合格できなかったときに、「こういうジャンル吹いたら絶対成長すると思うよ」と教えてくれて、いろいろ聴かせてもらいました。
花形楽器・トランペットの魅力とプレッシャー
- 樋口さんが思う、トランペットの魅力を教えてください。
- 花形と言われるだけあって、聴く側にもわかりやすいですし、小さい頃は発表の場で家族に気付いてもらえるのがすごくうれしかったです。だけど高校の吹奏楽部に入ってからは、クラリネットやサクソフォンに寄り添う場面も出てきて、バンドの中の一人であることを忘れずに吹かなきゃいけないということも学びました。ジャズでは思いきり目立っていいと思うんですけどね。状況によっていろんな表情を持つ、面白い楽器だと思います。
- なるほど、バンドの中で吹く醍醐味でもありますね。
- 一方で間違えたら一番目立つというプレッシャーもあるし、みんなを引っ張っていかなければならない楽器なので、なんとなく「ストイックな人が選ぶ楽器なんじゃないかな」と思ったりもします。
-
初級者の方に向けて、トランペットの練習におけるアドバイスをいただけたらと思っています。
樋口さんご自身が顧問の先生に言われて、大切にしていることなどはありますか? - 参考になるかはわからないんですけど、私が入っている部活では、毎回1時間は基礎練をしています。自分の今のコンディションをわかった上で楽器に臨まなきゃいけない、という考えがあって。楽譜をもらってからはどうしても楽譜での練習をしたくて焦るんですけど、確かに基礎練で口を慣らしておかないと、肝心の合奏でミスをすることもあるんですよね。先生からは「基礎練さえも楽しくなるくらいにならないと」ってずっと言われています。
- それこそいま初級者の方もやっているであろう基礎の部分が、どこまで行っても一番大事ということですね。
- ロングトーンとタンギングは基本的に皆さんされていると思うんですけど、本当に大事ですね……!トランペットって、目立つ場面もあるしファーストでソロの機会をもらえる楽器だからこそ、みんな以上に練習しなきゃいけないなと思います。
- 樋口さんは今、どんなところにモチベーションを感じてトランペットを吹いているのでしょうか?
- ひとつの音楽をみんなでつくっていって、コンクールや定期演奏会でお披露目するときの一体感が大好きなんです。練習だけだったら飽きちゃうかもしれないですけど、そういう発表の場があればあるほど、モチベーションも高まります。VTuberの活動も、次のライブで歌うことを目指すのがモチベーションになっているので、自分の中では通ずるところがありますね。
- 何日も何週間も練習して、本番はたった1回の演奏ですから、緊張や思い入れも強そうです。
- まあ何でも……特にスポーツにもそういう部分があると思いますけどね。甲子園をかけた1試合に向けて3年間頑張ってる野球部の友達もいるので、「その人たちに負けないぐらい頑張らなきゃ!」と、切磋琢磨している感じはあります。それこそ、私にとって吹奏楽はスポーツのようなものですね。
愛用モデル「YTR-850S」との出会いは中学生のとき
- 現在はヤマハのYTR-850Sを使っていらっしゃるとうかがいました。このトランペットとの出会いを教えてください。
- 中学生の頃に、自分のトランペットが欲しくなったんです。それまで部活の備品をずっと使っていたんですけど、全部が全部いいトランペットだったわけではなかったんですよね。たとえば本当に何十年も前のトランペットで、ちょっと臭いがするとか、OBの知らない人が使っていたりすることに、やっぱり抵抗感があって。
- 親に「絶対にトランペット続けるから」「お金もいつか返すから」って相談してみたんです。そうしたら「どうせゲームにお金使うんだから、毎月少しずつ返してみなさい」ということになって、ローンを組むみたいな形で買ってもらいました(笑)。当時毎月3,000円お小遣いをもらってたんですけど、そこから2,000円ずつ引かれる形で。お金の大切さも一緒に学びましたね。
- とはいえ中学生でしたらいろんなことにお金を使いたいでしょうし、正直なところ後悔したりは……?
- 恋人がいたら、もしかしたら「おそろいのものを買いたかった」とか思っていたかもしれないですけど、私は本当に部活バカで、トランペット漬けだったんですよ。だから後悔はしてないですし、今も毎日吹いてるわけではないものの、お守りみたいな存在になっています。
- 本当に思い出のトランペットなんですね。ところで、なぜYTR-850Sを選ばれたんでしょうか?
- 本当は「このモデルは何番管が抜きやすい」とかそういう特性もあったと思うんですけど、当時は説明を聞いてもあんまりしっくりこなくて。結局実際に持ってみて、自分の手のサイズや、指の長さがチューニング管に合ったものを選びました。
- 今となっては、管の太さとか長さとか、自由曲で激しい曲も吹く学校なのであれば鋭い音が出るかとか、自分の吹くクセがわかっているなら、そこを伸ばすのか補うのかとか……総合的に見て選ぶのがいいんじゃないかなと思うんですけど、私の場合はまだ中学生だったこともあって、そこまでは考えられてなかったですね。
- ヤマハ製のトランペットだからこその良さは、どんなところにあると思いますか?
- よく言われてることでもあるんですが、ヤマハさんのトランペットはチューニングが合わせやすいと思います。学校には他のメーカーのトランペットもあったんですが、それらと比べて抵抗感なく吹けました。私はその点がめちゃくちゃ気に入りましたし、同じパートの子に吹いてもらっても「あっ全然違う!」と言っていて。
- ありがとうございます。トランペットの話から少し離れますが、2020年のルームツアーの配信で、 ミキサーにヤマハのAG03を使ってくださっていると話されていました。こちらは現在も使っていますか?
- はい、今も手元にあります。ぱっと見たときにコンパクトだし、私の好きな白色だったので、直感的に惹かれました。周りのライバーや実況者の方も、ほとんど皆さんこのAG03を使ってますよ。歌の収録になってくるとまた別のミキサーを使ってると思うんですけど、AG03はポチっとボタンを押すだけで自分の声をイコライジングしたり、リバーブをかけたりできるので、普段の配信や歌枠では重宝する存在です。
- やっぱり直感的に操作できることは、機材選びにおいて大事ですか?
- 私はミキサーとか何もわからない状態で配信を始めたので、わかりやすさ重視でしたね。複雑な機材は、やっぱり上級者の人しか手を出せないというか。ヤマハさんでは初音ミクちゃんとコラボしているモデルもあったので、いろんな層に向けたデザインや性能の機材を揃えている印象もありました。
次元の壁を超えて、学生のみんなと一緒に演奏してみたい
- 樋口さんはシンガーとして活躍されつつ、曲の収録ではトランペットを担当されることもあります。
トランペットのレコーディングは、ボーカルのレコーディングと比べて、どんな違いがありますか? - ボーカルの場合は、たとえばディレクターやエンジニアさんから「ここしゃくってるけど、今度は変えてみよう」というようにディレクションを受けながら、調整していくことができます。でもトランペットって、無意識にやっていたクセを瞬時に直すってなかなかできないんですよね。練習の結果をその場で吹いてみて、出たとこ勝負になるイメージです。
- それに口が疲れてきたら吹けなくなるので、限られた時間でいかに集中するかが大事だと思います。ボーカルは4~5時間レコーディングすることもあるんですけど、トランペットを4~5時間吹けって言われたら、私はたぶん無理なので。
- あまり長く吹いていると、逆に良いパフォーマンスができなくなってきてしまう、と。
- はい。だから私がトランペットをレコーディングするときは「この一回で全部終わらせなきゃ!」という気持ちで録ってます。といっても、私は伴奏を全部吹いているわけではなく、自分の曲のソロだけとか、ある程度ピンポイントのフレーズでしか録音したことがないんですよ。それだけでもこんなにプレッシャーを感じてるのに、プロの方は一体どんなメンタルをしていらっしゃるんだろう……と思います!
- 初のオリジナル曲「Harmony!!」では、フルバージョンのリリース時にご自身のトランペット演奏が追加されました。
こちらのレコーディングのときのことは覚えていますか? - あれは家で録ったんですよ。だから緊張はあんまりしなかったんですけど、一人でやっているぶん、ちゃんと楽曲になじむかなっていう心配の方が大きかったです。実物のトランペットって、やっぱり打ち込みのトランペットと比べると音色も息づかいも全然違うから。
- デビューから約4年が経ちましたが、トランペットとの向き合い方も含めて、樋口さん自身の中で変化した部分はありますか?
- もともと私、だいぶ神経質なほうだったんです。それこそトランペット担当らしくすごくストイックに、口にたこができるまで練習ばかりしていて。
- でも配信活動を始めて、お客さんに楽しんでもらうことも大事だけど、何より自分が楽しんでる姿を提供しなきゃダメだということに気付きました。スカやファンクバンドのトランペッターの方も、めちゃくちゃ楽しそうにソロやアドリブを吹いてらっしゃるんですよね。今まで「これが格好良い」と他のジャンルを知ろうとせず吹奏楽をやっていたところに、「あ、こういう格好良さもあるんだ」と感じることが増えました。
- 人を楽しませるためには、まず自分が楽しまないと、ということですね。
最後に、これから樋口さんがやってみたいことがあれば教えてください。 - 昨年7月末のライブでトランペットを吹いたら、いろんなファンの方々に「バーチャルライバーがトランペットを吹く時代が来たのか」「じゃあいつかバーチャルライバーが吹奏楽やバンドをやるのを見られるかも」ってワクワクしていただいたんです。私たちの活動は高校生や中学生の方も見てくださっていますし、どこかの学校と一緒に演奏できる機会がいつか来たらいいなとは思っています。
2021年7月のライブでのトランペットの使用の様子(にじさんじ AR STAGE "LIGHT UP TONES"より)
2次元と3次元ってどうしても壁があるので
難しいかもしれませんが、
「音楽だったら通じ合える」って
私は思っているんです。
いつかみなさんと一緒に、
音楽ができる日を楽しみにしています!
取材・文/ヒガキユウカ
画像/大竹真以
PICK UP
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