礒 絵里子

スペシャルインタビュー

「初めてのソロのCDができました。小さい頃からのヴァイオリン修行の中間報告(?!)です。」と「踊る人形/DANCING DOLL」を昨年12月にリリースされた礒絵里子さん。多彩な活動に加え機知に富んだ1人の若き女性としての素顔をのぞかせていただきました。

-本日は、お忙しい中、ありがとうございます。今回リリースされたCDですが、本当に素敵ですね。リーフレットの写真やエッセイも、とてもお洒落で印象的です。

礒氏(以下I 氏) / ありがとうございます。


-クラシックのファーストアルバムは、音楽評論家が解説するのが一般的ですが、今回のCDでは礒さんご自身が解説されていますね。何か特別なご意思があったのですか?

I氏 / 最初は、池田さん(注/日本経済新聞社文化部編集委員、池田卓夫氏)がエッセイとともに解説も書いてくださることになっていたのですが、「やはり自分で書いたほうがいいんじゃないか?」とアドヴァイスして下さり、文章を書くのも好きなので、がんばってみようかなと。締め切りがギリギリだったので、夜中に頑張って書きました(笑)

「踊る人形/DANCING DOLL」ビクターエンタテイメント
「踊る人形/DANCING DOLL」
ビクターエンタテイメント 
VICC-60421
2,900円

-エッセイのようで音楽の情景が浮かんできますね。

I氏 / ありがとうございます。せっかく自分で書くなら、「この曲が何年何月に作られたのか」というよりも、「どういう気持ちで弾いているのか」ということに重点を置こうと思いました。


-木村太郎さんがメッセージを寄せられていますね。木村さんとはお親しいんですか?

I氏 / はい。留学中に一時帰国していた時期があるんですが、そのときに木村太郎さんのパソコン教室に通っていました。留学先でネットが使えると便利だろうと思って習っていたんです。その頃から木村太郎さんに応援していただいています。

-選曲はどういったお考えを持ってのぞまれたんですか?

I氏 / ファーストアルバムということで小品集にしようということになりました。ありきたりな名曲が並んでいるようにはしたくなかったのと、昔からオイストラフ、ミルシティン、フランチェスカッティなどの演奏が好きでしたので、ああいう巨匠たちがよく弾いていた曲を中心に、自分が好きな曲を集めました。


-クライスラーやハイフェッツのアレンジもとても素敵ですね。今野均さんや阿部篤志さんによるアレンジは今回のアルバムのためにおこされたんですか?

I氏 / はい。そうです。


-録音の際にバイオリンを使い分けられたと伺ったのですが?

I氏 / はい。古き良き時代のSP盤の音に憧れたということもありますし、ある方がアマティ(※1)を持っていらっしゃったんですが、それがすごく甘くてクライスラーのような小品に合いそうな音をしていまして・・・。それで、「今回のアルバムのために、もしお借りできたら」とお願いしたら貸してくださったんです。それと自分の楽器もものすごく好きなので、曲によって弾きわけました。

※1 アンドレア・アマティ(Andrea Amati 1511頃-1580頃)を始祖とする、イタリア・クレナモ一族の名前。

 


- 一般のクラシックファン以外の方にも自然に聞いていただけるアルバムですね。

I氏 / 自分だとよく判らないんですけど、みなさんがよくご存知の曲もありますし、「こういう曲もあるんだ」と思っていただける曲もあります。耳を澄ませて一生懸命聴いてくださるのも嬉しいですし、何かしながら聴いてくださるのも良いかなと思います。この3月11日に東京・紀尾井ホールで CDリリース記念のリサイタルも行いますので、ぜひ、みなさんにいらしていただきたいです。

-ぜひ、伺います!次に、礒さんがバイオリンをはじめられたきっかけを教えてください。

I氏 / あまり覚えていないんですが、確か最初はヤマハの音楽教室でエレクトーンをやっていたと思います。マグネットで音符を覚えたりするのって、ヤマハですよね? それから4歳でピアノを習い始めて、バイオリンは5歳のときに自分から習いたいと言い出したみたいなんです。従姉(注/神谷未穂さんのお姉さま)が居まして、私より8歳年上なのですが、彼女がバイオリンを弾いていたのに影響を受けたのだと思います。


-桐朋に行かれるとなるとエリート英才教育というイメージがあるのですが、バイオリンの道を自分の職業にしようと認識されたのはいつごろですか?

I氏 / 「よし!プロになるぞ」と思っていたわけではなかったです。小学校の頃は練習が大嫌いでした。いかに練習するか、しないかで親と駆け引きしていました(笑) でも、バイオリンをやめようと思わなくて、漠然と「バイオリンを続けていくんだな」とは思っていました。現実的にプロになりたいと思うようになったのは高校に入ってからです。

ヤマハカーボン弓を試奏する礒さん「フロッグがカッコイイ!吸い付きがよくて、パワーもあって弾きやすい弓ですね。」

-ブリュッセルに留学されていますね。留学先をベルギーにされたきっかけは?

I氏 / オイストラフ先生が日本にいらした時に、レッスンを受ける機会がありまして、間近に先生の音を聞いて感銘を受けました。その当時、先 生はドイツに住んでいらっしゃったのですが、次の年に「今度の秋からブリュッセル教えることになったけれど、よかったら来ないか?」というお誘いのお手紙 を頂きました。それで、絶対に行きたいと思いました。


-不安はありませんでしたか?

I氏 / ベルギーはどんな国なのか、どこにあるのかも知らなかったので、不安は不安でした。ベルギーは公用語がフランス語とフラマン語なんで すが、ブリュッセルは両方とも公平に使われていて、道を歩いていても、通りの名前が2つ書いてあるし、王立音楽院まで2つのシステムがあるんです。カリ キュラムも学費も学長さんも、それぞれ違っていて・・・。面白い国だなと思いましたね。


-ベルギー留学中にスペインのマリアカナルス国際コンクールで入賞されていますね。他に留学中のユニークなエピソードはありますか?

I氏 / うーん・・。下宿先でねずみと戦ったことがあります。高熱を出して寝込んでいたときに、夜中に起きて、ジュースを飲もうとし て・・・。スタンドに明かりをつけたら足元にねずみが居て(笑)わたし、ねずみ大嫌いなんですよ!!前の住人が置いていった洗面器にねずみをかぽっと閉じ 込めて、そのままズリズリと外に引きずって追い出しました(笑)

  デュオ・プリマ(左は神谷未穂氏)写真提供:ミリオンコンサート
デュオ・プリマ(左は神谷未穂氏)
写真提供:ミリオンコンサート

-日本に帰ってらっしゃってから、神谷未穂さんと「デュオ・プリマ」としての活動をなさっていますね。神谷未穂さんは従妹でいらっしゃるんですよね?

I氏 / 彼女とは家も近所で姉妹のように育ちました。ふたりで弾くのは小学生くらいの時からです。途中、留学などでブランクもありましたが、一緒に弾く機会は多かったですね。


-以前にファーストアルバム「カスタ・ディーヴァ」が発売されましたが、次のアルバムもすでに収録を終えられているんですよね。どんな曲が収録されているか教えていただけますか?

I氏 / カルメン、椿姫、ロスマリンといった「女性」を現していたり、「女性」が題名についていたりする曲ばかりを集めました。いろんな「女性」を私たち二人が演じていくというコンセプトです。6月頃に発売の予定です。

-とても楽しみにしています。さて、礒さんには、去年、紀尾井ホールで開催されたヤマハバイオリン・アルティーダの発売記念コンサートに、ご出演いただいたのですが、新作バイオリンを弾かれた経験というのは?

I氏 / 新作バイオリンを弾いた経験は、あまりなかったので、この機会に初めてしっかり向き合ったという感じです。

 アルティーダ発売記念公演より ~12人のスーパーバイオリンアンサンブル2004~
アルティーダ発売記念公演より
~12人のスーパーバイオリンアンサンブル2004~

-アルティーダを弾かれてみて、いかがでしたか?

I氏 / すごくバランスが良いですね。それから新作なのに、最初からしっかり大きな音が出せるので驚きました。みなさんが安心して選べる楽器ですよね。

-アルティーダはヤマハ独自の「弾き込み加速技術」を駆使しているので、音が出しやすいと思います。

I氏 / それから、このコンサートでは、いわば兄弟みたいな楽器を12人で一緒に弾くのも面白いと思いました。普通はありえないことなので。


-「兄弟」といういう表現方法は、まさにその通りですね! 礒さんは2年前に六本木のスイートベイジルでのライブでサイレントバイオリンも弾かれていますね。

I氏 / ええ。ライブハウスでやるコンサートは、あれがはじめてだったんです。ああいうアコースティックな面で響かず、マイクを通す必要がある時に、サイレントバイオリンは良いなと思いました。同じくシーケンサーやエフェクターなどを使い、普段やったことのないことにたくさん挑戦できて楽しかったです。昨年の12月には三重県の鳥羽国際ホテルのクリスマスコンサートでもデュオ・プリマとして神谷未穂と一緒にサイレントバイオリンをフィーチャーしました。

-クラシックの場合はコンサートホール独自の響きと楽器が一体になりますが、ライブハウスの場合はPA音響と楽器が一体になって一緒にやらないとお客様に良い音は提供できないですしね。そして、そこに照明演出が入るととても効果的ですし、ドレスも映えますね。ポピュラースタイルならではのコンサートの楽しみ方がありますね。ところで、礒さんの衣装は私服を含めて、いつも素敵でセンスが良くてらっしゃいますね。ショッピングなどもお好きなんですか?

I氏 / はい。ショッピングは好きですね。服の組み合わせを考えるのも好きですし。


-他のご趣味や、いつもの休日の過ごされ方を教えてください。

I氏 / 読書が好きです。とにかく字が書いてあれば何でも読みます(笑)今は、塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読んでいます。休日は疲れているときはダラダラと部屋にいますが、そうでなければ友達とご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったり、ドライブしたり。あとは温泉に行くのも好きですね。

-礒さんは文章を書かれたりするのもお好きですし、エッセイなどのご活動も広がりそうですね。ご自身のHP も楽しく拝見させていただいています。最近は大人になってから趣味でバイオリンをはじめられる方も増えています。ぜひ、そんな方々に礒さんからメッセージをいただけますか?

I氏/実は私の叔母も、最近バイオリンを始めたんですけれど、お正月に披露会がありまして(笑)やはり、弾くのは楽しいねっていう話になりました。ですから、やはりバイオリンは「楽しいな」と思ってレッスンをやっていただきたいし、歌心を忘れずに頑張って欲しいですね。技術にだけとらわれずに、音楽を皆に伝えようとするとリラックスできると思います。


-本日はどうもありがとうございました。今後のますますのご活躍をお祈りしています。

All Photos by KOBAYASHI Yow