エレクトリックバイオリン YEVシリーズ
――新モデルを手にしての第一印象は?
中西:木を活かしたデザインがユニークですね。杢目もきれいだし、お客さんやテレビ・カメラに、どの角度から観られても、ディテールまでこだわった美しい造作で、演奏するのを楽しみにしていました。
――演奏感はいかがでしたか?
中西:僕は今回、5弦モデルを使いましたが、ネックもそれほど太くなく、カーブもちょうどいいので、とても弾きやすいです。一般的なバイオリンで使う肩当てや顎当てが取り付けられるというのもいいですね。こうした楽器をリペアの体制もしっかりしているヤマハが、手頃な価格で販売するということは、日本の音楽文化にとっても、とてもいいことだと思います。これまで5本ほど試奏しましたが、個体差も少ないので、初めて買う方にとっても、大きな安心材料になるでしょうね。
―― エレクトリックバイオリンが初めての方ですと、ボディがないことへ不安があるかもしれませんが、その点はいかがですか?
中西:クラシック奏者の方だと、デザイン面から精神的な違和感は大きいかもしれませんが、楽器を構えて目を閉じると、身体に触れる部分での感覚は、アコースティック楽器とほとんど変わりません。あとは、アンプから音が鳴るという点は、慣れが必要になるでしょう。ただ、たとえるならアコースティック・ピアノとシンセサイザー、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターも、音の出方はまったく違うし、表現方法も変わりますが、“弾く”という点では同じです。そういう感覚で捉えながら、「バイオリンの代わりではなく、まった新しい楽器」と考えて、自分ならではの音色や奏法を生み出そうという意識で使うと、とても面白い楽器ですよ。
――音作りの面で、エフェクターの活用はポイントになると思いますが、初心者は、どういった物から使うのがオススメでしょうか?
中西:まず、音を鳴らすアンプが必須で、そのアンプにリバーブが内蔵されているとすると、最初はイコライザーがいいと思います。これで、キツいと感じる高域を抑えたり、低域をより豊かにしたりといった音作りをするだけでも、かなり楽しめるはずです。次に、広い空間で弾いている気分になれるディレイ、派手な音にしたければディストーション、さらに、ハーモナイザーがあれば、ひとりで和音を鳴らしたり、オクターヴ・ユニゾンも弾けます。こうしたエフェクターはもちろんですが、ルーパーを最初に買うのもいいでしょうね。演奏をどんどん重ねてくパフォーマンスは面白いですし、録音した自分の演奏が繰り返しループ再生されるので、普段は気付きにくいピッチやリズムを客観的に確認できて、演奏の上達にも役立ちます。
―― そういった楽しみ方こそ、エレクトリックバイオリンの醍醐味ですね。
中西:そうなんです。クラシックの世界だと、先生がいて、模範となる名演奏がたくさんあるので、「楽器を習う」という感覚が強いと思いますが、この楽器は、「何をやりたくて、どんな音色を鳴らしたいのか」という点が一番大切です。ぜひ、アグレッシヴにエレクトリックバイオリンの活かし方を研究して欲しいですね。あと、少し専門的な話になりますが、この楽器はピエゾ・ピックアップの信号がそのまま出力される“パッシヴ型”です。僕のように、プリアンプとの相性を考えたり、最終的な出音までコントロールした人は、とことんこだわれるプロ仕様です。ただし注意してほしいのは、このピエゾ出力はインピーダンスが高いので、それに対応したアンプなどの機器に接続しないと、この楽器が持つ本来の音が鳴らせません。間違った使い方をして、「エレクトリックバイオリンって、この程度の音なのか」と誤解されてしまうのは残念ですので、この点は、充分に気を付けてください。それさえ注意してもらえれば、エフェクターと組み合わせることで、燃え滾る火の中を表現したり、冷たい氷の世界の響き、あるいは壮大な草原のような音色など、本当に振れ幅の大きな演奏表現が行なえます。弾いていると表現したいことが次々と出てくる、そんな魅力がこのエレクトリックバイオリンにはあります。ヤマハは、サイレントバイオリン™も発売していますが、もうひとつの選択肢として今回のバイオリンが加わったことはうれしいですね。
中西俊博 PROFILE
1956年東京都出身。東京藝術大学卒業。85年のデビュー以来、クラシック、ジャズ、ポップス、プログレッシブ・ロックなど多様なジャンルを表現するヴァイオリン奏者として音楽界の第一線で活躍。ステファン・グラッペリ(vln)との共演、フランク・シナトラ(vo)、ライザ・ミネリ(vo)、クインシー・ジョーンズ(comp)のコンサートでソリストやコンサートマスターを務めるなど、来日アーティストとの共演も多い。今年2016年、デビュー30周年を迎える。
オフィシャル・サイト=http://couleur.bz/